第219話 グランド通信社からの謝罪-6

 戻る最中に、気になっていた副代表のオージーについて尋ねる。


「副代表は、飾りなのか?」

「えっ! どうしてですか?」


 突然の事で驚いているのか、確信に迫った発言で驚いたのかは不明だが、焦った仕草だ。


「さっきも発言はなかったし、副代表補佐と言うが実質はアンガスが取り仕切っているのは、すぐに分かった」

「そうですか、タクト様には隠し事は出来ませんね」


 オージーは、グランド通信社が吸収合併した通信社『マールグレー商会』の長男で、取引を強化する為に戦略結婚したそうだ。

 しかし、オージーには商売の才能が無く、やる事なす事裏目に出ている。

 立場上、副社長にしているが俺の思っていた通り、実際はアンガスが実務をこなしている。

 アンガス自身は、ヘレフォードに恩を感じている為、ヘレフォードが代表を退くと同時に自分を退社をするといっているそうだ。

 だから、一刻も早くオージーを一人前にしたいが難しいのが実情のようだ。


「……そんなんで、シャロレーとの夫婦仲は良いのか?」

「そこまでは、私も分りかねます」


 そら、そうだな。

 質問しておいて何だが、答えようが無い。



 部屋に戻ると、俺が出て行った雰囲気とは全然違う和やかな雰囲気になっていた。


「終わったか?」

「えぇ、こちらの都合に合わせて貰ったから」


 にこやかに微笑むマリーに対して、対照的に疲れ切っているフランが居た。


「どうしたんだ、フラン?」

「やる事が多すぎてね……誰か手伝いが欲しいわよ」


 フランの補佐が居ないのは、気になっていた事だが適任者が居ない。

 当然、求人でも出せば誰かが来るとは思うが、誰でもいいという訳でもない。


 ……求人! 忘れていた!


「儲け話か分らないが、新しい事があるか聞くか?」


 俺の言葉に、先程同様に、ヘレフォードとアンガスが身を乗り出す。


「今、求人はどの様にしている?」


 俺の問いに、アンガスが答える。


「それは、雇い先に直接聞くか、店前の張紙を発見するかだと思いますが?」

「そうだろう、それを一ヶ所でやってみたらどうだ?」


 アンガスは、何のことか分からない様子だ。

 俺は皆に、説明をする。

 まず雇い先から求人条件を聞いて、一つの建物で管理する。

 建物内にはギルドのクエストのように、条件の良い雇用先を貼り出す。

 それと同時に、条件を聞いてみて相談者に雇い先を紹介する。

 雇主からは、紹介料を貰うことで、紹介者にメリットが出る。

 雇主は、集まった者の中から、自分が雇いたいと思う人材を選べるというメリット。

 相談者は、幾つかの条件の中から選べるので、最終的に自分の責任になる。

 このシステムにより、条件の悪い雇主には、必然的に人が集まらなくなるので、雇用条件の改定が出来て来る。


「成程、確かにそうすれば皆、損はしないですね」

「それに、王都や他の都市とも連携すれば、行く前にある程度の事も分ると思う」

「……確かに、そうですね」

「俺というか『四葉商会』はこの件に絡まないから、グランド通信社で儲かると思えば、勝手にやっていいから!」

「……それだと、タクト様に得な事があるのですか?」

「俺の得と言うか、皆が働きやすい環境になれば、すこしでも笑顔が増えるだろう! それで十分だ」


 雇主の言われるまま働いて、適正の賃金よりも低い賃金で働いている者が多いのを実感している。


 親が店を持っているだけで、自分はたいして働かずに贅沢な暮らしをする者もいる。

 貧乏な家に生まれた者は、言われるままの賃金で働くしかない。

 貧乏から脱出しようとして店を出そうとするには、大規模な金が必要になる。

 低賃金であれば、何年経っても金は貯まらない。

 学も無く、力も無い者には職業を選択出来る自由なんて無いに等しいだろう。


「……タクト様は、本当にそれでいいのですか?」


 ヘレフォードは困惑した顔で、俺の眼を見ながら


「あぁ、構わない」


 言葉を返す。


「タクト様のように、見返りを求めずに社会を良くしようとする若者も居るのですね……」

「弱い者が虐げられるのが、嫌なだけだ。 一生懸命生きている者は、その対価を受けるべきと思わないか?」

「……そう思いますが、理想に近いですよね」

「その通りだ。 だが、誰かが動かないと何も変わらないだろう?」


 グランド通信社の者達は黙ったままでいる。


「まぁ、どうするかは好きにしてくれ。 只の案だからな」

「分かりました。 しかし、その際は『四葉商会』の名前はお借りするかも知れませんが、宜しいでしょうか?」

「その時は相談してくれ」


 その後、手土産を持たされてグランド通信社を後にした。

 手土産は、返そうと思ったがマリーとフランの目が期待に満ちていたので、貰う事にした……

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