第217話 グランド通信社からの謝罪-4

 憶測記事の謝罪記事掲載と、四葉商会のイメージアップ記事の掲載についての内容については、マリー達にも確認したが概ね、この内容で問題無い。

 契約違約金:金貨十万枚だが、適正な金額なのかさえも分からない。

 『ブライダル・リーフ』が流行っているとはいえ、今回の記事の件で損害した金額よりも明らかに多い事は分かる。

 グランド通信社側の誠意だろう。


 マリーとフランに【念話】で、「貰い過ぎなのは承知の上で、いいか?」と確認をするとふたり共頷いた。


「この違約金だが、金額の根拠を教えてくれ」


 質問に対して、副代表補佐のアンガスが答えた。


「申し訳御座いませんが、根拠は御座いません。 これが弊社の謝罪の価値と考えて頂いて結構です」


 クロを見るが、嘘はついていないようだ。


「明らかに多いがいいのか?」

「はい、今後も四葉商会様とは、友好的に取引が出来ればと思っております」

「分かった。 こちらからも頼みごとがある」

「何でしょうか?」

「物質転移装置を見たい」

「……物質転移装置ですか。 見てどうされるつもりですか?」

「商売人として、気になるだけだ。 製作出来るなら、製作してみたいがな」


 アンガスが考えていると、ヘレフォードが、


「いいでしょう。 タクト様は何か考えがあっての事でしょう」

「あぁ、それにグランド通信社にも儲けになる話も提案したいと思う」


 儲け話と聞いた瞬間に、ヘレフォートとアンガスは身を乗り出してきた。


「なんですか、それは!」


 数か月後には、冒険者ギルドが主催する『人気ランキング』が開催される祭りのようなものだ。

 ランクA以上の冒険者全員が対象となる。

 辞退も出来るが、名誉な事なので辞退する者は殆ど居ないらしい。

 辞退者は、名前の横に『辞退』と書かれる。

 投票は、各ギルドに置いてある用紙に書いてある名前に、丸を付けるだけのものだ。


 皆、噂や見た事ある人を投票しているだけなので、全員の顔と名前が分っっているわけでは無い。

 だから、各ギルドにも参加者の写真を貼り出してみる。


 前世の選挙ポスターのイメージになる。


 そして、優勝者には写真集を発行させる。


「なるほど! それは面白いですな。 今迄以上に盛り上がります。 グランドギルドマスターには私から伝えても宜しいでしょうか?」

「あぁ、いいぞ。 けど、写真はフランが撮るからな」

「勿論ですとも」


 あっさりと交渉は終わった。

 その場で即決出来るのも経営者の力量が試される。

 グランド通信社が、この世界で一番大きいのは納得出来た。


 フランを見ると、口を真一文字に結んで小刻みに震えてる。

 この表情は俺でも分かったので、【念話】で「便所なら行って来てもいいぞ」と伝えると、こちらをみて小声で、


「違うわよ! 話がどんどんと大きくなっているので、少し怖くなっただけよ!」


 ……そうなのか!

 あの仕草は、絶対にそうだと思ったのだが……


「ところでタクト様、写真集とは何でしょうか?」


 ……この世界には、写真集が無いのか?


「簡単に言うと、特定人物の写真を色々と取って、それを何枚も集めたのを本にする」

「それだと、何かいい事があるのですか?」


 ヘレフォートは、不思議そうに答える。


「例えば、手の届かない綺麗な女性がいる。 その女性が普段とは違った服や、表情の写真が沢山掲載されている本があるとしたら、見たいと思わないか?」


 男性陣は、皆「ハッ!」とした表情になる。


「それは、素晴らしい!」


 今迄、大した発言をしていないオージーが大声で叫んだ!

 突然の事で、皆がオージーを見ると冷静になったのか、すぐに座り下を向く。


「優勝者には特典で、写真集が出せる。 それなりに報酬も用意する。 それに写真集発売となれば盛り上がるのは間違いないだろう。 その写真集が売れれば、グランド通信社も儲けが出るだろう?」

「素晴らしい発想ですね。 私達では思い付きませんでした」

「売り上げの分配は相談になるが、誰にも不利益になるような事は無い筈だ。 但し、写真は高級品と思われているので、庶民が手の届く価格に抑えるのが大前提になる」

「確かにそうですね……代表、進めて宜しいですよね!」


 アンガスが、ヘレフォートに承認を求めるが、即決でOKだった。


「それと、これは俺個人の頼み事になるがいいか?」


 ヘレフォートに向かい話す。


「なんでしょうか?」

「グランド通信社と友好的な関係を築けたのは、エイジンのおかげだ。 今回、誤認記事の件で昇進に影響が出るような事はしないで欲しい」

「タクト様、それは!」

「これは、俺個人の頼みと言っただろう。 写真の契約にしろ、ルンデンブルク家の記事にしてもエイジンが信頼出来るからこそだ。 それに誤認記事後も、すぐに謝罪に来てくれただろう」

「……それは」


 エイジンは、言葉に詰まっている。


「タクト様、安心して下さい。 ルンデンブルク家の記事もそうですが、四葉商会との繋がりは、今回の件を帳消しにする位、いえそれ以上の利益をもたらしてくれました。 御心配する様な事は御座いません」


 クロから何も言って来ないので、ヘレフォートの言葉は嘘では無い。


「タクト様は、他にもなにか商売の考えがあるのですか?」

「いくつかあるが、それは言えないな」

「その時は、力に成れるのであれば、最初にお声を掛けて頂きたいと思います」

「あぁ、分かった」

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