第200話 元冒険者と、拗ねるギルマス!

 ギルド会館を訪れると、受付にユカリが居た。

 「シキブは居るか?」と確認すると用事で出ているが、証明書の件はイリア経由で聞いているので、ギルマスの部屋で待っていてくれと言われた。


「お連れの方も冒険者ですか?」


 ダウザーに声を掛ける。


「正確には元冒険者だな。 少し現役から離れている」

「そうですか、どこかでお見かけした気がしたので」


 ルンデンブルクの領主の顔なら有名だから、冒険者ギルドに居れば知らない筈は無いだろう。

 世間知らずの俺は別だが……


 ギルマスの部屋で、シキブが帰って来るのを待つ。


「本当に、冒険者なのか?」

「あぁ、タクト位の時は冒険者だったぞ! あの頃は楽しかったな」

「今は、楽しくないのか?」

「そうだな、街の住民達の事や、国の事等の面倒事が多い」

「それは分かる気がするな、俺なんて疫病神扱いされるからな」

「なんだ、それ!」


 ふたりして笑う。

 世代的には、前世の俺に近いので自然と会話が会うのかも知れない。


「タクト、俺のような地位の者でも、お前の友人になれるか?」

「当たり前だろ! ダウザーは俺の友だよ!」

「そうか、ありがとうな!」


 嬉しそうに、そして恥ずかしそうに笑う。



「タクト、お待たせ!」


 シキブが、扉を開けて勢いよく入って来た。

 俺達、いや正確にはダウザーが居るのを確認すると、


「ダウザー! いえ、ダウザー様どうして此処に!」

「タクトに、ジークの街を案内してもらっている」


 シキブが鋭い目で俺を見るが、気付かないふりをする。


「ムラサキと結婚したんだな」

「はい、先日結婚致しました」

「言ってくれれば、祝いの品でも出したぞ!」

「ルンデンブルク卿に、恐れ多くて報告なんて出来ません」

「……その口調は、やめてくれないか?」

「そのような事を言われましても、ルンデンブルク卿に対する言葉使いを変える事は、出来かねます」

「相変わらずだな……よし! 昔のような話し方で接する事を許す。 これでいいいか?」

「……分かったわよ」


 ふたりの会話に割って入る。


「シキブと、ダウザーは知り合いなのか?」

「おぉ、昔同じパーティーを組んでいた」

「ムラサキも知り合いよ」

「ダウザーって、本当に元冒険者だったんだな……」

「当たり前だろ! 昔は凄かったんだぞ、なぁシキブ!」

「戦闘はともかく凄かったのは認めるわよ。 タクトほどでは無いけど……」


 言葉に棘があるのは気のせいか?


「タクトは、凄いよな! 俺も初めて見たときビックリしたぞ!」

「ダウザーはタクトの恐ろしさを、まだ分かっていないのよ……」


 もしかして、服を作らなかった事を根に持っているのか?


