第162話 戦闘ごっこ!

 食事等もなくなり、宴も終わろうとしている頃、ネロにザックとタイラーがなにかを言っている。


「どうしたんだ?」

「師匠~! コイツ等が嘘つきっていうの~!」

「ん?」

「だって、コイツ魔王って言うんだぜ」


 そういうことか!


「ザックにタイラー、冒険者なら見た目で判断すると命を落とすぞ。ネロは間違いなく魔王だ」

「ウソだ~!」


 全く信用していない。

 トグルが通りがかったので、呼んでやる。


「お前ら、馬鹿か! ここ以外だったら死んでいるぞ!」


 トグルが本気で怒ったのが意外だったようで、少しは信じたみたいだ。


「ネロ、俺と簡単に戦闘ごっこするか?」

「するの~!」


 ザックとタイラーには、実力を見せるのが一番だな。


「よく見ておけよ」


 魔王との直接戦闘は、俺も初めてなので緊張するな。

 どれだけ手を抜いてもらえるかだな!


「トグル、合図頼む!」

「あぁ」


 お互い離れて合図を待つ。


「始め!」


 トグルが言い終わると同時に、一気にネロが距離を詰めてきた。

 予想より全然速い!


 ネロの拳を横に躱すと、躱した先の山に窪みが出来た。

 そのまま俺はネロに蹴りを入れるが、余裕で躱された。

 躱された足の反動を利用して、逆の足で蹴り込むと、森の樹を倒しながらネロが吹っ飛んだ。

 蹴られた瞬間に、俺の体にも一撃が入っていた。

 ……流石、魔王だな。痛みを自覚するまで攻撃が分からなかった。

 追撃に対応しようと構えた瞬間に、空中に姿を現して一気に下降してきた。

 ……おいおい、どれ位の力で戦っているんだ!

 カウンターで拳を出す。


「そこまでじゃ!」


 アルが、俺の拳とネロの拳を掴んでいる。


「え~! これから、いいとこなの~!」


 不満そうなネロだが、アルが目でトグルの方を見ていた。

 目線を移すと、ドン引きしている村人他多数が居た。


「あ~、ネロと少し遊んだだけだから、気にするな」


 ザックとタイラーは震えて涙目になっている。


「見た目で判断するなという事が、分かったか?」


 二人共、頭を上下に大きく動かす。


「ネロには、ちゃんと謝っておけよ」


 さっき以上に、頭を大きく上下に動かした。


 ネロもそうだが、あっさりと攻撃を止めるアルも流石だな。

 しかし、森を壊した事でリラが怒っていないかが心配だ……。


 皆の所に戻ると、シキブからお叱りを受けた。

 ムラサキとゾリアスは、力の差にショックを受けてお互いを慰めていた。

 戦闘する気も無くなったらしい。


 ザックとタイラーは、必死でネロに謝っている。

 殺されるとでも思っているのだろう。

 アルもフォローしているが、トラウマにならなければいいんだが……。


「御迷惑おかけしました」


 リベラが、弟達の謝罪に来た。


「謝られることじゃない。この段階で、見た目で判断しないという事が分れば、冒険者になるなら良い事だ」

「そうですね、あの子達にはいい薬です」

「冒険者になるのは、姉としては反対か?」

「……はい。死と隣合わせですから、心配です」

「一本角なのを気にしているのか?」

「そうですね、二本角程強くないので、実力が分かった時に無茶をしなければいいんですが」


 今の、トグルがそうだな。


 ネロとアルが、ザックとタイラーを連れて俺の所に来た。

 後ろにはトグルも居る。


「ネロには、ちゃんと謝ったか?」


 ザックとタイラーに聞く。


「うん。 ネロ様もアルシオーネ様も許してくれた」

「そうか、トグルに鍛えて貰えよ!」

「はい!」

「いい返事だ」


 後ろでトグルが、俺を睨んでいる。

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