第288話 女心!

「お疲れ様でした」


 撮影を終えた俺に、リベラが飲み物を持ってきてくれた。

 ユキノはまだ着替えている。


「まさか俺が、撮られる側になるとは思わなかったよ」

「撮られる側に気持ちが分かって、良かったですね」

「リベラも、撮られる気持ちを知りたいのか?」


 俺の言葉に、リベラは顔を真っ赤にして何も言わずに去って行った。


「御主人様、少しは女心を分かって下さい!」


 シロが現れて、俺に話し掛けてきた。


「……俺、なにか変なこと言ったのか?」

「はい、今の御主人様の言葉は、リベラさんはトグルさんと一緒に撮りたいのか? と聞いたのも同じです」

「……あっ!」


 リベラとトグルの間で、お互いが照れて微妙な空気になっている時期に、俺の言葉は確かに無神経だったかも知れない。

 これは詫びも含めて早々に、トグルとリベラの仲を取り持つ必要がある。


 クロを呼び、シロとふたりでトグルとリベラの仲を取り持つ計画を練って貰うことにする。

 基本設定は、以前に俺が考えたリベラが攫われて、トグルが助けるという王道パターンだ。

 マリーにも話はしてあるので、後で三人で打ち合わせをするように頼む。

 他に良い案があれば、変更案でも良いと付け加えておく。


 ユキノの着替えが終わり、マリーと戻ってきた。

 マリーには、シロとクロに伝言を伝えておいたので聞いておいてくれと言う。

 何のことか分かっていない様子だったが、「分かった」と言葉を返してくれた。


 ユキノは上機嫌で笑顔のままだ。

 ユイには「外出してくる」と伝えて、外に出る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 街をブラついているがユキノが王女だと気付くものはいない。

