第5話 怪物

 もう少し、もう少しで洞窟を抜ける。天竜湖まであと少しだ。

「剛造さん!もうすぐ出口です!」

 久しぶりの天竜湖、子供の頃の記憶が蘇り、僕の歩調は更に早くなる。

 出口の明かりが見えた!

 僕らは洞窟を抜けた。

「剛造さん!あれです!あれが天竜湖です!」

 そこには、子供の頃の記憶のままの美しい天竜湖の風景が広がっていた。湖畔に佇む真っ黒い廃墟を除いては… 。


「あれが天竜湖か。ヤツめ、今度の相手はひと味ちゃうぞ。」

 天竜湖を見た剛造さんの態度が一変した。凄まじいオーラだ。天竜湖にいったい何がいるというんだ?

「剛造さん、そろそろ聞かせて下さい。ここには何がいるんですか?」

「そのうち分かるで。まずは準備や」

 そう言うと剛造さんは、一本の釣竿を取り出し、準備を始めた。

「まっ、まさか魚なんですか?魚ごときの為にこんな大袈裟なことを?」

「魚といえば魚やな。」

 準備を進めるにつれ剛造さんの闘志がみなぎっていくのが分かる。

 剛造さんの闘志に圧され、僕は言葉を失い、ただただその背中を見つめていた。

 しかし、その沈黙は長くは続かなかった。

 50メートル程離れた場所でチベタンマスティフのイギーが突如けたたましい唸りを上げた!

 バゥバゥバゥバゥ!、ガルルルルゥゥゥゥ!バゥバゥバゥ!!!

 湖面に向かって吠え続けるイギー。

 何かがイギーの近くにいる!

 僕は思わず叫んだ。

「イギー!戻っておいで!早く!」


 しかし、時既に遅し。その何かが突如水面を割って姿を現した。

 ガバッ!

 バックン!

 水中に引きづり込まれるイギー。

 キャイーンキャイーン……

「いっ、イギー!」

ガシッ! 

 咄嗟にイギーの元へ駆け寄ろうとした僕の腕を剛造さんが掴んだ。

「ご、剛造さん?離して下さい!イギーが!イギーがー!」

「行ったらアカン!君もヤツの餌食になってまう!」

「でもイギーが…イギー!!」

 キャイーンキャイーン…、イギーの声が徐々に小さくなる。チベタンマスティフのイギーが成す術なく、水中へと引きづり込まれた。

「イ、イギー!!!」

 僕の目から涙が溢れ出た。


「ご、剛造さん!奴が、ヤツがそうなんですね?あの怪物の正体はなんなんですか!」

「やつか?やつは雷魚や。」

「雷魚??あの?」

「そうや、その雷魚や。しかし、見た通り普通の雷魚やあらへん。放射性物質によって巨大化し、凶暴化した雷魚のオバケや。」

「そ、そんな?そんなことって?」

「あるんや!実際に君も今、目にしたやろ?これが現実や。」

 ま、まさか、この平穏な天竜村にそんな怪物が…、政府はこのことを隠し、天竜湖を地図から消したというのか?

「君の気持ちはよー分かる。必ずこの剛造様がイギーの敵を討ったる!このゴーゾースティックで!」

 剛造さんの闘志がピークに達した。凄まじいオーラだ。


「よっしゃ!いくで!頼んだでー!ゴーゾースティック!!!」

 そう言い放つと、剛造さんは、怪物がイギーを引きずり込んだ場所へと、キャストを開始した。


 なんて力強く大きな背中なんだろう。この人なら、あの怪物を倒しイギーの敵を討ってくれるにいない。そう思えていた。


 数分前までは… 。

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