第261話 国王と魔王!
国王一家とダウザー達、そして護衛三人衆に、ゴンド村の話をする。
ドラゴン族に守られ、ラミア族とも交流があり、コボルト族と一緒に農作業をする。
普通の人族と同じように接して、大きなトラブルも無く楽しく過ごしている。
話を聞いた者たちは最初、嘘だと思って聞いていたようだが、シキブ達の証言もあり、信じ始めている。
一通り話が終わると、ダウザーが最初に口を開いた。
「信じるしかないな。タクトは常識は無いが、嘘はつかない」
失礼な事を言う。
「しかし、ドラゴンに村を守られていて、貢物もないなんて信じられん……」
ルーカスは、話し終わると大きく溜息をついた。
「それと、いずれ分かるから会わせたい奴がいるが、連れてきていいか?」
「それは、構わないが時間は掛かるのか?」
「いや、すぐだ。 ちょっと待っててくれ」
アルに連絡を取ると、ネロと一緒らしいので俺の所に来て貰う。
突然、小学生ふたりが目の前に姿を現した。
何も知らないルーカス達は驚く。
「タクト、この子供達は何者だ?」
ルーカスが質問する。
「第一柱魔王のアルシオーネと、第二柱魔王のネロだ。因みに俺の弟子だ」
俺の弟子だと言えば、多少なりとも信用をしてくれる事を期待する。
「お主が国王か、妾はアルシオーネじゃ。タクトの一番弟子だ!」
「ネロなの~! 師匠に呼ばれてきたの~!」
「ふたりとも暴れないように言って聞かせているから、安心してくれ」
初見の奴らは完全に思考が停止している。 いつもの御約束の出来事だ。
「いやいや、タクトがなんで最強と言われる魔王の師匠なんだ!」
ダウザーは興奮していた。
「それは簡単な事じゃ、妾とネロがタクトに何回も勝負を挑んだが、一度も勝てんから弟子入りをしただけじゃ!」
「そうなの~、師匠は最強なの~!」
皆の視線が痛い。
「……タクトよ。ダウザーが、お主を規格外だの常識知らずだと言っていたのが、よく分かった」
ダウザーは、俺の事をそんな風に言っていたのか。
毎回言われる事なのであまり気にしないが、ダウザーは気まずそうに目線を逸らしている。
「このふたりも、ゴンド村に出入りというか、住もうとしている」
「魔王ふたりが住むだと!」
ルーカスは、国王とは思えない表情で、アルとネロを交互に見る。
「そうじゃ、村の奴らはいい奴ばかりだからな!」
「そうなの~」
ふたりとも嬉しそうに話している。
「問題は無いのか?」
ルーカスが、恐る恐るアル達に尋ねる。
「特に無いぞ。村長の許可も貰ったしの。ただ、警備の奴らが妾達に厳しいのじゃ!」
「そうなの~、わたし達がいるとゾリアスは気が休まらないって、愚痴ってたの~!」
「ゾリアス?」
ルーカスは、ネロが発した『ゾリアス』という言葉に反応した。
まさか、ネロの口からゾリアスの名が出るとは、想定外だった。
もう少し後に話すつもりだったが、名前が出てしまったのなら説明するしかない。
「元王国騎士団親衛隊長のゾリアスだ。俺が頼んで、ゴンド村で警備の仕事をして貰っている」
「……そうか。ゾリアスは元気か?」
「あぁ、元気だぞ」
ルーカスは嬉しそうな表情を浮かべる。
俺の横でソディックも同じような表情をしていた。
「ところで、なんでカルアが居るのじゃ?」
アルが突然、カルアについて質問してきた。
「ん? どういう事だ?」
カルアを見ると、呼ばれたのを気が付かないかのように黙っている。
よく見ると、いつも以上に深く帽子を被っていた。
暫く沈黙が続くと、諦めたのか帽子を取り、頭を下げて挨拶をする。
「アルシオーネ様、ネロ様。御無沙汰しております」
「そうじゃな、妾もこんな所で再会するとは、思わなんだぞ!」
「久しぶりなの~!」
当事者の三人以外は、何のことか分からなかった。
しかも、カルアは【変化】で、見た目は狐人族の姿になっている。
本来、ハーフエルフの魔法士カルアは、第三柱魔王ロッソの弟子で、アル達とは面識があったそうだ。
「カルア、お主は魔王の弟子だったのか?」
「はい、特に聞かれませんでしたので、お答えもしておりませんでした」
ルーカスの問いに対して、当たり前のようにカルアは答えているが、「魔王の弟子なのか?」なんて台詞を一般的な生活の中で使う訳がない。
ハーフエルフなのは、当然知っているだろうが……。
「まぁ、そうだが……今日は、驚くことが多すぎるな」
ルーカスは、大きく溜息をつく。
「そのゴンド村に行く事は可能か? 勿論、極秘での外出になる」
「それは構わないが、その格好は目立つから、着替えて貰うぞ!」
「そうか、一番目立たない服に着替える事にする。すぐに馬車を用意させる」
極秘行動なのに、馬車を用意させたら、極秘じゃないと思うのだが……。
「移動は、俺とアルにネロの転移魔法があるから、一瞬で行けるので問題ない」
「……成程な。既に余達の常識を超えていたな」
ルーカスは、小さく首を左右に振った。
「タクト、私も行くからな!」
ダウザーは、一緒に行く事を確認したが、
「あなた、私でなく私達でしょう」
ミラも行く気満々の様子だ。
「ダウザー達は、服が無いだろう?」
「何を言っている。タクトの転移魔法で、すぐに戻れるではないか」
……やはり、ダウザーは俺を便利な移動手段として考えているのだと、確信した。
「分かった。俺も一旦、ジークに戻って従業員達に報告があるから、ついでに寄ってやるよ!」
「さすが、タクト。頼りになるな」
褒められても、全然嬉しくない。
「ソディックも、ゾリアスと知り合いなら、久しぶりに会ってみたいだろう。一緒に来るか?」
「えっ! いいのですか?」
「多少人数が増えても、問題無い。気にするな」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
ソディックは俺に向かい、一礼する。
「それと、グラマスのジラールも同行させるつもりだ。理由は言わなくても分かるだろう」
ルーカスは、何も言わずに頷いた。
丁度、ネロもいる事だし、復讐対象の貴族の事を聞く事にする。
「国王、勇者の末裔貴族の中で、ジークの領主であるリロイの母親、もしかしたら父親の死に関わっている奴が居るはずだが、知っているか?」
俺の問いに、カルアがルーカスに助言をする。
偽勇者一行の魔法士末裔で『バタロル』と言う名の貴族らしい。
「そのバタロルだが、ここにいるネロの怒りを買っていてな。しかも、国も関与していると思っているらしく、王都諸共を壊滅させると言っているのを、俺が宥めている状況だ」
突然の破壊宣言に、ルーカスは絶句している。
「ネロ様であれば、ものの数秒で王都は壊滅しますね」
カルアが、ネロの脅威を伝える。
ルーカスが、バタロルが何をして怒りを買ったのかを質問してきたので、その前に、ネロとキュロイの関係を説明する。
リロイの母親キュロイはネロと親交があり、もし人族に原因があったとしても、国への攻撃をしないように説得をしていたと、嘘も交えてみる。
俺の話を聞いたルーカスは、信じられない様子だ。
「リロイの母親が居たから、王国は平和だったかも知れないのに、その功労者を自分の愛人にしようとして間接的とはいえ、殺した貴族がバタロルということだ」
「……そんな事が、あったのか」
ルーカスは事態の大きさに気付いた。
「俺としては、バタロルの処分をネロに任せてくれれば、それで良い」
「そのバタロルは、絶対に許さないの~!」
いつも通り可愛らしい口調だが、殺気が篭っているのが分かる。
ルーカスも理解したのか、バタロルの処分は俺に任せると言ってくれた。
これで、ネロとの約束も果たせた。
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