第207話 適材適所!

 レイ達エルフの集落まで、必死で走っていた。

 フローレンスが管理する『奈落の密林』まではかなりの距離がある。

 魔法都市ルンデンブルクから、さらに向こうだ。

 険しい崖や、至る所に亀裂がある為、このような呼び名になっているらしい。

 森に着く前に、この亀裂に落下したり、魔物の襲撃でかなりの者が命を落としただろうと推測出来る。 


 森の入口らしき所まで到着したので、少し奥まで入る。

 念の為、人気がない事を確認してから、樹に手を当ててフローレンスに問いかけてみる。


「これはこれは、オリヴィアとリラの紋章持ちとは珍しい」


 手を当てていた樹の後ろから、美女が現れる。

 フローレンスなのは、すぐに分かった。


「情報は読んだんだろ?」


 話すまでもなく、手を添えた時点で情報を読まれている事は分かっていた。


「はい、レイ達の事ですね」

「そうだ」


 フローレンスは、戻ってくる事は問題無いと話す。


「それで、私もタクト様にお願いがあります」

「……樹精霊ドライアドは、俺に頼み事をする決まりでもあるのか?」

「いえいえ、適材適所と言うやつですよ!」


 にこやかに話すが、絶対に面倒臭い依頼に決まっている。


「それで、頼み事というのは?」

「はい、密林中央にある丘の上にいる、スレイプニルの討伐です」


 ……スレイプニル?

 前世で聞いた記憶はあるが、どんな生き物だったかまでは覚えていない。


 フローレンスの話だと、スレイプニルは八本脚の大型な馬で、交配の時期以外は単独で行動しているらしい。

 数年前に、この密林に住み始めたが元々、崖を住処にしていた『サンダーガゼル』の群れと幾度となく、争いをしている。

 他の動物達にも影響が出ているので討伐して欲しいが、生息地が密林の奥な事もあり、何年か前に冒険者が来たきり、その後なかなか冒険者が現れないずに討伐されないままで、悩んでいた所に俺が来たということだ。


 ……オリヴィアの時と、状況が似ているな。


「勿論、報酬は私のスキルと『ドライアドの実』になります」

「リラや、オリヴィアとは異なるのか?」

「はい、私達はその場所に最も適したスキルを取得してますので、それぞれ異なります」

「分かった。 『ドライアドの実』は幾つ貰えるんだ?」

「今、手元にあるのは三つしかありませんので、御渡しできるのは最高で三つですが、二つでお願いしたいと思います」

「そっちの事情もあるだろうから、二つで問題ない。 それよりも、その魔獣は先に討伐した方が良いんだよな?」

「そうして頂けると、ありがたいです」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 フローレンスに、森中央の丘まで案内される。

 向かう先の草木が、分かれて道を作っている。

 相変わらずこの能力は凄いな。

 まるで昔見た映画で、モーゼが海を割ったシーンのようだ。

 しかも、草木に隠れてはいるが所々に亀裂があるので、足を踏み外せば落ちてしまう。

 フローレンスの後を慎重に追う。


 フローレンスが、いきなり立ち止まった。

 目線の先には、大きな八本脚の馬が頭を下げて、草を食べている。


 所々に焼け焦げた跡や、土肌が見えているのはサンダーガゼルとの戦いの痕跡だろう。

 しかし、思っていた以上にデカいな……五メートル以上はあるんじゃないのか?


「この一帯に、被害が出る可能性もあるな! 避難出来る者達は、避難するようにしてくれ」


 フローレンスに、戦闘による二次被害が無い様に伝えるが、既に動物やエルフ達はスレイプニルの影響で、遠くで過ごしていると、教えてくれた。


 スレイプニルとの戦闘を開始する。

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