#5 傘と空
「歩くん!おっはよ__」
「こっちに来るな」
「……え?」
「もうこれ以上、僕に関わるな!……顔も見たくない」
「え…待っていったいどうし_」
「僕にはもう…どうしようもないんだ。じゃ、さようなら」
「歩く_」
_言ってしまった、全く真逆なことを。あの後一人コンビニに駆け込み、牛乳と菓子パンをさっと買って、僕はそそくさと生徒会室めがけて通学路を駆け抜けていった。
「はぁ、はぁ……ったく!何で僕は毎回!こんな辛い思いをしなくちゃいけないんだ…!」
何でこんなことになった、いや、こんなことにならざるを得なかったのか。何故もう思い出したくないほど、最悪なことが起きたのか…。…それは今朝のことだった。
_雨が降っているなか、誰かと並んで歩く通学路。とても暗かったと思う。そこに、急にこちらめがけて車が突っ込んできた。咄嗟のことに僕はその人を守ろうとするが、間に合わず相手が被害にあい、しかもその後病院で亡くなるという。……そういう夢、つまりは予知夢をみてしまったんだ。しかもそれは…。
「なんでっ…!いのりなんだよ…!!」
予知夢をみると、最低一週間は自分と関わると本当に起きてしまうのだ。
「いのり…僕ができるのはこんなことしかないんだ。だから…」
せめて、せめて僕は、いのりに生きていてほしかった。
それから一週間、二週間…ついには約束をしていたクリスマスまで、クラスが一緒とか家が隣とか関係なく、一言も、言葉を交わすことはなかった。外は雪が降っていて、僕は塾に行っていた。
「それじゃあ今日はここまで。皆さんお疲れ様でした」
塾から帰るとき、ふとスマホを見ると、久しぶりにいのりからLANE-いわゆる無料通信アプリ-のメッセージが届いていた。
〈可能だったら、○×駅前に来てください。〉
…あの日以来一度も話していない僕に、今更なんの用があるのだろうか。
でも僕はそれを無視し、家に帰った。
少し雪が弱まってきて、傘を閉じて家に入ろうとすると、ポストに何か入っていた。
〈橋本 歩 様 必ず読んで下さい。 from,小林 いのり〉
この時僕は、ポストに気づかなかった方が良かったのだろうか。
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