第8話 首都高

 はぁはぁはぁはぁはぁ…、こんなに走るのはいつ以来だろう?

 

ズザザザっ…。


「いてっ…、くっそ。」

 ”転ぶのはこれで何回目だ?”

 気がつけば服は穴だらけで腕と足から血も出ていたが、不思議と痛みは感じなかった。剛造さんから託された使命感に駆られ、痛みを感じている暇などなかった。


 ”急がなきゃ。

 トガテンに会わなきゃ。

 会って今日あったことを全て伝えなきゃ。”


 辺りが夕闇に包まれる頃、僕はようやく愛車スターレットターボの元へと戻ってきた。

 剛造さん…、イギー…、今思い出しても恐怖と怒りで体が震える。こんなに一日が長いと思えたのは初めてだ。

 だが、今の僕には、感傷に浸っている暇などない、一時でも早く、トガテンに合い、今日起こった事を全て伝えなければ。

 しかし、僕には一抹の不安があった… 。


 それは、僕は首都高を運転したことがないのだ。千葉に行くためには否応なしに首都高を走らなければならない。更に僕の携帯はガラケー。スターレットターボにはナビも付いていない。あるのは国土地理印発行の関東1/100000の地図だけだ。

 一応ガラケーでスローイングの住所は分かったが、果たして無事に千葉まで辿り着けるだろうか?

 弱音を吐いてる暇はない。とにかく出発しよう!僕はスターレットターボに乗り込んだ。


 中央道を走ること一時間、ついに八王子インターが見えてきた、この先が首都高だ。ここから先は未体験ゾーン…八王子インターがまるで今日見た怪物に見えてきた…ふとユーミンの中央フリーウェイが頭の中で流れ始めた。しかし、今の僕には東京競馬場など探している暇はない。標識との格闘だ。幸運なことにこの日の首都高はガラガラで120キロペースで流れている。

「うーんいい足回りだ!オーリンズは正解だった!」


 三鷹料金所を過ぎ僕はスターレットターボの足回りを自画自賛する余裕が出てきた。高井戸出口が近づくとみんな左を走りだし、追い越し車線はガラガラに。

「みんな高井戸で降りるんだなー?よし、このコーナーをちょっと攻めてみよー!」

 チカっ!!

 アクセルを踏み込んだ瞬間、赤い閃光が目の前を走った。

「ん???なんだ?今のは?まさか…気のせいだよな?(笑)」

(しかし、実はそのまさかであった。今は知るよしもないが、後日、赤紙が送られてきた。そう、オービスである。首都高が最高速度60キロだということを知らずに、普段走り慣れている中央道のつもりで120キロで走っていた。)

 60キロオーバー…12点… 。


 新宿が近づくにつれ、車の数が増えてきた。田舎ではあり得ない車間に車を滑り混ませてくる。走り屋も真っ青だ…。しかしなぜか分からないが、前に入った車がハザードランプを点灯させる。

「いったいなぜだ?」

 僕はとっさに閃いた。

「くっそーこいつら、僕が山梨の田舎者だから、バカにして煽ってるんだな?」

 なんて失礼な!この用事が済んだら二度と東京なんて来てやるものか!

 そんな事を考えていたら、後ろにやけにピタリと着けてくるマークXが、ちょうど車も空き始めたし、憧れのレインボーブリッチの上でチギってやろう。アホめ!ポンコツだからって舐めるなよ?

 はい…、アホは僕でした。そう覆面パトカーです。普段白黒のパトカーしか見たことがなかったので、まんまと騙されました…でも、おまわりさんがいい人で、首都高を始めて走ったことと、帰りは下道で帰る旨を話し、反省していると、今回は勘弁してもらえました。ラッキー!


 踏んだり蹴ったりで、南千葉インターを降りると、時計は夜の12時を回っていました。

 間に合わなかった…。

 疲れた…。

 こんなに色々なことがあったのは初めてだ。今日はこのまま車で眠ろう。明日の朝トガテンに会いに行こう。




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