バイバイレミー

東京廃墟

第1話 ドキドキロシアンルーレット

 リボルバーに、弾丸を一発だけ込める。

 煙草のフィルターが焦げたら始めよう。

 「油軒」という屋号がプリントされている暖簾がほこりっぽい風に舞う。お品書きには油麺、油旨飯、油肉に油サラダ…油、油、油だ。

 声に出して読んだだけで、気持ち悪くなりそうだが、かつては、行列の絶えないラーメン屋だったらしい。 

 背後から、物音がした。油とマジックで大きく書かれたピッチャーが転がって、俺が腰掛ける寸胴にこつんと当たった。

【ご自由に入れてください】

 ピッチャーに貼られた紙にはそう書いてあった。ピッチャーになみなみと注がれた油をラーメンにドバドバと入れる汗まみれのデブが蓋のように油の層が出来たラーメンをかきこむのを想像するだけで胃液が逆流する。

 厨房からスキンヘッドで恰幅のいい男が顔を出していた。多分、ここの店主だな。

 店主はのそりとやる気がなさそうに俺に近づいてくる。

頼りない足取り。全身についた脂肪がぽよんぽよんと揺れている。

 煙草の一本くらい吸わせてくれよ。

 店主の空気が抜けたゴムマリのような腹に蹴りをいれる。ぐぐっと店主は息をもらし、油ぎったフローリング床に後頭部を打ちつけた。

 起きあがろうとする店主を蹴倒し、馬乗りになって、ブルブルと頬を揺らす店主の眉間に銃を突きつけた。

 引き金を引く。

カチリと弾倉が廻った。店主が太い腕を振り回して抵抗する。俺は、慌てることなく五秒数えて引き金を引いた、カチリ、弾倉が廻る。

 また五秒。店主の太い腕が俺の足首を掴み締めあげる。

 カチリ。

 毎日、湯切りをして、スープを撹拌し続けた腕が、装備を含めて八十キロ程ある俺を軽々と投げ飛ばした。

 1年経っても未だ床にこびりつく油が襟足にからむ。

「なかなかやるねえ、油軒さん」

自然と笑みがこぼれている。上半身を起こした店主の懐に飛び込む。

 デブオヤジと正常位なんてゾッとするわ。顔を見合わせて、眉間に銃口を突きつけ引き金を引く。

 カチリ。

 白濁した目はぐるぐると回転し、無作為に動き回る舌が俺の鼻先をなめる。オヤジが八丈島の土産にくさやを買ってきたことを思い出す。最悪だ。

俺は静かに、カウントを開始する。

5・・・

店主が大きな口を開ける。

4・・・

太い腕が俺の頭を鷲掴みにした。

3・・・

ぐいっと、店主の口に顔を持っていかれる。

2・・・

店主の舌が俺の顔を舐め回す、くさやより臭い。気持ち悪い。最悪。

1・・・

店主の右奥歯に虫歯を発見した。

0・・・

45ACP弾が店主の顔半分を吹き飛ばした。

「熱っ」

 親指の付け根の皮が剥げ、赤くなっていた。発砲時の噴射熱のせいだ。夢中になり過ぎて持ち方を誤ったようだ、軍人として最低だ。

 店主との行為を終えた俺は、厨房の蛇口をひねった。

「痛っ」

 赤黒い水がシンクを叩く。構わずに涎と血にまみれた顔をザブザブと洗った。

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