天使の正体

勝利だギューちゃん

第1話

天使。

神の使いだ。


でも、その姿を見た事ある人はいない。

全ては想像だ。


「天使みたいな子」という人もいるが、

実際の天使には会ったことがないので、適切とは言えない。


だが・・・


僕にとっての、天使はいる。

でも、どこのだれだかわからない。

顔も名前も性別すら知らない。


人は「足長おじさん」というが、「天使」のほうが適切と、

僕は信じている。


趣味でイラストを描いていた。

仕事にする気はなかった。

以前見せたところ、「ピュアで素直だが、ビジネスには向いていない」と・・・

しかも、大勢に。


それ以来、趣味に徹した。

「好き描いてあげる方が、この子たちも幸せだ」

そう評価も付け加えられた。


なので、イラストで身を立てる気は、もうなかった。


そんなある日、一通の手紙が届いた。

差出人は、大手企業の社長さん。


文面には、「我が社のマスコットをデザインしてください」だった。

住所を調べたら、間違いない。

悪戯とは思ったが、いくつかデザインをして送った。


そしたら、採用していただいた。

「ライセンス契約をしたい」との添え書きがあった。


そして、収入を得た。


噂が噂を呼び、同じような依頼が舞い込んだ。

僕は、ただ描いて送った。


もちろん没も多いが、全ての依頼主に採用されている。


不思議に思ったが、追及しないでいた。

敢えて追及を避けていていた。


でも、誰なんだ?

天使の正体は?


僕はそれまで、一度も発表したことはない。

ただ、サイトで公開はしていたが、反響は0だった。


考えれば考えるほど、不思議だった。

それに、忙しくなった。


でも、表には出なかった。


それから、数十年がたち、僕も著名になっていた。

しかし、おごることはなかった。

なぜなら、自分の力ではないからだ。


僕を今の世界に、導いてくれた天使、どこの誰なんだ?

それだけは、引っかかっていた。


ビジネスには不向きと言われたので、出版関係ではあるまい。

コネもなかった。


そんなある日、ひとりの老紳士が訪ねてきた。

「○○先生ですね。先生に会わせたい方がいます。」

僕は怪しいと思ったが、もしかしたらとの期待を信じ、

老紳士に同行することにした。


そこは、一番初めに、依頼をしてきた大会社だった。

奥の応接室へと通される。


しばらくすると、ひとりの男性が入ってきた。

ひとりの女性の遺影を持っていた。


「先生、この方に見覚えがありませんか?」

「さあ、知らないです」

「では、沼田綾さんと言えば、お分かりいただけますか?」

その瞬間、全てが組み合わさった。


沼田綾、以前にネットアイドルとしていて活躍していた人物。

僕も当時ファンであり、よく応援していた。


だが、顔などの個人情報は一切公表されていなかった。

ただメールだけは公開されていたので、そこによくメールをした。


つたないイラストの添付をして・・・


でも、いつの間にか消えた。

僕は、幸せになったと思っていた。


「実は私は、綾の兄で、今は父の後を継いでいます。

あなたに依頼をしたのは、父なんです。」

「先代の社長さん・・・ですか?」

「はい」

しばらくして、その社長は続けた。


「昔、我が社でもマスコットを作ることになり、

誰がいいかと会議が行われました。

その時、綾があなたを推薦したのです。」

「私をですか?」

「この人は絶対に有名になるから、今のうちにと・・・」

「綾さんが?」

「よく言えば子煩悩、悪く言えば娘ばかだった父は、しぶしぶOKしました。

そして、あなたに手紙を出しました。綾の名は伏せて」

そっか・・・そういうことか・・・


「綾の考えは正しかったです。死ぬまで父に自慢してました。

『私の言った通りでしょ』と・・・」

言葉が出なかった。


「綾は、あなたに会えるのを楽しみにしていましたが、病に侵され。

父よりも早くに亡くなりました。」

そっか・・・なんてことだ・・・

僕は、とんだ思い上がりを・・・


「誤解しないでください。決してあなたを憐れんでの事ではありません。

綾は、あなたの絵が心から大好きでした」

「そんなことは・・・」

「ついてきて下さい。綾の部屋に案内します」

綾さんの部屋に連れられた。


そこを見て驚いた。

そこには、僕が添付で送ったイラストが、プリントアウトして飾られていた。


そっか・・・僕の天使は・・・綾さんだったのか・・・

疑問が解けた・・・


すぐにお暇をし、家に帰った。

そして、保存しておいた、綾さんからの数少ない返信を見た。


当時は気付かなかったが、一番最後のメールには、こう書かれていた。

「いつか、○○さんの絵に、声をあてたいです」と・・・


その夢はもう、叶わない。

でも、綾さんが導いてくれたこの道を、歩き続けよう。

命、尽きるまで・・・

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天使の正体 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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