第218話 グランド通信社からの謝罪-5

 今後の四葉商会関係の記事は、マリーとフランが検閲してから、俺が最後に目を通す事にした。

その後、インタビューについては事細かに日程の調整をする必要があるのでマリーとフランに任せて、『物質転移装置』を案内してもらえるように頼む。


「それは、私が案内致します」


 エイジンが立ち上がり、案内をしてくれた。


「タクト様、色々と便宜を図って頂き有難う御座いました」

「だから、気にするなって! 俺の気持ちの問題だから。 それと俺だけだから『様』は付けなくてもいいぞ!」

「いえ、今はまだ弊社の謝罪中ですので、申し訳御座いませんがこのままで御願い致します」

「……そうか、分かった」


 律儀だなと思いながらも、支社長の立場もあり大変だとも感じた。


「タクト様は、商売人と冒険者のどちらを主と考えておられるのですか?」

「両方とも違うな。 俺は、困っている人を助けて、エリーヌと言う名の神を広める事が人生の目的だ!」

「……そうなのですか。 それだけの商才があれば、目指そうと思えば、この国一の商社だって目指せるのではないですか?」

「大きくなればなるほど、末端まで目が届かなくなる。 大事なのは、一生懸命働いている者に対して、対価を支払う事だ。 皆が一生懸命働いてくれるからこそ、商売は成り立つ」

「確かにそうですが実際は皆、名誉や名声それに富を求めてます」

「まぁ、普通はそうだろうな。 俺が特殊なんだろう」


 会話が終わり、少し重い空気の中を歩く。



「こちらになります」


 扉もなく、装置の前に管理者らしき人物がひとり居るだけだ。

 装置自体は、縦横高さ共に約三メートル程だ。

 思っていたより小さい。


「……想像していたより、小さいな」

「はい、技術的にこれ以上は大きく出来ないという事で、何回かに分けて対応してます」


 ……技術的にか、気になるな。


「簡単に使い方を教えてくれ」


 エイジンは、送付方法から教えてくれた。

 本社に送る品で実演してくれた。

 銀行の金庫になるような取手を回すと扉が開くので、荷物を入れて閉める。

 ボタンらしき突起物を押すと、装置から作動音が鳴り、二分程で作動音が鳴りやむ。

 中が見えないので、送ったのかも分らない。

 

「これで、送れたのか?」

「はい。 ただ、安全の為暫くはこの状態にしておきます」


 確認が出来ないからという事か。 

 一応実用は出来るが、不完全品じゃないのか?

 色々と考えていると、エイジンが受取方法を教えてくれた。


 基本的に、装置が動き出したら受取になるらしい。

 装置が静まったら、暫くして扉を開けて完了。


「この装置は、同じ所にしか送ったり受け取りたり出来ないのか?」

「はい、一対になってますので相手先は決定してます」

「……そうか」


 俺は、装置を見るふりをして【全知全能】に質問をする。


物質転移装置と言われる装置の仕組みについて聞くと、『次元石』と『魔導石』が使われていて、『魔導石』を動力にして、『次元石』同士が引かれるので、『魔空間』と呼ばれる空間で移動すると答えた。

続けて、俺が今後『物質転移装置』について質問すれば製作可能かを聞く。

答えは、可能だ。


続けて、これ以上大きなものを製作する事は可能かの問いに、『可能』と答えた。

そして、一台から、複数を繋いで希望の装置に送ったりする事が可能かと尋ねるが、『可能』だった。


 ……これなら、問題無いな。


 多分、現物を見なくても【全知全能】に聞けば製作可能だっただろう。

 しかし、気分的には実物を見て触ってからでないと、イメージが付きにくい。

 それに、改造するにしても改造前を知っておきたかった。

 一応、発明者のローラには仕組みが分かったとだけ伝えておくことにする。


「なかなかの装置だな。 じゃあ、戻るか」

「もういいのですか?」

「あぁ、大体の仕組みは分かったからな」

「……仕組みが分かったって、ちょっと見てただけですよね?」

「使用方法も教えてくれただろ?」

「そうですが……それは製作出来るという事ですか?」

「材料とかもあるが、多分可能だろうな」

「本当に、タクト様は凄いですね」

「そんなことはない。 俺からすればエイジンの方が凄いと思うぞ!」

「いえ、私なんて……」

「俺は自由にやっているが、グランド通信社という大きな組織で、支社長までなるなんて凄い事だろう?」


 エイジンは、言葉が見つからないのか無言だ。


「前にも言ったが、違う環境に憧れるのは分かるが、今迄プライドを持って仕事してきたんだろう?」

「そうですが、タクト様と話をしていると、自分の事だけ考えている自分に嫌悪感を抱いてしまって……」

「そんなことないだろう? イリアの事だって考えているだろう」

「そうですが、それは別のことで……」

「別では無いと思うぞ! 仕事でもそれ以外でも支えてくれる人が居るという事は、思っている以上に大事な事だ。 大事な物は、失ってから気付くが、その時にはもう遅い」

「大事な物は、失ってから気付くですか……」

「エイジンの人生だから、どうこう言う気はないが、後悔するような事はするなよ」

「……はい」


 又、エイジンが悩んでいるようだとイリアが心配するしな……

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