第298話 一生懸命!

 仕立てた服を渡していないのはライラだけなので連絡をすると、魔法の練習中だと言うので練習している場所まで行くことにした。

 練習している場所に着くと、ライラの隣に見覚えのある奴がいる。

 一度、俺に敗れて明日の冒険者ギルドの昇級試験官でもある魔法士のコスカだ。

 練習の内容は、魔法の命中率を上げる練習をしているみたいだ。

 邪魔にならないように、暫くその様子を見ているとライラより先に、コスカが俺に気付いた。

 コスカは、ライラに俺がいる事を教えたのだろう、練習を中断してふたりして俺の所まで来る。


「練習の邪魔だったか?」

「ううん、大丈夫だよ」


 少し息を切らしながら話している。


「ライラ、これ頼んでいた服だ」

「お兄ちゃん、ありがとう」


 服を渡すと大事そうに腕で包む。


「明日は、絶対に負けないからね!」

「……明日は試験だから、勝ち負けじゃないだろう?」

「そうだけど、勝ち逃げは許さないわよ」


 コスカが挑戦的な態度で俺に話し掛けてきた。

 俺に負けたのが相当悔しかった様子だ。


「ライラを指導してくれて、ありがとうな」


 一応、コスカに礼を言っておく。


「最強魔法士になる予定の私が教えてあげてるんだから、感謝しなさいよ」


 相変わらず口が達者だ。

 しかし、冒険者ランクSの実力は持っている事は事実だ。

 教え方はどうか分らないが、ライラにはいい経験になっているだろう。

 ライラ達は、このまま休憩に入ると言うのでコスカに「明日はヨロシク!」と声を掛けて去ろうとすると、殺気の籠った視線を感じたので咄嗟に視線の先に、顔を向けると殺気は無くなったが、人影を確認した。

 但し、人数まで把握は出来なかった。こちらから仕掛ける事も可能だが、殺気も無くなったので暫く見ていると、人影は建物の奥に消えて行った。

 殺気は明らかに俺へ向けられていた。恨みを買うような事はしていないと思うが……今までの経験上、無意識に敵を作っていた可能性も否定出来ない。

 俺や周りの者に危害が無いのであれば、今回は静観する事にするが次は、正体を確認して目的を聞き出す事にする。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルーカス達の所に戻ると、王妃であるイースとユイが打ち合わせをしていた。

 マリーに話を聞くと、ルーカスとヤヨイは既にある服をアレンジしたデザインした為、スグに決定したみたいで、ユキノは俺がデザインを決めてくれればいいと、詳しい打ち合わせさえしていないそうだ。

 何着かは決めていなかったので、マリーが機転を利かせてひとり二着としてくれた。


「悪かったな」


 マリーに詫びを入れる。


「タクトに任された以上、信頼を損なうような事は出来ないからね」

「そう言ってくれると、本当に助かるな。ありがとうな」


 素直に礼を言ったのが意外だったようで、照れているのかマリーは目線を逸らした。


「仕立て料も適当に決めているだけなので、市場と比べて少し高め位の設定でいいからな」

「分かったわ。国王様や王妃様に今御召しになっている服の仕立て料等を聞いてみるわ」

「そうだな、それ金額の五倍くらいでいいぞ。価格は俺達の言い値になる筈だからな」

「確かにアラクネ族の製品であればそれ位して当然よね……」

「最初は安めで売ってもいいが、特別と言う事を強調して、次回からは適正価格と言う事にするしかないな」

「そうね、交渉は出来る限りしてみるわ」

「王族相手だからといって、向こうの言いなりになるなよ」

「大丈夫よ。私には王族よりも、やっかいなタクトを相手にしてきているからね」


 褒め言葉なのか、皮肉なのかが分からない……

 ユイとイースに「まだ時間が掛かるのか?」と聞くと、イースが「次から次へと新しいデザインが浮かんでくるので……」と申し訳なさそうに話すので、一度持ち帰ってユイがデザインしてくる事にする。

 ユイにはイースの服のイメージを再度確認する事を伝える。

 イースも意見を惜しみなく言うので、ユイも混乱しているのだろう。

 ユイならイースの期待に応えられるデザインを提案するので問題ないだろうと思っている。


 ルーカスやイース達に、ユイに伝え忘れた事が無いかを確認する。

 イースは、思いついた事があればユイに連絡するから問題ないと言っていたので、ミラ同様に直接連絡できるようにユイに頼んだのだと分かった。

 多分、マリーも同じだろう。

 追求すると面倒臭いので、敢えて聞かずにおく事にして、ふたりをジークに送り届ける。

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