第248話 王子と人面疽!

 扉外の衛兵に挨拶をして、部屋に入る。

 その瞬間に、何かが壊れる感じがしたので、カルアに「悪い」と謝罪をした。

 すぐに先程と同様の【結界】を張り、カルアに伝える。


 部屋の中には既に、イース王妃とユキノが心配そうに立っていた。


「治す事は可能なのでしょうか?」


 俺の顔を見るなり、イースは話し掛けてきた。


「あまり期待はするな。 王子を診てみないと、なんとも言えない」


 俺の言葉に落胆した様子だ。

 しかし、期待を持たせて「出来ませんでした」なんて事になったら、その方が可哀想だ。


 王子を診るが、顔色は悪く生気がない感じだ。

 胸に目を向けると、異様なまでに突起している。

 胸には触らないように気を付けて、上半身の服を脱がす。 


 服の下には拳大の顔が、胸と同化していた。


「……人面疽か」


 俺の記憶では、ホラー映画で見た事がある程度の知識しかないが『人面疽』だろう。


「タクト殿は、知っておられるのですか!」


 イース王妃は期待をするように話しかけてくるが「聞いた事があるだけだ」とだけ返す。


 【全知全能】に、アスラン王子の【呪詛】についての俺が解除可能かと質問をする。

 解除は可能だ。

 解除方法は、『ドライアドの実』を口の中に入れれば良いだけだ。

 しかし、人面疽が逃げて他者が同じ症状になるらしい。 それでは意味が無い。

 続けて、人面疽を他者へ移らないように完全消滅する方法を聞く。

 回答は、肉体から離れた瞬間に、炎で燃やせば消滅するそうだ。

 一瞬の勝負の為、失敗の可能性も高い。


 俺の能力で確実に人面疽を消滅する方法に、質問の内容を変更してみる。

 回答は、【結界】と【アイテムボックス】にある魔物の肉で可能だった。


 内側と外側に【結界】を張る。 内側は一方通行にして、内側と外側の間に魔物の肉を置いておけば、人面疽は肉に乗り移ろうとするので、それを炎で燃やせば消滅する。

 ただし、俺自身に乗り移られる場合があるので、【隠密】を発動させておく必要がある。

 人面疽は気配を感じない者には、乗り移らないらしい。


 【魔力探知地図】を見てみると、アスラン王子から微弱な魔力が出ている。

 この反応が無くなれば、消滅した事になる。


 続けて【全知全能】に、この【呪詛】を掛けた術者が分かるかを聞く。

 『クニックス』という人物だと答えた。

 あとで、誰かに聞けば知っている奴くらい、いるだろう。


 一通り、解除作業の内容が分かったので、解除作業を始めようとしたしたが、イース王妃達は不安そうに俺を見ている。

 確かに俺が何をしているか気になると思うので、作業が見える位置で一ヶ所に集まって貰い、【結界】を張っておく。

 一瞬だけ俺の姿が見えなくなると思うが、気にしないように伝えて、呪詛解除の作業に入る。


 外側の結界を張り、【アイテムボックス】から、『ホーンラビットの肉』を床に置いて内側の結界を張る。

 そして、【アイテムボックス】から『ドライアドの実』を出す。

 水は横に置いてあったのを使用するが、念の為【神眼】で毒等が混ざっていないかを確認する。

 特に問題は無く、普通の水だ。


 【隠密】を発動して、『ドライアドの実』を口に入れて、水を流し込むとアスラン王子の身体全体を緑色の光が包む。

 断末魔の様な叫びと共に、人面疽が身体を離れて『ホーンラビットの肉』に乗り移った。

 人面疽は乗り移った肉体の異変に気が付いたが、時既に遅し。


 【隠密】を解くと、アスラン王子を包んでいた緑色の光も消えた。

 右手で【火球】を発動させて掌の上で待機させたまま、左手で内側の【結界】を触り【結界】を破壊する。

 人面疽が【結界】を破壊した事に気付く間もなく【火球】を撃ち込み、叫び声と共に消し炭になった。

 【浄化】を使い、綺麗にしたが、絨毯に焼跡は残ってしまった。


 間違いなく高い絨毯なんだろうな……あとで謝罪は必要だな。

 国宝級とかだったら謝罪では許されないかもな。


 そんな事を心配しながら、先程張った【結界】を全て破壊する。


「これで大丈夫だ」


 信じられない様子で、皆がアスラン王子を取り囲む。

 イース王妃は、我が子アスランの名前を呼び続けている。

 『ドライアドの実』を食べたので『HP』『MP』共に全快している筈なので、しばらくすれば目も覚ますだろう。


 窓際に移動して、壁に身体を預けて暫くその様子を見ていた。


 数分後、イース王妃の問い掛けに反応したのかアスラン王子が目を覚ました。


 久しぶりに意識が戻ったためか、何が起きているのかが分らない状態の様子だ。

 ロキは、扉傍の衛兵に対して、国王へ「アスラン王子が御目覚めになられた!」と伝えるように指示をしていた。


 前世で読んでいた本に、勇者が王女の呪いを解く話があったが、勇者が居るなら早く名乗り出てこう言った問題を、迅速に対処して欲しい。

 そうなれば、俺もゆっくりと異世界生活を満喫出来ると思う。


 ターセルとカルアが俺の所まで来て、礼を述べた。


「気にするな。 たまたま上手くいっただけだ」

「タクト殿の言われる『たまたま』が、いままで何人も挑戦して出来なかったのです」

「俺は運がいいからな!」

「運がいいだけでは『ドライアドの実』は手に入りません。 私も色々と手を尽くしましたが、無理でしたし……」


 やはり『ドライアドの実』を使った事も、見抜かれていたか。


「まぁ、それは色々あって手に入れただけだ」

「手に入れた経緯まで聞くつもりはありませんから」

「安心しろ、話すつもりも無い!」


 ターセルとの話を終えると、カルアが小声で話してきた。


「さっき、【浄化】のスキル使った?」


 なんで、小声なんだ?


「使ったぞ、どうしてだ?」


 俺もつられて、小声で話す。


「……今度、私の部屋にも【浄化】を掛けて欲しいのよ」

「それって、掃除しろって事か? 片付けが済んでないと【浄化】しても散らかったままだぞ!」

「……そうだけど」

「カルアは『片付けが出来ない女性』なんだな」

「はっきり言わないでくれる!」


 若干、怒っているようだ。


「それじゃあ、俺は戻るわ!」


 二人に帰る事を伝える。


「国王様に会っていかれないのですか?」

「感動の再会に、部外者は邪魔だろう」

「部外者なんて、とんでもない!」

「まぁ、身内だけで喜びを分かち合えばいいだろう」


 俺は気付かれないように【隠密】を使って、喜びあっている姿を見ながら王子の部屋を出た。

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