第250話 取り越し苦労!
「用意は出来ているのか?」
正装で立っているダウザーに、確認をする。
「俺以外は、まだ用意が出来ていない」
「……もしかして、家族全員で行くのか?」
「あたりまえだろう。何を言っているんだ?」
そうか、当たり前のことなのか。俺自身が、前世でも親族の見舞い等したこと無かった為、こういった事には疎い。
「しかし、王子まで救ってくれるとは、本当に感謝する」
「まぁ、いつもの成り行きだ。上手くいって安心している」
いつも通りに言葉を返す。
「クニックスの件は、内々に調べる事は可能か?」
オークロード討伐中に少しでも多く情報が欲しい為、ダウザーに協力を要請する。
クニックスは人体実験の素材にされていて、意識は無いに等しいということは、他に共犯がいると思うのが普通だろう。
今迄、表立って行動していなかった奴達が、簡単に尻尾を出すとも思わないが……
「それは構わない。しかし、ライテックに知られると逃げられる恐れもあるな……」
「そうだな。国王以外には、場所の特定は出来ていないと報告するしかないな」
「分かった。クニックスの件について、俺は何も知らなかった事にしておく」
ダウザーとは、ある程度までの情報共有と言う事で、口裏を合わせる。
「ミクルの誘拐の件もあるから、マークリムに一度会わせてくれ」
「そうか。扉の外にいる衛兵に言って、牢まで案内させよう」
「頼む。それと大臣には、ちゃんと王都に行くと言っただろうな?」
「あぁ、ちゃんと話した。お前には悪いと思ったが転移魔法の事も話した」
……警護の関係等で色々と調整が必要なのは分かるので、大臣に話をするのは仕方ないとはいえ、事後報告じゃなくて事前に相談して欲しい。
「言っておくが、俺は便利な移動手段じゃないからな」
「分かっている。今回は緊急事態だったからだ。俺としては毎回、お前を呼びたいがそこら辺は自重するつもりだ」
「……本当だろうな?」
「当たり前だ!」
どうも信用出来ない。毎回、呼ばれる気がするのは取り越し苦労ならいいのが……
奥の扉が開いて、ミラとミクルが姿を現す。
「御待たせ致しました」
ふたりの用意が出来たようだ。
ふたりからも、アスランの件で礼を言われる。
マークリムの事は、ふたりに話さず野暮用があるので、少しだけ待って貰うように伝える。
「そうだ、忘れていた。国王に連絡しておいてくれ。いきなり行っても迷惑だろう」
「確かに、そうだな。ミラ、連絡をしておいてくれ」
ダウザーが、ミラに姉で王妃のイースへ連絡をするように言う。
「ついでに今、俺が一緒だと言っておいてくれ」
これで俺が、アスランの【呪詛】を解除してダウザーの所に来ていたと言う事になるので、大騒ぎにならない筈だ。
ミラが、イースと連絡を取っている間に、牢に居るマークリムの所へ行く。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「久しぶりだな。 居心地はどうだ?」
マークリムは以前より痩せていて、疲労感が漂っていた。
「……何をしにきた」
「俺が来る用事なんて、決まっているだろう」
マークリムは、黙り込む。
俺は以前にマークリムへ取り付けておいた【偵察】を回収する。
回収した瞬間に、マークリムの記憶が頭の中に流れ込んでいた。
油断していると、意識障害を起こすかと思うほどの衝撃だった。
【偵察】は使いどころを間違えると、俺へのダメージも大きいので慎重に使うことにすると決めた。
マークリムの記憶からは、外部との連絡を取って形跡は無かった。
大人しく牢で生活をしていたようだ。
「お前、死ぬくらいの罪を犯したのは分かっているよな」
「……そんなことは、お前に言われなくても分かっている」
「死にたくないか?」
「当たり前だ!」
「国王の前で嘘偽り無く全て話したら、俺から殺さないように、言ってやってもいいぞ」
「……本当か?」
「勿論だ」
「どうぜ、お前の呪詛で嘘は付けないからな。少しでも希望があるのなら、それもいいな」
そうか、マークリムはまだ呪詛というか【真偽制裁】が掛かったままだと思っているのか。
そういう事なら【真偽制裁】を、もう一度掛けておくとしよう。
しかし、マークリムとのやりとりは前世での、司法取引に似ているな……
「俺の家族がどうなったか知っているか?」
「いや、知らん」
マークリムの話だと、ダウザーから魔法都市での財産没収と、一族の追放が言い渡されたそうで、家族達は親族の居る王都に向かったそうだ。
領主であるダウザーにしてみれば、当然の対応だろう。
移動する際に暴れられると面倒なので、マークリムを縛り手足の自由を奪う。
「後で迎えに来るから、正直に話す準備しておけよ」
マークリムは黙ったままだ。
【結界】で、外部から進入が出来ないようにしておく。
外の衛兵には、後でマークリムを連れて行く事を伝えると、頷いて「承知致しました」と返事をした。
こちらの用意も終わったので、ダウザーの所に戻り王都へ【転移】した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます