第268話 第二回ビンゴ大会!

 皆が料理を殆ど食べ終わっているようだったので俺は、ビンゴ大会の用意をする。

 前回用意した数字の書いてある玉が入った箱を【アイテムボックス】から出す。

 村人に板を一〇枚と木材を用意してもらい「一」から「五〇」までの数字を板に書く。

 それを組み立てて、皆が見えるように立て起こす。


 余った板を、何枚かに切断して皆に配る。


「今回はルールを少し変える。 この中から好きな数字を三つ選んで書いてくれ!」


 初めての王族達に、村人が丁寧に教えている。

 王都にいる者達には信じられない光景だろう。


「因みに、ズルしても分かるからな!」


 本当は分らないが、この村にそんな事をする者等いないと、俺は信じている。


「皆、用意は良いか!」


 木札を持つ手を大きく上げる。


「第二回ゴンド村ビンゴ大会を開催する!」


 俺の始まりの声と共に、村人達から「ドンドンパフパフ!」と掛け声があがる。


 あいかわらず、この掛け声が定着しているのか……


「一位は、この中から好きな物を選んで持って行ってくれ! 二位は残った景品から選んでくれ。 三位は残った景品になる」


 景品選びの簡単な説明をする。


「じゃあ、最初の数字は……」




 今回の一位はユキノで、景品はスノーボアを選んだ。

 二位は、ターセル。 景品はワイルドターキーを選んだ。


 ふたりの商品は、一旦俺が預かり、王国料理長のビアーノに渡す事になった。


 三位は、前回一位のナタリーだった。 景品のコカトリスの卵は、村人皆で食べて欲しいというので、今度調理して持ってくると約束をする。

 アルとネロは、リーチさえも出来ていなかった。


「残念だったな」


 落ち込むふたりに声を掛ける。


「妾には、これだけが楽しみだったの……」

「そうなの~、一位になりたかったの~」


 思っていた以上に落ち込んでいる。

 もっと手軽に遊べるゲームがあればいいのだが……


「家が建つ頃には、違う遊びを考えておくから、楽しみにしていろ」

「本当か!」

「やった~なの~!」


 元気が戻ったみたいで、ふたりして楽しそうに走っていった。

 魔王とはいえ、見た目は小学生なので、やはり元気な姿の方が気分が良い。


「この村は、毎回こんな祭りを開いているのか?」


 アル達が走り去った後、ダウザーとミラが俺の所に来る。


「今回で、二回目だがチャンスは皆が平等にあった方が、面白いだろう?」

「それはそうだが、この村の人々は本当に楽しそうだな」

「ダウザーから、そう見えているのなら、そうなのだろう」

「それよりも、ここに来てからは素の喋り方になっているが、いいのか?」

「この状態で、平然を装えるほど神経が強くないしな。 それに肩の荷を下ろすのに、この村は丁度いい」

「そうですね、最初こそ緊張していましたが、今は私にも昔から住んでいる村人のように接してくれていますし、楽しいですわ」


 ふたりとも、満足している様子だ。


「タクトと話をしたい奴がいるようなので、俺達も別の所で楽しんでくる」


 そう言うダウザーの目線の先には、ゾリアスとジラール、ソディックが居た。

 ダウザー達と別れて、ゾリアス達の方に顔を向けて、手で呼ぶ動作をする。


「待たせていたみたいで、悪かったな」

「いや、こちらこそ気を使わせてしまって悪い」


 改めて、ゾリアスの無罪放免な事に乾杯をする。


 ゾリアスとソディックの関係を聞く。

 王国騎士団に所属していたふたりはいずれ、どちらかが次の騎士団長になると言われる程のライバルだったそうだ。

 そんな時に事件が起こり、ゾリアスが王都追放になった為、ソディックが次の団長に任命された。

 その後もソディックは、ゾリアスの人格を知っていたので、無罪を信じ続けていたそうだ。

 ジラールも元王国騎士だったが、ゾリアスの件で肩身の狭い思いをする事になり、騎士団を退団する決断をした。

 国王の口添えもあり、冒険者の道を選んだ。


「俺としては、残念だが騎士団に戻りたいのなら、無理に引き留める事はしないぞ」


 もしかしたら王都や騎士団に未練があるのであれば、ゾリアスの好きなように生きていってもらいたい。


「お前に返す恩が大きすぎるから、この村を離れる事は無い。 それに俺はこの村が気に入っているから、お前が出て行けといっても、俺はこの村に残るからな!」


 嬉しい言葉を言ってくれた。


「そうか、これからも村の安全を守ってくれよ」


 ゾリアスは、恥ずかしそうに笑う。

 ソディックと、ジラールからも礼を言われた。


 料理も無くなり、陽も沈んで辺りも暗くなってきたので、そろそろ戻る事を伝えようとすると、ロイドがひとり後始末をしていた事に気付く。


「色々と悪いな。 疲れただろう」

「いえ、皆の喜ぶ顔が見れて嬉しかったです。 料理人になりたいと思う気持ちが強くなりました」


 何かが吹っ切れた清々しい顔をしていた。

 自分の料理を、王家の親族に褒められた事が自信に繋がったのだろう。

 そんなロイドに提案をしてみる。


「ロイド、ジークにある飲食店で働いてみないか?」


 ジークにある飲食店とは、冒険者ギルド内にあるガイルの店だ。

 ガイルが引退する事かも知れない事、跡継ぎが居ない事等を俺が分かる範囲で話してみた。

 当然、無理強いはしないし、働いてみて自分に合わないと思えば、辞めてもいいとも伝える。


「そうですね。 私の料理の腕で通用するかも分かりませんので、その方に私の料理を食べて頂いて合格を頂けたら、働くのを検討してみたいと思います」


 あいかわらず真面目だと思ったが、それがロイドのいい所でもある。


「今晩、その店に行ってみるか?」

「えっ! 今からいいんですか」

「料理の腕の感想だけでも聞きたいだろう」

「はい!」


 ロイドは嬉しそうに、包丁を洗い始めた。

 シロとクロ、それに村人には後片付けを頼んだが、快い返事をくれる。


 ルーカス達には、そろそろ帰る事を伝えると、名残惜しそうだ。

気軽に、「いつでも来いよ」とは言えないから、もしかしたらこの訪問が、最初で最後になるかも知れない。


 ルーカスと話をしていて、大事な事を忘れていた。


「あぁ、皆に言い忘れていた事がある。 これからいう事を口外すれば死刑になるから、気を付けるように!」


 村人達がざわついている。


「先日、俺は魔王になりました」


 俺の発表に対して、村人達の反応が薄い。

 ……思っていた反応と違う。


「タクトさんが、なにになろうが私達には関係無いですから皆、興味が無いのでしょう。 それに魔王でしたら、すでに珍しくないですから」


 笑いながら、ロイドが話す。

 たしかにそうだが、俺が思っていた以上に、この村の人達はたくましい。


「お前の常識外れが、感染したんじゃないのか?」

「そうかもな。 でも、村人達が楽しく暮らせているのなら、別にいいと思うぞ」


 ルーカスの問いに答える。


「ユキノがお主を神と言っていた理由が、少し分かった気がするわ」


 ルーカスが、小さな声で呟いたが聞こえないふりをした。


 アルとネロに、ルーカス達の【転移】を頼む。

 行きに比べて、ロイドを追加して王都に戻る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る