 その後も、シキブによる俺の規格外説明をダウザーにしていた。

 客観的に聞いていたが、俺という人間が、いかに変だったかを再認識した。


「タクトは、本当に面白いな」

「それに巻き込まれる身にもなってよね」


 ……なんかよく分からないが、スイマセン。


「ムラサキは、どうしたんだ?」

「今日は、トグルの弟子に稽古をつけるって、張り切っていたわよ」

「トグルが弟子を取るまでなったのか!」

「えぇ、タクトの陰謀でね! 弟子といっても冒険者前の子供だけどね」

「……陰謀って、酷くないか?」

「フンだ、いつも御願いを聞いてあげているのに、こっちの御願いを聞いてくれない人にはそういう評価よ!」


 ……やっぱり、服の事を根に持っているんだな。


「分かったよ。 特別だぞ、ムラサキとペアで作ってやるが、絶対に人には言うなよ」

「そう! やっぱりタクトは規格外にいい人だと思っていたのよね」


 コロッと態度を変えやがって……


「そんな服だけで、シキブの機嫌が変わるのか?」


 あとで写真撮影で、服を着る際に質問が来るだろうと思っていたので、この場ではあえて隠さなかった。


「これを着てみてくれ」


 俺は上着を脱いで、ダウザーに渡す。


「着ろって、これ小さいぞ?」

「いいから、着てみろって」


 渋々、俺の指示に従い上着を羽織る。


「おぉ~! すげぇな、これ!」


 大体、最初の言葉はこれだな。


「これは、確かに欲しくなるな!」

「でしょ、でしょ!」


 ふたりで楽しそうに話している。


「タクト! 俺の正装もこれにしてくれ。 いつも重くて肩が凝るんだ!」

「だから、ダメだって。 まだ商品化していないんだ」

「シキブやムラサキには作ってやるのに、なんで俺だとダメなんだよ!」

「……そう言う事じゃなくてだな」

「分かった、タクトより強い奴じゃないとダメなのか!」


 なんで、そういう解釈になるんだ?


「ダウザー、残念だけどタクトは、私達より全然強いわよ」

「ウソだろ! お前やムラサキより強い奴なんて、そうそう居るわけないだろうが!」

「だから、タクトは規格外なのよ……」


 あ~、この感じはステータス見せろって言われるよな……


「タクト、ステータスを見せてくれ!」


 ……やっぱりな。


「見せてやりたいが、俺のステータスは、あまり人に見せたくないんだよな」

「なんでだ?」

「……その、まぁなんだ。 色々とあるんだよ」

「絶対に人に言わないから、安心しろ! こう見えてもルンデンブルクの領主だぞ!」


 ……ダウザーが、ルンデンブルクの領主なのは知っている。

 仕方ないか。

 ダウザーなら、今後もなにかと協力してくれるかもしれないしな。


「分かった」


 ステータスを開示する。


 シキブも一緒になって見ている。

 この間見たばっかだろうに……


「タクト、この間よりもレベル上がっているわよね」

「あぁ、サンドワームやらサーベルタイガーを倒しているからな」

「これなら、ランクSでも余裕で合格するわよ」

「そうか、シキブのお墨付きを貰えれば、安心だな」

「タクト、お前本当にすごい奴だったんだな!」


 ダウザーが、ジッとステータスを見ながら話す。


「凄いかどうかは分からん」

「これは次元が違う強さだぞ。 魔王でも倒せるんじゃないのか!」


 魔王という言葉に、シキブが反応した。

 俺が、アル達の師匠だと知っているからだろう。


「魔王なんて、伝説的な強さだから無理だって!」

「しかしだな……」


 とりあえず、誤魔化す。


「それより、紹介状を忘れる前に貰っておく」

「あぁ、そうね」


 魔王の会話から逸らすようにして、紹介状の件をさりげなく話してみる。

 シキブは机の引き出しから、紹介状を出して俺にくれた。


「ダウザー、もういいか?」

「……あぁ」


 ステータスを仕舞う。


「タクト、本気でもう一度聞くが、俺の配下になるつもりは無いか?」

「無いな。 ただし、友人が困っているのであれば、すぐに駆け付けるぞ!」

「そうか、友人でなく領主としても手助けして欲しかったが、仕方ないな」

「悪いが、諦めてくれ。 貴族の勢力争いに巻き込まれるのは御免だからな」

「たしかに、それは面倒だな」


 ダウザーは、残念そうに溜息をついた。


「それと、服の件はどうなんだ!」

「あぁ、特別に作ってやる」

「そうか!」

「ちゃんと報酬払えよ! 物凄く高いからな!」


 シキブもダウザーも「勿論!」と答える。


「デザインの相談は、別でするから大体の案は考えておいてくれ!」


 ニヤけた顔で頷いている。


「じゃあ、リロイの所に行くから、ルンデンブルクに一旦戻るぞ!」

「おぉ!」


 シキブに別れの挨拶をして、【転移】でルンデンブルクに戻る。

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