第166話 アラクネ族からの依頼!

 もう少しで、アラクネの集落に着く。

 森に入る手前で厄介な相手と出くわした。 『ガーゴイル』だ。

 気付いたら上空で、五匹に囲まれてた。


 完全に【危険探知】が作動していない……


 空と地上からの攻撃だが、良く連携が取れている。

 取り囲まれるように誘導しながら、【威圧】を発動して【雷撃】を自分に掛ける。

 仕留めるつもりで取り囲んだ四体はその場で倒れこんだ。

 空の一体もジャンプして、心臓部に【風球】を叩きこんだ。

 倒れこんだ四体が死んでいる事を確認して【解体】する。


 長期戦になる前に、短期で一気に勝負を着けるのが俺には合っているようだ。



 森に少し入って行き、近くの樹に手を当てる。

 『大樹の祝福』を発動させて交信を試してみる。


「珍しいですね」


 振り返ると樹精霊ドライアドと思われる女性が立っていた。


「突然、邪魔してすまない」


 用件を言おうとするが、


「アラクネ族との交渉ですね」


 思考は読まれていた。


「あぁ、勝手に入るのも悪いので、挨拶させてもらった」

「礼儀正しいんですね。 リラが気に入るのも分かる気がしますね」


 樹精霊ドライアドは『オリヴィア』と名乗った。

 この森は『蓬莱の樹海』と呼ばれているこの国では一番大きな森になるそうだ。


「害は無さそうなので、案内しますね」


 オリヴィアについて森の中を進んでいく。

 途中、樹木が動いて道を作っている。

 所々に、人族や魔族の白骨が転がっている。


 侵入者対策か……


「着きました」


 アラクネ族の集落だ。

 樹の上に皆、固まっている。

 上半身は人族だが、下半身は蜘蛛だ。

 成人と思われる者は、蜘蛛の部分だけでも二メートルはある。

 上半身は、俺達と変わらない大きさだ。


 上のアラクネ達に向かって、


「突然、邪魔してすまない。 人間族のタクトと言う」


 言葉が通じるか分からないが、まず喋ってみた。

 糸を出しながら、一体のアラクネが下りてきた。


「アラクネ族の族長を務めている『クララ』と言う」


 俺は、単刀直入に糸の購入を申し出た。


「それは出来ない相談だ。 人族は信用に値しない」


 ……厳しいな。


「クララ、この方はリラから『大樹の祝福』を受け取ってます」


 オリヴィアが助言してくれたので、『大樹の祝福』を見せる。


「……リラ様が!」


 クララは悩んでいた。


「お前が信用出来るかを試してもいいか?」

「あぁ、それは構わない」


 簡単なのだと、助かるんだが……


「一つ目は、『クラウドスパイダー』の討伐だ」

「同族討伐の依頼か?」

「失礼な! あんなのと一緒にするな!」


 クラウドスパイダーは、上空に雲に似た巣を作って、獲物を捕獲している。

 食後に出たゴミ等を溶かさずに、そのまま地上に落とす為アラクネ達は迷惑しているそうだ。

 オリヴィアも良い案だと賛成していた。


「その巣は、すぐに分かるのか?」

「あぁ、近くまで行けば雲と異なるので、すぐに分かる」


 ジャンプして、届くかが疑問だな。

 届かなければ、特訓してレベルを上げるしかないな……


「二つ目は、鏡を調達して来い!」

「鏡?」

「あぁ、人族には鏡なる自分の姿を映すものがあるのだろう」

「たしかにあるが、なんでだ?」

「……自分の姿を見たいからに決まっている」


 たしかに、森に居る限り自分の姿を確認する事は難しいな。

 しかし、鏡か。 手鏡でもいいんだよな。


「分かった」



「私からもいいかしら?」


 オリヴィアが話に入って来た。


「私の依頼を受けて貰えるかしら?」


 このパターンは断れないんだろうな……

 報酬について話そうとすると、


「報酬は、私のユニークスキルとドライアドの実三つです」


 先に提案された。


「ユニークスキルは、リラと違うのか?」

「えぇ、今後の貴方には必要なスキルと思います」


 笑顔で答えるが、この笑顔が俺に対して幸せをもたらすとは限らない。


「どうせ、断る選択肢はないんだろう!」


 オリヴィアは笑顔のまま、何も言わない。


「それで、依頼というのはなんだ?」

「はい、森の外れに居るサイクロプスと岩場にいるコカトリスの集団の討伐をお願いします」


 サイクロプスは三体程で、森の樹を目的もなく抜いたりする。

 コカトリスの集団は、一年ほど前に何処からか飛んできて移住したが、敵を攻撃する際に火を吐いたりするので、頻繁に火事を起こしている。


「要するに、森の管理者からすれば迷惑って事なんだな!」

「はい、その通りです」


 笑顔を崩さない。


 ……たしか、冒険者ギルドのクエストに、この二つの討伐あったよな。


「オリヴィアとクララの依頼は引き受けた。 とりあえず、クラウドスパイダーを退治してくる」


 その場で、思いっきりジャンプする。

 雲より少し高く飛べている。

 雲をよく見てみると、確かに糸を編み込んだ雲が三つ程ある。


 ……あれが、そうなのか?


 火魔法を使うと、落ちて火事になるので今回も使用禁止だ。

 【雷球】をそれらしき雲に目掛けて投げてみる。


 クラウドスパイダーの巣に当たると、一気に光を放つ。

 三つ共、雲の形を保ったまま落ちて行った。


 ……思っていたより弱いのか?


 墜落した場所を確認して追撃するが、既に死亡していた。

 俺の攻撃に、ビックリしたのか雲が少しづつ移動していく。


 ……ほとんどが、クラウドスパイダーの巣だったのか?


 雲を構成していた糸も切れることなくそのままだったので【アイテムボックス】に仕舞う。

 クラウドスパイダーも、【解体】する。


 墜落した残りの二ヶ所を確認したが、同様に死亡していた。



 アラクネ族の集落に戻り、クラウドスパイダーを倒した事を伝えるが、既に雲が無くなった事と近くに気配が無いので分かっていたようだ。


「まさか、一瞬で退治するとは……」


 クララは驚いていた。

 他のアラクネ達は、先程まで警戒して静かだったのが嘘のように賑やかだ。


「オリヴィア、このままサイクロプスやコカトリスを倒していいか?」

「えぇ、勿論ですよ!」


 嬉しそうに答えた。

 オリヴィアにそれぞれの近い場所まで案内してもらう。


「場所は分かったので、一旦街に戻って用意するが、またすぐに帰ってくる」

「はい、期待してます」


 オリヴィアは、俺に向かって手を振る。

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