第58話 商人ギルドの小悪党!

 商人ギルドに向かう道中に、【全知全能】で『冒険者ギルド』と『商人ギルド』の両方に登録可能かの確認をした。

 回答は、問題無い。

 行くついでに、『商人ギルド』登録でもしようかと考える。


 呼び名も、「タクト」「ローラ」の方が気分的に楽という事でお互いそう呼ぶことにした。

 ローラは最初から、変わっていないが……


 冒険者ギルドから、一〇分程歩いた所に商人ギルドの『産業会館』があった。

 ギルド会館の半分以下程度だ。

 特にこの場所で活動するわけでなく、登録だけの場所なので広さは必要ないのかも知れない。


 ローラが扉を開けて中に入る。

 受付嬢が一人いるだけだった。


「ギルマスは居るか?」


 ローラは受付嬢にギルマスを呼んで来るように言い、暫く待った。

 受付の奥からギルマスらしき男性が現れた。

 左胸のネームプレートには『ロックス』と書かれている。


「ローラ様、どうされましたか?」

「今から、ギルド会館に引っ越す。 今まで世話になった」


 ロックスは、突然の引っ越し宣言に驚き、


「なにか、お気に障るような事でも致しましたでしょうか?」

「いや、快適だったぞ!」

「では何故!」


 商人ギルドとしては、中央都市とのパイプを強めるのと同時に、法外に近い宿代が魅力なのだろう。


「コイツに興味があるからだ!」


 右手で俺の胸を軽く叩く。

 ロックスは見知らぬ男のせいで、不利益を被るのかと俺を睨んでいる。


「貴方様は?」

「あぁ、タクトという」


 ロックスに名乗ると、何か感づいた様子で


「貴方が、昨日から噂されているタクト様ですか!」


 噂って、ランクBの事か? 宴会の事か?

 どちらか分からないがどうでも良い。


「噂になっているかは知らないな」


「というわけで、今から引っ越すから!」


 ローラは自分のペースで話を進めるが、ロックスは納得出来ていない。


「ローラ、商人ギルドに泊まることを条件に王都から来たのか?」

「いや、この街に着たらそこのギルマスが迎えに来てくれて、ここを格安で貸してくれた」

「……格安?」


 ロックスの方を見ると目線を逸らしている。

 明らかにボッタくりだ。

 商人だから取れる所からは、根こそぎ取るという事か?


「それが本当なら、ローラがどこに泊まろうが関係無いよな?」

「確かにそうですが……」


 どうも、ロックスは交渉が下手の様だ。

 コネや賄賂等で、今の地位まで登りつめた対応だろう。

 勝手な俺の推測だが、そういうのは嫌いなタイプだ。

 このまま引っ越してもいいが、あとでシキブへクレームが入ると面倒だな。

 どうせなら強気な交渉で叩き潰して、今後の主導権をこちらにしたほうが都合いいな。


「ロックス、俺が商人ギルドの試験を受ける。 ここで受けれる最高ランクまでだ! それに受かれば、このままローラの引っ越しを認めろ」

「ふん、何を言っているのか。 それではこちらにメリットが無いではないか」

「そうか、残念だ。 では王都に宿代の件と、どこかの街のギルマスが帳簿に細工して、運営資金を私利私欲の為に使っている事を報告しにいくか!」

「……なっ!」


 どうやらビンゴの様だ。

 大なり小なりこういうタイプの小悪党は横領しているものだ。

 クロの能力を使うまでも無く、カマをかけてみた。

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