第208話 八本脚の馬!

 フローレンスが、風下を意識して案内してくれた事もあり、スレイプニルには気付かれていない。

 いつも通り【隠密】で近づくが、スレイプニルは違和感に気が付いたのか、草を食べるのを止めて周りを警戒し始めた。


 ……レベルが高いと、【隠密】の効果も効かなくなるのか?


 左前脚が、いきなり目の前に現れて弾き飛ばされた。


 ……このスピードと、威力は予想以上だな。


 【隠密】を解いて、【念話】で会話を試みる。


「ここから、出て行く気は無いか?」


 スレイプニルは、言葉の相手が俺だと瞬時に理解をして、言葉を返してきた。


「俺がどこに居ようが、お前には関係ない」

「元々、ここに居た奴達が困っている」

「そんな事は、関係ない。 弱肉強食のこの世で、何を甘い事を言っている」

「話しても無駄という事か?」

「そもそも、話す必要などない!」


 交渉決裂か……

 スレイプニルにしてみれば、俺なんて下等生物だから、いちいち相手にしないのだろう。


 隙をつき【神速】で足元に入ろうとするが、前後八本の脚に邪魔をされる。

 【風刃】で、脚の切断をしようとするが、蹄で弾かれた。


 いつも通りにはいかない。

 レベル差がありすぎると討伐自体が難しいので、今更だが【神眼】でステータスを確認する。

『レベル一〇八』と表示された。


 単独での討伐では厳しいか?


 とりあえず、八本ある脚の前後左右のどれか二本を壊せば、動きは封じる事が出来る。


 【神眼】で魔力の流れを確認する。

 コアは、胸元にあるが脚が邪魔で近付く事は出来ない。


 右後脚に少しだが魔力の流れがおかしい。

 どうやら怪我をしているようだ。

 【神眼】の能力はこういった事まで分かるのかと感心した。


 出来る限り、対面となり注意をこちらに向かせる。

 【転送】を使い、スレイプルの後方から、魔力の乱れを感じた場所に【風球】を連続で打ち込む。

 最初の数発で、後ろを向いた瞬間に右の前脚を思いっきり殴る。

 スレイプニルは、大きな鳴き声を上げると、周囲の木々に止まっていた鳥達が一斉に飛び立った。

 ダメージは与えたようだ。

しかし、スレイプニルは俺を見てはいるが、前後左右全てに警戒をしているのが分かる。


 奇襲攻撃なので、何度も同じ手は効かないだろう。


 【神速】で後ろに移動しようとするが、見抜かれて二本の左前脚で弾かれた。

 なんとか、防御はしたが俺もダメージを負った。

 久しぶりに、痛みを感じた。


 幾度と【神速】で距離を縮めようとするが、その度に弾かれる。


 スレイプニルも苛立ってきたのか前脚で地面を削り、こちらに向かってくる仕草を始めた。

 スレイプニルの攻撃を、迎え撃つ構えをとる。

 瞬きをした次の瞬間には、目の前にスレイプルの顔があった。

 大きな口を開けて、俺を食い千切ろうとしていたが、口の中に【火弓】を撃ち込む!

 【分身】をして、二体を連れて後ろに移動する。

 その間も、残してきた分身が、顔に【雷弓】を撃ち込んでいる。


 被害が出ない様に、火系魔法を使うのは制限してきたが、体内に打ち込む分には問題無いだろう。


 俺を含めた三人で右後脚をを囲み、先程の魔力の乱れのある個所へ同時に拳を叩きこんだ。

 鈍い音と同時に、悲鳴を上げたスレイプニルが横転した。


 その後も立ち上がろうとするが、この巨体を支える右後脚が一本だと難しいようだ。

 横転したことにより、胸元にあるコアの場所が、丸見えになっているので、前脚を分身に攻撃させて【神眼】で位置を確認して、拳を撃ち込んだ。

 手首までは肉に入り込んだので、そこから【炎波】【雷撃】【風刃】と魔法攻撃をしていく。

 徐々に傷口が大きくなり、大量の血が流れだしてきた。

 少しづつ、身体を中に入り込ませて、肉をかき分ける。

 その間も、スレイプニルは大きな悲鳴を上げて、前脚で俺を振り払おうとしているが、分身達がそれをさせない様に守ってくれている。


 自画自賛だが、俺の分身達は優秀だ。


 分身にダメージが溜まると消えるのかと思ったが、ダメージは俺に全て返ってくるので、MPとHPが残っている限りは、自動的に消える事は無いようだ。

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