第131話 噂の彼との、その後!

「私ではありませんよ?」

「そうですか、私でも無いんですよね?」


 シロとマリーが、なにやら話し込んでいる。


「どうかしたのか?」

「それがですね……」


 シロの話では、昼にニーナの着替えを手伝っていた際に綺麗な刺繍を見つけたので、マリーが縫ったものだと思い、マリーに話したがマリーも覚えが無いという。


「記憶違いじゃないのか?」

「それはありません」


 ふたりとも否定する。

 どういうことだ?

 クロは関わっていないし、あと関係するのはライラとフランだが、裁縫スキルは無いはずだ。

 外からの侵入者も考えにくい。


「この件は俺が預かるから、まだ誰にも言うなよ」


 不確定な事を話すといらぬ不安を招くので、他言無用とした。


 二階の改装は、塗装も含めて完了した。

 ソファとテーブル、椅子と買い揃えた。

 ソファと椅子は、どちらでも座れるように用意した。


 一階の改装は、間仕切り壁は完了したが、スタジオ作りがなかなか思うように進まない。

 フランにも意見を聞きながら進めるのだが、フラン自身も考えがまとまっていないのも原因である。


「フラン、今日じっくりと考えて、明日にでも教えてくれ」

「うん、分かった」


 クロとふたりで、販売スペースの改装を優先的にする。

 マリーに意見を聞くが、彼女は人の動線や販売方法等について、積極的に意見してくれる。

 やはり、マリーには商人としての才能があるな……

 

 マリーとライラ、シロを呼ぶ。

 ライラとシロを客に見立て、販売の予行練習をしてもらう。

 開店までは何度も繰り返して、接客になれるようにして貰う。


「タクト、カメラ借りてもいい?」

「いいけど、何を撮るんだ?」

「一階の空間を一応撮っておこうと思ってね。 今後、なにかの役に立つかも知れないから」

「いいぞ。 好きに撮ってくれ、フランには俺から話しておく」

「ありがとう」


 楽しそうに笑うマリーに、カメラを渡す。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 クロと不足している物の買出しをする。

 すれ違う女性達が、クロに興味を示しているのが分かる。

 本人達は聞こえないだろうと思っているのか、クロを絶賛した後に俺と一緒なのを不思議がる。

 確かに言いたい事はよく分かる。


「クロは、それ以外の服を持っていないのか?」

「はい。 服と言うより体の一部の近いですから」

「そうなのか」

「因みに、服のみ無くす事も可能ですので、別の服を着る事も可能です」

「それは、便利だな」


 基本、着替えは必要ないということか。

 原理的には、シロも同じという事だな。

 

 そういえば、今朝撮影した写真を飾る写真立てが無いので、ついでに買うことにする。

 ドワーフに作って貰ったほうが安いかもしれないとも思ったが、あまり依存するのも良くないので止めた。


 『道具屋』を見つけたので入ってみる。


「いらっしゃいませ!」


 店員が入店した際の挨拶をしてくる。

 店内を物色して、『MP回復薬』を見つけたので、フラン用に買うことにした。

 なんとなく無理をしてMP不足になっているのが分かる……


 しかし、店頭には三つしかない。


「これの在庫は幾つあるか?」

「確認致しますので、少々お待ちください」


 店員は奥へ確認に行った。


「主、あの店員ですが、ユカリ様が御話になられていたアランコ様では?」

「そういえば、道具屋で働いていると言っていたな」


 クロから言われるまで、全く気付かなかった。


 奥から店員が戻ってきた。


「店頭のも含めて、全部で十六本になります」

「それ全部貰う」

「ありがとうございます」


 写真立てを探すが、見当たらないので店員に聞く。


「写真立ては無いのか?」

「写真自体が高級品の為、そのような物は御座いません。 紙を立てるこのような物であれば、当店にもありますが……」


 カードか手紙を立てるような物を、近くの棚から持ってきて説明をする。

 確かに、写真を立てる事は可能だな……


「それを、三つ貰おうか」

「ありがとうございます」


 買った商品を簡単に包んで貰い、支払いを終えると店員が、


「失礼ですが、タクトさんとクロさんでしょうか?」

「そうだが?」

「ユカリから、噂は伺っております」


 ユカリは、クロの助言通りにアランコに本音で話をしたらしい。

 アランコも、ユカリの気持ちに気付かなかった事や、思っていたことを全て吐き出したようだ。

 お互い本音で話した事で、スッキリしたと報告してきた。


「そうか、それは良かったな」

「はい、御二人のお陰です。 ありがとうございました」

「鑑定士は、目指すのか?」

「はい。 しかし、ユカリを寂しがらせないように、努力はしています」


 嬉しそうに話すアランコ。

 ユカリも俺達に会ったら、同じような顔で報告するのだろう。

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