7 危難の格付
そして白い服の男と入れ替わり、草原に佇む他の人影が揃って前へ進んできた。その数は五人。彼らは歩き出すと、イサム達に近付いてくる。
イサムは横で支えるユーラが力むのを感じた。移動でも疲弊しただろうユーラは、体重を完全にイサムに預けている。これではユーラ一人で立つことは叶わず、ナリアでも支えきれない。
ユーラはイサムの肩に回した右腕を弱々しく持ち上げた。そして確かめるように拳を握ったり開いたりした後、開いた手の平を迫り来る男達へ向ける。
イサムはユーラを後ろに下がらせて、自身が戦うことも考えた。しかし負傷のないイサムが戦うよりも、今も尚痛みに苦しむユーラの方が戦力になることは、誰もが認める事実だった。
無力を悔しく思いながらも、何かあれば法術で治る自分の体を盾にしようと、イサムはユーラの代わりに持つポールを強く握り込み、向かってくる男達をじっと見詰めていた。
ゆっくりと進んでいた男達はイサム達との距離が十五メートルを切ると、一気に距離を詰めに走り出した。
ナリアとユーラは走る男達を目にしても動こうとしない。それは男達を引き付けようとしているのか、それとも何かを待っているのか。イサムは一人緊張が増していく中で、後退しようとする気持ちを肩に感じるユーラの重みで抑えていた。
草原をかき分けて進む音が響き、男達が近付いてくる。
しっかりと根を張り、腰の高さまで伸びた草の中を進む男達の速度は思っていた以上に遅い。だがその遅さが余計にイサムの緊張感を煽ってくる。
イサムは緊張に胸を苦しくしながらも迫る男達を見詰め続け、また辺りに注意を払うことも忘れなかった。
「来た」
最初、誰かの呟いたその言葉を、イサムは前方から迫り来る男達を示したものだと思った。けれど前方からの男達が近付いてくる音とは別の、後方から何かが疾走してくる音を耳が拾うと、それが間違いだと気付いた。
それは男達の走る速度を優に凌駕して、イサム達へ迫ってきていた。
イサムは反射的に後方へ振り向き、右手に持つポールを迫り来る音の方へと突き出した。その行動はもう失敗したくないという、痛い経験と強い後悔がイサムの体を動かしたのかもしれない。
そして竜が再び姿を見せた。
勢いそのままに、竜はイサムの持つポールと衝突する。
ポールが衝撃にイサムの手から弾け飛んだ。けれど手首に巻かれたストラップが繋ぎ止め、イサムは慌てて握り直すと、衝撃で崩れた体勢を立て直す。
一方、ポールの直撃を受けた竜は地面へ横倒しになって滑り込み、そのままイサムの足にぶつかって止まった。
イサムの足元に転がる竜はすっかり昏倒している。それは先ほどの竜とは別固体のようで、体が少しばかり小さかった。
イサムは自身の成したことが信じられなかった。それは只の偶然でしかない。だが目に映した倒れた竜と手に残った痺れが手応えとして、達成感を与えてくる。二人の恐れていた竜を、自分が仕留めたのだ。
何処かぼんやりとしつつ、胸の内に何かが染み渡っていく心地の中、イサムは前方から聞こえる男の悲鳴で気を戻した。
まだこの事態を切り抜けたわけではなかった。竜から視線を外して前を向けば、既にユーラの魔術によって一掃された後のようで男達の姿はなくなっている。だがそれと同時に、遠くで新たに立ち上がるいくつかの人影がイサムの目に入った。
「行くわよ」
ユーラの気を張った声が飛ぶ。
そうして三人は森から離れるように、草原に立つ男達に向かって再び足を動かし始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます