第246話 小芝居!

「タクト様、お迎えに上がりました」


 戦闘後にソディックの部屋で寛いでいると、使いの者がやってきて国王の待っている部屋まで案内された。


 部屋を開けて入ろうとすると【結界】を破壊した時と、同じ感じがした。


「あっ!」


 思わず言葉を発してしまった。


 部屋の中には、国王家族と護衛衆の三人が居た。


「何か分らないが壊した感じがした……とりあえず、謝っておく。 すまない」


 俺の【結界】に似た感じだが、同一スキルか魔法かが分からないが、破壊したのは事実なので、謝罪をする


「……私の【結界】を破壊した?」


 カルアは驚いた表情で、俺を見る。

 【結界】であれば、安心をした。

 これ以上、スキル値を減らされたら困る。


「あぁ、多分それだと思う」

「……長生きはしてみるものね」


 他の者達は何のことか分からない様子だ。

 とりあえず、【魔法反射(二倍)】を【オートスキル】から外して、【結界】を張る。


「詫びじゃないが、俺の【結界】で外部からの覗見を出来なくした。 音漏れもしない」

「……【結界】スキル持ちとは、珍しいわね。 人間族で習得しているのは、初めてだわ」

「そうか、今後は破壊しないように気を付ける。 ところで、カルアは『エルフ』なのか?」


 長い髪の間から、時折見える長耳はエルフと特徴だ。


「あら、私の名を知っているとは光栄ね。 それに貴方、私の【変化】まで見破るなんて凄いですわ。 しかし、惜しかったですね私は『ハーフエルフ』です」

「タクト殿は【神眼】のスキル持ちですから、見破るなんて容易い事ですよ」


 カルアとの会話に、ターセルが入って来た。

 それ以前に【隠蔽】でステータスを覗かれないように対策していたのに、ターセルには無意味だったって事か……

 それよりも、【変化】ってユニークスキルか?

 なんで、簡単に口にするんだ。 ユニークスキルってもっと秘密にしておく印象があったが、違うのか?

 気付かれないようにステータス確認するが、【変化】は習得していなかった。

 魔法士の職業スキルでは無いと思うので、ユニークスキル【変化】の内容を俺が理解出来ていないのだろう。

 この場合は、助かったと言うべきか……


「ターセルには、隠しても無駄ってことだな」

「国王様の護衛として、仕事をしたまでです」

「成程な、確かに怪しい人物を近づける事は出来ないからな」

「気分を害したのであれば、謝罪致します」

「別に気にしていないから、いいぞ」


 【隠蔽】よりも上位のユニークスキル持ちという事だな。

 ターセルを覗き返して、ユニークスキルを確認したいが、スキル値を十分に確保してからにした方が良いだろう。


「……お前ら、国王の我を差し置いて、何を勝手に話しているんだ」


 仲間外れにされていた国王がお怒りの様子だ。


「あっ、すまない。 俺を呼んだ理由は何だ?」


 とりあえず、謝罪をして用件を早々に尋ねる。


「その前に、こちらの自己紹介が先ではありませんか?」


 王妃が不貞腐れている国王を、なだめるように話しかける。


「それも、そうだな。 我は国王の『ルーカス・エルドラード』だ」


 国王が紹介終わると、王妃が『イース』と名乗り、ユキノにヤヨイと続いた。

 その後、人間族のターセル、鬼人族のロキ、狐人族に化けているハーフエルフのカルアが自己紹介をする。


 俺も自己紹介するように言われたので、名前と年齢に、職業(無職)と【呪詛】の事を言う。

 しかし、王子が居ないのは何故だ?

 不在だとしても説明くらいは、あってもいい筈だ。

 城に入ってから、ここに来るまでに家族五人の肖像画を見ているから、間違いないと思う。

 既に亡くなっている事も考えられるが、王子には触れてはいけないのか?



