ウチの義妹のヤンデレが極まっていて怖すぎる
エミヤ
義妹はヤンデレ
義妹は冷たい
「――きてください、兄さん」
「ん……?」
誰かが俺を呼ぶ声がする。
「起きてください、兄さん」
今度は肩を揺すられる。いったい誰なのかと思い目を開けようとしたところで、
「ぐふ……ッ!」
頬に強い衝撃が走った。何事かと思い起き上がると、俺の寝ていたベッドを見下ろす形で黒髪ロングの美少女が冷たい視線を向けていた。
「やっと起きましたか、兄さん。一度の呼びかけで起きられずビンタされることでようやく起きるとは、相変わらずグズですね」
視線だけではなく、吐き出された言葉も冷たい。
「……グズで悪かったな」
こんなボロクソに言われれば普通はキレるところだが、俺――
なぜなら、目の前の冷たい美少女――
十年前に義理とはいえ兄妹になってからずっとこんな関係だ。当初は改善を試みた俺だが、中学生になった辺りで諦めた。
俺としては努力したつもりだが、肝心の舞華が一向に歩み寄ることがないのではどうしようもない。
「何をしてるんですか、兄さん? 私は今日も生徒会の仕事があるので、家を早く出なければいけないんですよ? 早く朝食を準備してください」
「分かった」
頷きながらベッドから立ち上がる。ついでに枕元に置いてあった時計を確認してみると、時刻は六時を少し過ぎたくらいだった。
一般的な男子高校生が起きるにはかなり早い時間帯だが、俺の場合は例外だ。
両親が海外出張でいないため、家事は残った者でするしかない。この場合は俺と舞華が当てはまるわけだが、舞華は一切家事をしない。
理由は本人曰く『これといった取り柄のないグズの兄さんに役立つ機会を与えているのです。私が手伝ってそれを奪うなんてこと、あってはいけませんよね?』とのことだ。
そんなわけで料理、掃除、洗濯といった家事全般は俺の仕事なのだ。
「兄さん何をしてるんですか? さっさと着替えて台所に向かってください。台所はあなたが輝ける数少ない場所でしょう?」
「はいはい」
二度目の催促を受けて、俺は適当な返事をするのだった。
朝食を終えると舞華はすぐに玄関へと向かった。舞華は靴を履きながら口を開く。
「それでは行ってきます、兄さん。一応言っておきますが、遅刻だけは決してしないでくださいね? 生徒会長の兄が遅刻なんて恥晒しもいいところなので」
「分かってる。お前にだけは迷惑はかけないから安心しろ」
「本当に頼みますよ?」
最後に念を押してから舞華は家を出た。
「はあ……」
鍵を閉めながら溜め息が漏れる。あいつの小言はいつものことだが、中々慣れるものではない。特に朝っぱらから聞かされると、精神的ダメージは計り知れないものになる。
だが落ち込んでいても仕方ない。気を取り直してリビングに戻る。
時刻は七時。家を出るのは八時頃と考えれば、あと一時間は余裕がある。この時間で朝にすべき家事を終えるとしよう。
最初にするのは食器洗い。といっても洗う食器は二人分しかないので大した手間はかからない。
次にするのは洗濯だ。朝食の前に動かしてた洗濯機から洗濯物を取り出して篭に入れる。それから庭まで持って行き干す。
舞華の下着もあるが気にしない。血の繋がりがないとはいえ妹だ。動揺なんて欠片もない。といか、最早見慣れてしまったので動揺のしようがない。
普段ならここまでで家事は終了。しかし、
「おっと……忘れるとこだったな」
今日は少し違う。昨日が雨だったので洗濯物を室内干ししてたのだ。
時間的にまだ余裕はあるので、畳んでタンスに収納までやってしまおう。
俺は早速昨日の洗濯物を回収して畳み始めた。妹の下着も混ざっていたが(以下略)。
畳み終えた洗濯物は二階にある俺と舞華の部屋に持って行く。
最初に位置的に近い俺の部屋に行き、その後に舞華の部屋に入る。
部屋に入ると、女の子特有の甘い香りがした。室内は可愛らしいぬいぐるみなどが置いてあり、まさに『女の子の部屋』といった感じだ。
舞華の性格もこの部屋くらい可愛らしかったら良かったのに。
益体もないことを考えながらタンスを開ける。すると、
「あいつ……」
下着を入れてる段だけ、中がグチャグチャになっていた。
俺は普段から下着はパンツとブラで左右に分けている。それが今はどうだ? 俺が分けて入れてた時の面影など皆無じゃないか。
これをやった犯人は、当然ながらこの部屋の主である舞華だ。性格は真面目そのもののくせに、こういったところは本当に雑だと思う。
流石にこのまま放置するわけにはいかない。時間的に余裕もあるので整理する。
「ん……?」
下着を整理していると、何か下着とは異なる感触が手に伝わった。何なのか気になり取り出してみると、出てきたのは一冊のノートだった。
どこにでもある普通のノートだが、表紙にデカデカとした文字で『日記』と書かれていた。
こういった時は何も見なかったことにして、そっと元の場所に戻すのが正しい対応だろう。日記というのは、大抵人には見られたくないことが書いてあるのだから。
しかし俺はこのまま日記を戻すことに躊躇いを覚えた。
なぜなら、ここには舞華が人には見られたくないこと――つまりは弱味が書かれているから。
これを読めば、多少なりともあいつの弱味を握ることができるかもしれない。無論、人の日記を勝手に読むことが最低の行いであることは理解している。
だが、普段の舞華の俺に対する態度はどうだ? 家事全般をこなしてやってるにも関わらず、人のことボロクソに言うあいつには多少の罰が必要なんじゃないか? 少しは俺の痛みを理解するべきなんじゃないか?
最早罵られるのは慣れてしまったが、別にこのままでいいと思ったことは一度もない。機会があるなら、どうにかしたいとはずっと思っていた。
だから、これは必要なことなんだ。俺が今後、この家で穏やかな日常を過ごすためにも。
自己を正当化し、俺は義妹の日記を読むことを決意した。
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