第99話 世知辛い世の中!

 昼になったので、食事をしながらフランとマリーに昨日の事を報告した。


「そうでしょうね。普通は信じられないですよね」

「普通の生活ではまず、体験しないですからね」


 報告の内容についても、おおよそ見当は付いている様で驚きも無かった。

 既に驚くという感情が、麻痺しているのかもしれないな。


「ところでふたり共、今何しているんだ?」


 この街に来てからは、殆ど別行動なので近況を聞いてみる。


 フランは、最初住み込みで仕事を探していたが、中々見つからなかった。

 住み込みとは別に、新聞社で働きたかったようだが採用枠がないとの理由で、門前払いだったようだ。

 多分、身分が低い事もあってまともに取り合ってもらえなかったのだろう。


 やりたいと言っていた仕事は、『情報士』だと言う。

 情報関係の仕事で、皆に知らなかった事を伝えたい。

 これは小さい頃からの夢で、姉に絵を褒められたのをきっかけに、挿絵の仕事から興味を持ち始めて、今は情報全般に関われる仕事をやりたい。

 姉に応援されていたので、妥協はしたくないと力強く語った。


 姉というのはゴブリンの集落で、俺が殺した娘の事だな……。


 今は、村の入り口で街案内娘アヤからの依頼で、挿絵を描いたりして簡易的なパンフレットを作っている。

 それだけでは、食べていけないので文字写しのバイトなどをしているらしい。

 仕事自体は楽しいが、生活は苦しいそうだ。


「大変そうだな」

「そうね、けど覚悟して村を出て来たからには頑張らないとね……」

「何かあったら、連絡しろよ」

「うん、ありがとう」


 マリーは、飲食店で住み込みのバイトをしているが、相変わらず皿を割ったりしてクビ寸前らしい。

 フラン同様に身分が低い為、なかなか良いバイトにはありつけない様子だ。

 奴隷生活に比べたらマシだというが、元気が無い気がする。


「マリーは、フランのようにやりたい仕事は無いのか?」

「別に無いわね。私が得意なのって、人より少し計算が出来たり、趣味程度の裁縫位だけど役に立つところなんて無いから……」


 そうか、商人の娘だっただけあって英才教育はされていたのか。

 この世界の計算はレベルが低いけど……。


 奴隷から解放されても、手探り状態で生活するマリー。

 ゴンド村での生活の方が良かったのでは無いのかと思うが、街での生活を希望したマリーには、何か心に決めた事でもあるのだろう。

 俺でよければ、そういったことも相談に乗ってもいいのだが、なかなか聞くきっかけが無い。



「役に立ちそうな仕事を見つけたら、連絡するわ」

「ヨロシクね!」


 ふたりに土産を持たせて別れた。

 村から出て来た娘には、厳しい世の中かも知れないな……。

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