第79話 教育係?断固拒否する!

「これ、今回のクエストの戦利品」


 クエストである『バーニングボア』の死体を五匹テーブルの上に置いた。


「相変わらず早いですね。 鮮度も良いので喜ばれると思いますよ」


 受付をしていたユカリが楽しそうに話す。

 換金に時間が掛かると言われるが、急がなくて良いと伝える。


「シキブ居る?」

「はい、お取次ぎしますか?」

「頼む」


 奥まで行き二階に上がる様に言われ、ギルマスの部屋に行った。

 扉を二回ノックすると、扉の向こうから「どうぞ」と返事はあったので、扉を開けて部屋に入った。

 部屋には、相変わらずムラサキも居た。


 サブマスだから、当たり前なのかもしれないが……


「もう落ち着いたか?」

「まだよ。 一日一〇~二〇件くらいの問い合わせがあるわよ!」


 結婚式から一週間経った。

 『四葉商会』は謎に包まれたまま、不思議な存在として人々の噂になっている。

 シキブとムラサキにもピークは過ぎたとはいえ、日に数件だが未だに問い合わせがあるようだ。


「何か用だったか?」


 ギルド会館に来る途中に、シキブから連絡があり寄って欲しいと言われていた。


「あぁ、お前に御願いしたい事があってな」


 シキブでなく、ムラサキが話し始めた。

 個人的な事でなく、ギルドからの依頼か?


「話だけでも聞いておこうか? シキブが好きすぎて困るとかは相談に乗れないけどな!」

「もう、タクトったら」


 顔を赤らめて、ムラサキをバシバシと叩いている。

 この光景が最近面白くなってきている。

 本当に揶揄いがある。


「っ! いやそんな事ではないんだ」


 シキブの手がピタッと止まり、


「……そんな事!」


 あっ! 地雷踏んだ。

 血の海になるのか。


「えっ! いやそういうんじゃなくてだな!」


 ムラサキは、完全に動揺している。


「そうだよな、シキブが好きなのは当たり前だから、そんなくだらない質問した俺が悪かった」


 ここはフォローしないと、ムラサキが再起不能になってしまう。


「ぉ、おう、そうだ。 当たり前の事を聞くんじゃない!」


 ムラサキは、危険を回避した。


「もう、当たり前だなんて! タクトの前で恥ずかしいじゃない!」


 また、叩かれ始めた。


「いやいや、こちらこそふたりっきりの甘い時間にお邪魔してすまない」

「んっもう、甘い時間なんて!」


 シキブの手が加速した。ムラサキは無言のまま我慢している。

 本当に、このふたりは面白い。


「話を再開していいか?」


 ムラサキは痛みを我慢しながら、必死で話した。


「あぁ、相談事ね」


 相談の内容は、低ランク冒険者についてだった。

 基本的に冒険者は自己責任だ。

 昔はパーティーを組んで、ひとりは高ランク者が付き添ったりしていた。

 しかし最近は、レベルの高い冒険者は自分のレベル上げを優先にする為、レベルの低い冒険者へ指導する事はしない。

 そんな状況なのでレベル差は開く一方で、焦ったレベルの低い冒険者は実力以上の場所に行き、怪我や死亡する事が発生してるとの事だ。

 この街では無いが、他の街ではレベルの低い冒険者を囮に使い、より経験値の高い魔物を狩る事件も起きてるらしい。


 確かにパーティを組んでいれば、生きてさえいれば経験値を得る事は出来る。 生きてさえいればだが……


 冒険者ギルドの本部も、若手の底上げが必要と判断して、各拠点での育成の依頼が来ている。


「それが、俺とどんな関係が?」


 指導者なら、シキブもムラサキも居るし、口下手だがトグルも居る。

 他にもそれなりの冒険者が、この街には数人居る。


「パーティーのフォーメーションや前衛職であれば、俺やトグル等多くいるのだが、後衛職になると教える奴が居ないんだよな」


 確かに、後衛職の魔法使いや弓使い等は少ないな……


「俺、無職だから教えれないぞ」


 言われる前に、防衛する。


「えっ! おいまだ何も言ってないだろう」

「今の話の流れだと指導員やれって事だろ。 無理だから!」


 そんな面倒臭い事……前世で、新人研修という名目で押付けられた記憶がある為、回避出来るのであれば早々に回避するべきだ。

 そもそも俺自身が、前衛か後衛かで戦闘していない。

 攻撃魔法を使えるというだけで、後衛職も出来ると決め付けて欲しくはない。

 ムラサキは、しつこかったが断固として拒否をした。


「そもそも、パーティーは一回しか組んだことないから無理だ!」


 この言葉で、ムラサキも引き下がった。

 その一回も、俺は何もしていないし……

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