海の見える町

オレンジ

第1話 朝焼け

ナルミは走っていた。早朝の冷気のなかをパタパタと。

ナルミは新聞配達人だ。町のみんながまだ寝静まっている頃から起き出して、この小さな町の新聞のほとんどを毎朝配るのだ。

休みはほとんど無かったが、ナルミはこの仕事が好きだった。

町は海に面していて、海岸に向かって階段のように建物が立ち並んでいた。その間には細い路地が入り組んで、町中が迷路のように思われる。しかし、ナルミはこの仕事で町中走り回るおかげで、道のほとんどを知ることができた。


チカッ

という光が、ナルミの目に飛び込む。


あぁ、来た。


それは毎日やって来る。

夜明けだ。


ナルミは足を止め、光の方に目を向けた。

ゆっくりゆっくり、それは空を紅く染めながら顔を出す。その染め物は、何度も繰り返し産み出され、同じ名前で呼ばれながら、一度として全く同じ模様であったことがない。


こんなに美しいものが、どうしてこの世界にあるのだろう。


ナルミはこの光を見飽きることがなかった。見るだけで、生きる理由と力をもらえた。光はナルミの体を撫でるように暖めていく。ナルミは大きく息を吸った。


あぁ、はい、今日もがんばりますから。がんばりますから、どうか見守っていて


しかし光はだんだん魔力を失い、普通の光に戻っていく。ナルミも残りの仕事を終えて、トボトボと「普通の」世界へと戻っていく。


それでも明日はまたやって来るのだ。


昨日も今日も、励まされた。あの光景が在り続けるのならば、これから先どんなことが起ころうと、ナルミはこの世界で死ぬまで耐え忍んで生きて行けるだろうと思った。


例え今から向かう場所に、誰が待ち構えていようとも。

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