第139話 スラムの状況!

 建物の中に案内されて、改めて挨拶をする。


「タクトだ。冒険者だが一応、四葉商会の代表もしている」

「ゾリアスだ。ここを統括している」


 隣には、ウルガーと虎人の『イルティー』が座る。


「それで、俺をお茶に誘った理由はなんだ?」


 向こうも目的があるから誘ったので、単刀直入に聞く。


「言っただろう、お前が気に入ったからだよ」


 答えになっていない気がする……

 隣のウルガーを見ると、腕から出血している。


「ウルガー、怪我したのか?」

「お前を攻撃した時だよ!」

「そうか、それは悪かったな!」


 ウルガーに【治癒】を掛ける。

 席に居た三人は驚いていた。


「そういえば、さっきの大男は大丈夫か?」


 ゾリアスが、ウルガーを見る。


「あぁ、あいつなら擦り傷だけだ」


 大した怪我でない事を教えてくれた。


「そうか、治さなくていいか?」

「あぁ、大丈夫だ」


 ゾリアスは、テーブルにある飲み物を口にしてから、


「タクト、今のはもしかして【治癒】か?」

「あぁ、俺は魔法を思い浮かべれば、口にしなくても発動出来る」

「……お前、本当に人間族か?」

「あぁ、そうだ。見ての通りだ」


 ゾリアスは、呆れた顔をしている。


「それよりも、聞くのも変だがなんで結婚式を妨害しなかったんだ?」

「あぁ、その事か……」


 このスラムは、前領主の頃はかなり荒れていて、冒険者による武力行使も行われていた。

 リロイが領主になった際に、領主と執事のふたりだけで、ゾリアスに挨拶に来たそうだ。

 リロイは、ゾリアスに対しても同等に対応をして、逆に分からないことがあったら聞きに来ていいか? と言う程だった。


 リロイらしいな……


 その後も、特に武力行使とかもなく平和に過ごせたことと、リロイの人柄の事もあり妨害する気は最初から無かったと、恥ずかしそうに話した。


「しかし、お前がリロイ様の結婚式を、取り仕切っていたとはな!」

「まぁ、成り行きでな……」

「タクト、会っていきなりだが頼みたい事がある」


 ゾリアスは、かしこまった口調に変わった。

 それよりも、ゾリアスがリロイを『様』付で呼んだ事に驚いた。


「実は、このスラムには怪我や病気の奴らが居る。 大した報酬は払えないけど治してやってくれないか?」

「あぁ、いいぞ。それと報酬は別にいらないぞ!」

「はっ? 無報酬でか!」

「あぁ、別に減るもんでもないし、皆元気になった方がいいだろ?」

「いや、それはそうだが……」

「じゃあ、今から行くから案内してくれ」

「今からいいのか?」

「あぁ、怪我や病気で苦しんでいるんだろう」

「……恩にきる」


 ゾリアスとスラムの怪我人や、病人を治して回った。

 スラムとはいえ、普通の人族だ。

 てっきり、魔人などもいるかと思っていたが、流石に街中なので居なかった。


 それなりの事情があって、ここで暮らしているのだろうが、聞かれたくない事や思い出したくない事もあるだろうと思い、特に余計なことは話さずに【治癒】と【回復】のみを施した。


 往診が終わり、ゾリアスの住処に戻って来た。


「タクト、本当に感謝する」

「別に、俺が出来る事をしただけだ。それよりも子供が多いのには、なにかあるのか?」


 俺の質問に、ゾリアスは黙り込んだ。

 あまり、聞かれたくない事だったのか?


「悪い、別に話さなくてもいい。少し気になったから聞いただけだ」


 返答しなくても良い旨を伝える。


「別に話したくないわけじゃない。どこから話をするのがいいのかを考えていただけだ」


 前領主によるスラム討伐の際に、年老いた者達は若い連中を逃がす為に囮となり、ほとんどが殺された。

 ゾリアス達も戦おうとしたが、子供達を守る事を優先する様に言われた為、断腸の思いで隠れていたという。

 生活環境も悪く、怪我や病気をしても治療にかかる貨幣が無い為、自然に治るかそのまま死ぬかしかない……


「怪我人や、病人が居たら俺に連絡くれ! 治せる範囲であれば必ず治す!」

「しかし、支払う金は無いんだぞ!」

「あぁ、だから無報酬だ!」

「俺達は有難いが、お前はいいのか?」

「何がだ?」

「いや、普通に治療を施してもらうだけでも、金貨一〇〇枚以上は必要になる。お前は商人ギルドだろ?」

「あぁ、そうだ。 目に見える金や商品だけでなく、俺は人として信用も売り買いしたいんでな」

「お前、本当に変わっているな!」

「俺の長所は、常識外れだからな」

「なんだ、それ」


 ゾリアス達は笑い始める。

 俺もつられて笑顔になる。


「あぁー!」


 突然、イルティーが叫んだ!

 驚いたゾリアスが「どうした!」と聞く。


「思い出した! タクトって、一日で冒険者ランクBになって、翌日には商人ランクSになった奴だ!」

「あぁ、そうだぞ。なにか変か?」


 三人共、無言になる。

 その後、ゾリアスが笑い始めると、ウルガーも同じように笑った。


「タクト、お前の長所が常識外れなのは合っているな!」

「だろ!」


 その後、スラムの事情を少し聞いた際に、質問をする。


「このスラムは、誰の管轄なんだ?」


 建物や生活環境が気になった。


「リロイ様の筈だ」


 前回の領主からの討伐は、領主の持ち物に勝手に住んでいるという名目だった。

 その他にも、街から物を盗んだりと悪事を働いていたことも要因のひとつだ。


 リロイが領主になってからは、窃盗などもせずに、街の外に出て狩りをして自給自足をしながら、細々と生活していた。


「そうか。余計な事かも知れないが、御前達はこのままこの生活を続けていくのか?」

「俺達には、陽の当たる場所での生活は出来ないだろう。ただ子供達は可哀そうだ……」

「陽の当たる場所に出たいのか?」

「出たい気持ちはあるが、俺達の様な物を受け入れてくれる場所なんてないだろう」


 犯罪でも犯したという事か?


「それは、前科があるという事か?」

「それもある」

「冒険者なら前科も関係ないんじゃないのか?」

「あぁ、俺達なら冒険者でも可能だ。しかし、戦闘を嫌がる者や元奴隷等条件も様々だ……」

「そうか、明日の昼過ぎに来る時までに、スラムの人数と、子供の数等を調べておいてくれるか?」

「いいけど、お前何する気だ?」

「お前達が喜んでくれる様な提案を持ってくるよ」

「そうか、お前はもう俺達の恩人だから、不利益になる様な事は無いと思うが……」

「こんな俺を、恩人と呼んでくれて嬉しいな」

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