「まずは、ミクルの件で礼だが伯父として礼を言う。 本当に感謝している」


 立ち上がり俺に向けて頭を下げた。

 同様に他の者達も頭を下げた。


 イース達、王家親族なら分かるが、護衛衆まで頭を下げたのには疑問を感じた。


「気にしなくていいから、頭を上げてくれ」


 国王に頭を下げさせるのは、気が引ける。


「義弟のルンデンブルク卿より、他の件も聞いておる。 誠に信じられん……」


 他の件とは、どの事を言っているのかが分らなかった。

 人体実験、人身売買……


「ダウザーから、どこまで聞いているんだ?」


 国王が口にしたのは、人身売買やエルフの奴隷売買、人体実験、コボルトの奴隷場等だった。

 そして、国王への反旗!


「どれも、考えられん事だが、我への反旗がある事は確実だ。 ロキの部下により人体実験の裏付けも取れている。 人身売買の件はカルアに任せているが、中間報告を見たが間違いないだろうという印象だ」


 護衛衆は、国王守るだけでないのか。 しかし、国王直属だけあって、部下達も優秀だな


「コボルトの奴隷場も把握したので、近々討伐する予定だ」

「……それは、奴隷のコボルト達も殺すって事か?」

「その通りだ。 国に害を与える魔族だからな」

「魔族だから、国に害を与えるってのは間違いじゃないか?」


 俺の言葉が気に入らないのか、国王は俺を睨む。


「魔族が人族に危害を加えているのは、勿論知っている。 しかし、全ての魔族では無いだろう」

「それは関係ない。 魔族は人族の敵なのは、この世界の共通認識だ!」

「魔族にだって、いい奴は居るだろう。 国の利益を考えれば、魔族との共存共栄した方が得じゃないのか?」

「魔族との共存共栄だと! 何を馬鹿な事を言っている」

「もう少し、柔軟な考えや色々な意見を聞いて、国民が幸せになる方向に国を動かすのが、国王の務めじゃないのか!」


 身振り手振りは紳士的に振舞っているが、少し興奮して話しているのか口調は完全に喧嘩口調になっている。

 【呪詛】は、本当に厄介だ。


「国王、お芝居はそれ位にしておいた方が良いですよ」


 イース王妃が、ルーカス国王に笑いながら話す。


「そうだな」

「……芝居?」

「試すような真似をして、すまない。 ダウザーとターセルから聞いていた話を確認したくなった」

「危険人物と言う意味でか?」


 ルーカスは、二度目の『オークロード討伐』が失敗に終わった際に、義弟であるダウザーに相談をする。

 そこで、まだ無名だが頼りになる冒険者だが、ダウザー自身が絶対の信頼を持っている者だと俺を紹介されたらしい。

 その際に、ダウザーは俺の情報を細かく報告していた。

 ダウザーが、そこまで言うならと今回の討伐を決定したらしい。


 同じ頃、ターセルは弟子のカンナより贈り物として服を貰う。

 【隠蔽】で製作方法は隠されていたが、ターセルのユニークスキルの前では無意味だった。

 服を製作したのがアラクネ族だと知る。

 お礼の連絡の際にカンナに、それとなしに探りを入れると『四葉商会』と俺の名前が出てきた。

 ターセルは、その事を国王であるルーカスに伝え、実際に服を着て貰うように願い出た。

 ルーカスは着心地や機能に驚きながらも、魔族と交流する者が存在する事に驚きを隠せないでいた。

 それは、ロキやカルアも同様だった。


 魔族の素材は、討伐して奪うのがこの世界の常識だ。

 ドワーフに関しては、一部の商人が取引をしたりしているが、それはあくまでも例外だ。

 最高級品の『アラクネの糸』を討伐せずに入手して尚且つ、製作まで依頼出来るなんて事は、今迄聞いたことも無い。


 ルーカス自身も多少なりとも、魔族は危険な存在という事に疑問を持っていた。

 しかし、国王という地位と、魔王の存在がその考えを否定しなければならなかった。


 そして今日、ターセルが覗き見した俺のステータス。

 その情報は、ターセルから国王ルーカスに伝えられ、情報共有の為にロキとカルアにも知らせていた。


「それで、俺の評価はどうなんだ?」

「タクトが危険人物で無いのか分かっている。 只、魔族との交流については、話して貰いたい。 何を聞いても驚かないし、他言もしない」


 国王直々の話だ。

 隠していてもいずれバレる。 それなら正直に話すのが得策だろう。

 しかし、最初はルンデンブルク卿と言っていたのに、今はダウザーと言っていたし、使い分けの基準がよく分からない。


「分かった。 いずれは話すつもりでいたから、いい機会だと思う。 しかし、話すのはオークロード討伐後でいいか?」

「……そうだな、今はそちらが優先すべき件だ。 生きて帰って来るからこそ出来る約束という事だな」

「あぁ、勿論だ。 死ぬ気なんてない」


 その後、コボルトの奴隷場はカルアの部下で壊滅する予定だが、コボルト達は殺さずに俺の連絡があるまで、その場で生活出来るようにすると約束をしてくれた。

 その代わり、人体実験の施設は俺が討伐する事になった。


「俺は、ランクBの冒険者だぞ。 負担が大きくないか?」

「何を言うか、本当なら我の配下に迎えたいのを我慢しておるのだぞ!」

「そうか、まぁ断るからお互い無駄な事はしなくて良かったな」

「……本当に、ダウザーの言った通りの人物だな。 権力に負けず自分の信念を貫くか!」

「少し違うな。 俺は俺の信じる神の為に動くだけだ」


 一応、エリーヌを広める事がこの世界での俺の存在意義だから、嘘では無い。


「タクト様は、神では無いのですか?」


 ユキノが突然、摩訶不思議な事を言い始めた。


「俺は、見ての通り普通の人間族だ」

「しかし、手をかざすだけで騎士達を治療されたではありませんか!」


 確かに、何も知らない奴にしてみれば、そんな行動をしていれば『神』に見えても不思議では無いか……


「それは、俺が念じれるだけで魔法を発動させる事が可能だからだ。 そうだな、『女神:エリーヌ』の加護とでも思ってくれ」

「エリーヌと言われる女神様が、タクト様が信仰する神なのですか?」

「そうだ。 所詮、神に祈っても救われないだろうが、少しでも希望が持てるのであれば、神を信仰するのも良いと思わないか?」

「確かにそうですが……あのお姿は、神にしか見えませんでした」


 俺自身も不思議だったが、会話の中で無意識にエリーヌの名を言っていた。

 言ったところで、大した影響も無いと思うので、そのままにする。 


 ユキノは俺の説明でも、納得出来ていない様子だ。 俺を神にでもしたいのか?


「ユキノは昔から、変わった物が好きだったから、タクトに興味があるのだろう」


 国王の何気ない一言は、俺が『変わった奴』という事を、その場に居た者達に再認識させた。


「御父様! 私は変わった物が好きなのではありません。 個性的な物に興味を惹かれるだけです! その、タクト様には勿論、興味がありますが……」


 この御姫様は、何を言っているんだ?

 ローラ同様に、研究材料として俺を見ているのか?


「……話が逸れたが、オークロード討伐から帰ってきたら、魔族との話は勿論だが、ロキやカルアと同じく冒険者ランクSSSの昇級試験は受けて貰いたい」

「魔族との話については当然するが、場所が特定出来るような、生息地域の情報を話すつもりは無いが、いいか?」

「それは、タクトの判断に任せるしかないな」


 ルーカス達を信用していない訳では無いが、魔族達の生息地域が分かり人族に寄って今迄の平穏な日々が壊されるのは、俺の本望ではない。

 種族で一括りにしているような、この世界が悪いのだと俺は考えている。


 前世でも感じていたが、国内に敵を作るより国外に敵を作った方が、はっきりと敵を認識出来て、国民の不満をそちらに向けれるので、指導者としては楽なのだろう。


「それに冒険者ランクは当然、受けたいが試験日に間に合えばの話になる」

「そこは、国王として特例で試験日を設けるから問題無い」


 一個人の為に、権力を使われるのは俺的に気分のいいものではない。


「権力を使ってまで試験を受ける気は無い。 受けるなら正式な試験日に受けるから、余計な事はしなくていい」


 俺の返事は意外だったのか、ルーカスは驚いていた。


「普通なら、特例扱いされて喜ぶところだぞ。それなのに、余計な事とは……」

「特例を認めれば、試験の公平性が疑われるだろう」


 ルーカスは、正論を言われて黙ったままだ。

 立場上当たり前かも知れないが、ここまで国王に対して意見を言える者は少ないのだろう。


 とりあえず細かい事は、『オークロードの討伐』が終わってから考えるとしよう。

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