 王女が、平民の服を着て街の中を歩いているなんて思ってもみないだろう。


「気に入る服などを、ちゃんと見ておけよ」


 ユキノに平民用の服を仕立てる為、デザインを決めるように話す。


「タクト様の気に入る衣装であれば、どれでも良いですよ」


 ユキノからの回答は完全に俺任せだ。

 歩いている途中で冒険者や、知り合いに会うがユキノを見て「デートか?」と冷やかされる。

 その度に、ユキノは嬉しそうな表情をする。

 傍から見ればデートに見えるのは仕方ないとも思う。


「タクトさん、もう帰って来たんですか?」


 鑑定士のカンナが話しかけてきた。


「一時的に戻って来ただけだ。師匠のターセルにも会ったぞ」

「師匠は元気でしたか?」

「あぁ、見た目的には元気だと思うぞ。どうなんだユキノ?」


 普段のターセルが分らないので元気としか答えようがないので、ユキノに聞いてみる。


「はい、いつもと変わり無いですよ」

「……えっ! もしかし」


 カンナが何を言おうとするか分かったので、右手をカンナの前に出して「お忍びだ!」と伝えると静かに頷く。

 カンナは頭を下げてユキノに非礼を詫びるが、いつも通り「気にしません」と答える。


「カンナの贈り物も喜んでいたぞ」

「そうですか、それは良かったです」


 カンナに贈り物が喜ばれている事を報告すると、嬉しそうだった。


「品質は、タクトさんが用意してもらえた最高級品ですからね」

「あぁ、国王にも作ってくれと頼まれたぞ!」

「そうなんですか! 分かる気はしますけどね。私も着た瞬間に欲しかったですから」

「忙しいから断ったけどな!」

「えぇ~!」


 カンナは国王の頼みを断った事に驚いていた。


「国王様の頼みを断るなんて、相変わらず怖い者知らずと言うか常識外れですよね」

「そうかもな!」

「先程のドレスと同じ素材なのですか?」


 アラクネ製作の服を知らないユキノが質問してきた。


「そうだ、着心地抜群だろう!」

「はい、素晴らしかったです。御父様が欲するのも、よく分かりました」


 ユキノはひとりで納得している。


「……ドレスって、ウェディングドレスの事ですか?」

「そうだ、さっき試着して撮影してきた」

「もしかして、タクトさんはユキノ様と御婚約されたのですか?」


 カンナの言葉にユキノは嬉しそうに照れている。


「違う、試着しただけだ」


 俺が、あっさりと否定するとユキノは悲しそうな表情をしていたが、事実を言っただけだ。


「そうですよね。タクトさんがいかに非常識とはいえ、そんな事ある訳ないですよね」

「私は、タクト様をお慕い申し上げております」

「えっ!」


 ユキノの発言で、色々とややこしい展開になってきたので、話題を強制的に変える事にした。


「ここら辺で、腕の良い仕立て屋を紹介してくれないか?」

「別に構いませんが、タクトさんが仕立てるのですか?」

「違う、ユキノのお忍び用の服を作るだけだ」

「タクトさんなら、例のアラクネの糸を使って仕立てれば良いのに、なんで街の仕立て屋に頼むのですか?」

「あっちは色々と忙しいし、そんなに着る機会も少ないだろうから、街で仕立てる事にした」

「そうなんですか、ただ納期はかなりかかると思いますよ」

「なんでだ?」


 カンナから理由を聞くと、孤児院の子達の服を仕立てている為大忙しだと、仕立て屋の店主と話をしていた際に聞いたそうだ。

 忙しい原因を作ったのも俺か! 急ぎでは無いが、困ったな。


 カンナとユキノに少し待ってて貰いアラクネ族のクララと連絡を取る。


「タクト、久しぶりね。順調に服は出来ているからいつでも取りに来ていいわよ」

「そうか、急ぎで普通の服を依頼したらどれ位で完成する?」

「人族の普通の服であれば、半日あれば余裕で完成するわよ。作って欲しいの?」

「頼めるか?」

「勿論、良いわよ。作る服も無くなって来たので暇な子達も居るから大歓迎よ」


 ……忙しいと思っていたのは俺だけなのか?


「あっ、それと魔王就任おめでとう!」

「あぁ、ありがとう。因みに、クララ達の服をエルグラードの国王が気に入って着たいと言ったらどうする?」

「別に構わないわよ。当然、タクトが責任持つんでしょ?」

「勿論だ、何かあれば俺の責任で構わない」

「それなら、問題無いわ。報酬は珍しい物を期待するけどね」

「出来る限り要望には応えるが、出来れば鏡のように欲しい物を言ってくれると、俺としては助かる」

「分かったわ。考えておくわね」


 クララと【交信】を切る。

 とりあえず、服を取りに行かないといけない。


「待たせたな、仕立て屋の件は俺の方で何とかなりそうだ、悪かったな」

「いえいえ、気にしなくて大丈夫ですよ」


 カンナに別れの挨拶を言って、別れる。


 仕立ての件は、クララ達に頼むことになるがデザインについては『平民の服』と言っても、クララ達には通じない。

 ユイにデザインを描いてもらうしか、上手く伝える方法が思いつかない。

 仕方ないので、戻ろうとすると見覚えのある子供が俺に寄って来た。

 孤児院にいた子供だ。


「坊主、ひとりで来たのか?」

「ううん、サーシャお姉ちゃん達と一緒だったけど、どっか行っちゃった」


 ……迷子か。


「分かった。一緒にサーシャを探すか」

「うん!」


 俺は迷子の子を肩車して「サーシャが見えたら教えてくれよ」と話すと「うん!」と返事をした。

 暫く、街の中を探してみたが見当たらない。

 サーシャも、この子を探している筈なので、心配しているだろう。

 子供は徐々に不安になって来たのか、俺の頭の上で泣き始めた。

 仕方ないので肩車を止めて、路肩にある石に座り話をするが泣き止まない。


「大丈夫ですよ。必ずお迎えは来ますから」


 ユキノは優しく迷子の子供に話し掛ける。

 それからも子供が不安にならないように、優しい口調で話し掛けている。

 丁寧語が使えない俺には出来ない事だ。

 とりあえず、フランに連絡を取って、迷子を孤児院まで送る事をサーシャに伝えて貰うよう頼む。

 フランとの【交信】を切ると、子供は疲れてしまったのかユキノの膝枕で寝てしまっていた。


「起こすのも可哀想だな」

「そうですね」


 ユキノとふたりで通行人を見ている。


「こうして、街の人達を見る機会が無いので新鮮です」

「そうだろうな、城のように優雅な世界では無いからな。皆、生きて行く為に必死だ」

「そうですね、申し訳ない気持ちになります」


 そう言いながら、膝の上で寝ている子供の髪を手櫛で梳いていた。

 通行人もユキノの存在が気になるのか、チラチラと見ている者達が居る。

 爆乳で美人だから、気になるのは仕方ないだろう。

 この街での俺の事を知らない奴は居ないから、隣に俺が居るので誰も声を掛けない事も分っていた。

 知り合いや冒険者達も、見て見ぬふりをしてくれてるが明日になれば妙な噂が立っている気もする。

 数十分後、子供が目を覚ますが、まだ眠そうだったので、俺がおぶって孤児院まで連れていく事にする。

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