好きと言われた日 (2/3)
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十五分後ぐらい、小父さんと小母さんが荷物を持ってやってきた。その後お話ししながらチェックインを済ませて、夕食は元ちゃんの提案でラーメンにした。
食事後、ラーメン屋を出たら、小父さんと小母さんは元ちゃんに急かされて先に行った。自分は後で行くって。小父さんと小母さんが歩き去ったら、
「あと三十分ぐらいあるか。十分だ」
と元ちゃんが呟いた。
「なんでそんなに先に行ってほしかったの?」
「いや、父さんと母さんの前じゃ……なんでもない 」
何をするつもりだ。
と、眉毛を片方上げて待っても説明が来ないので、仕方なく疑問を放っておき、話を進める。
「実はお餞別プレゼントを用意したんだよ」
「え、ほんとう?」
と驚いた顔をする元ちゃんに、
「じゃじゃん」
と、カバンから自分が描いた小さな絵を取り出して見せた。
「これは……」
「へへ、よく描いたでしょう」
題材は窓で笑ってる元ちゃん。要は私がいつも見てる風景。画風は印象的に描いたもの。線は柔らかくて、色は鮮やかで。窓の周りも少し描かれてる。そして、元ちゃんの頭にお決まりのアホ毛もついてる。顔にお決まりの太陽のような笑顔も。
「うん、いいけど他人が見ればよくわからないかもな。ナルシストだと思われそう」
苦笑する元ちゃんが一拍置いて、
「でもなるほど。こんなふうに写ってるんだ、凛ちゃんの目には」
「そうよ。割と格好いいじゃない?」
「はい、美化作業アリザマス。なんかツイッターで二次元風に描かれた自分をアイコンにするやつを思い出させますね。三次元風だけど」
「素直にありがとうと言えないか君は」
「ありがとうよ凛さん。でも逆視点のほうがプレゼントとしてもっとふさわしいと思わない?」
「いや、ま、それも考えはしたけど……」
自分を描くのが恥ずかしかったし……そもそも元ちゃんの目には私がどう写っているのかも分からない。
「もう、つべこべ言っちゃって。じゃそういう君は無論何かすご~いプレゼントを用意してくれたよね」
と言うと、元ちゃんはちょっと気まずそうに顔を掻いて、
「いや、悪い、僕は何も用意してなかった。いや、ある意味したけど……」
「なにそれ。ま、いいさ」
良くない。それでも、
「大事にすればお返しとして認めてあげる。寛大でしょう、私」
と微笑んだら、
「うん、もちろん。ありがとうよ、凛ちゃん」
と言うと、元ちゃんは絵を手荷物にしまっておく。それから、少々考える素振りを見せたあと、急に何かを思いついた見たく、
「携帯貸して」
「え?なんで?」
「いいから」
よくわからないけど一応携帯を渡すと、元ちゃんがカメラ・アプリを開けて、そしたら急に・すぐに私の肩をぎゅっと抱き寄せて、もう片手で早速ボタンを押そうとする
「え?!ちょっと、そんな急に、準備がー」
「この八方美人さんは何を言ってるんだい」
元ちゃんは呆れた口調で、けどあくまで人形遣いみたく笑顔を維持したまま言った。
「待ってよ!」
と、不機嫌に小叫んだ私が急いで彼の脇に手を置いて、空いている片手でピースサインを作る。気持ちに反して不機嫌なんてまったく見取れない、ニーっと大笑顔をでき上げる。
ボタンが押されて、ティティっ、とスマホから電子的なフィードバック音が立つ。何とかボタンが押される前に間に合った。ため息を吐く私は、
「もう。わざわざ私の携帯を使わなくても、自分ので取って、送ればよかったんじゃない?」
「これは、僕から凛ちゃんへのプレゼントだから、凛ちゃんだけが持っていればいい」
と、二コる元ちゃんが撮った写真を開ける。唐突に取られた一枚だが、特に自分の写し方に不満はない。元ちゃんの写し方もま、悪くない。
「不意打ちでちょっと面白い顔を取れると思ったのにな」
「それなら素直に言えばよかった、バカ。普通に付き合ってあげたけど。もちろんその場合あなたにもしてもらうけど。」
と言ったら、元ちゃんが数秒私をぼやっと見つめていた。あれ、私、なにか変なことを言ったの?と思ってしまうと、元ちゃんが急にシャキッと真剣な顔になってて、
「じゃ、そろそろ行くけど……その前に」
と言って、なんの前触れもなく抱きついてきた。
キュンとした。
別に元ちゃんと抱っこするのがこれが初めてというわけでもないけど……これは今までのとはなんか違う。なんというか……熱い。熱く感じる。
「今日はずいぶん好き勝手にやってるね、おい。今日だから許すけど、癖になったら承知しないわよミスター。」
と、変な気持ちを紛らわすように厳しく言う。一応本音でもあるね、一応。
「ああ、ごめん」
と謝ると、私も彼も黙りこんでしまった。
しばらくこうやって無言のまま抱き合ってると、不意に思う。
いつになったらまた会えるのかな。
大丈夫だと思ったのに、いざ分かれる時になると、なんか……怖い。
行って欲しくない。
と、心が本音をいうみたい。
何かを言い出そうとしたら、そこで、
「あのさ、
考えてる途中に元ちゃんが突然切り出した。
「僕はずっと、
え?
今なんて言った?
私、告られてる?元ちゃんに?
「ごめん。今更だと分かってるけど、海外に行く直前なんだけど、多分無理だと思うけど、そもそも凛ちゃんは僕をそんな風に見てないと思うけど……それでも最後ぐらいは自分の気持ちを晴らしたいというか、ちゃんと告白して、振られて、前に進むために句点を打ちたいというか……」
と、そこで元ちゃんは頭を軽く振って、
「って、自分ばっか口走っててごめん。一応、念のために聞くけど、凜ちゃんは僕のことをどう思う?」
「え?それは……」
私が元ちゃんのことをどう思ってる?
いや、その前に、元ちゃんは私がすき……?
いつから?
「私は、元ちゃんのことはーー」
あまりにも速すぎる展開に脳がついていけなくて、ためらってしまうと、元ちゃんがすぐに、
「あ、大丈夫大丈夫。凜ちゃんが言いたいことは分かるから」
と、あったかい口調で言ってくる。そして、離れてから申し訳なさそうに私の目をみる。
「ごめんね。告白する相手を振ると、凜ちゃんはいつも不要な罪悪感を感じて、自分を責めてしまうこと、僕が一番よく知ってるはずなのに。それがどうしようもなくて、全然凜ちゃんのせいじゃないと言うのに。凜ちゃんは、とっても優しい子なんだから」
本の一瞬だけ、元ちゃんの顔にすごく切ない表情が浮かんだような、けど気のせいだったと思えるぐらいすぐ明るい表情に切り替えて、
「送りに来てありがとうね」
「いえ……」
「なんだよ、堅苦しいな」
と苦笑する元ちゃん。
「僕なら大丈夫だよ。だから心配しないで」
そして一拍置くと、
「じゃ、行くね」
と短くお別れの言葉を告げた。
「うん……またね」
とロボットのように自動的に答える。
数秒だけ目を合わせた後、元ちゃんは踵を返す。
そして、どんどん遠くなった。
あっけなくも。
またいつ会えるの?と不安になったときにはもう、遠くてたとえ叫んでも声が届くかどうかわからなかった。
私はそのまま突っ立って、しばらくの間動けずにいた。
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