第50話 Cメロに耳を傾けて


 J-POPを聞いている時に、入っていたり入っていなかったりする、タイアップ曲としてテレビで流れるときは大体省かれる、カラオケに歌う時によくわかんなくて、もにょもにょ言うことになってしまう、それがCメロ。

 しかし私は、Cメロが好きである。曲調ががらりと変わり、これまで歌われてきた詞とは雰囲気の異なる言葉が表れるが、その部分に言いたいことが含まれているように思えるからだ。一度落ち着かせてから、最後のサビで一気に盛り上がるという効果もある。


 私が初めてCメロを意識した曲は、ポルノグラフィティの「ハネウマライダー」である。


  僕たちは、自分の時間を動かす歯車を持っていて、

  それは一人でいるなら勝手な速度で廻る。

  他の誰かと、例えば君と、触れ合った瞬間に、

  歯車が噛みあって時間を刻む。


 ここまで、バイクに関する例えで描いてきた歌詞から、急に出てきた「歯車」。そこからさらに広がる曲の世界に、ぞくぞくする。

 曲も落ち着いているので、この後の最後のサビの疾走感が最高なのである。カラオケで歌うのもすっごく気持ちいい。


 ちなみに、私が一番好きなポルノグラフィティのCメロは、「瞳の奥をのぞかせて」である。

 これは、不倫関係にある男性のことを思って苦しむ女性目線の歌であり、その心情が一番に現れているのがこのCメロではないかと思う。


  開け放ったままの天窓に 煌めいている星々は決して

  ひとつとこの手に落ちない それならばそっと窓を閉めましょうか


 「あなた」の愛を求めながらも、それを得ることができないと分かっているというあきらめの言葉が、胸を締め付ける。強がりではなく諦観が漂っているのがたまらない。

 歌い方で言うと、最後は「し・め・ま・しょ・うーかー」という風に区切っているので、その言葉の重たさが伝わってくる。


 BUMP OF CHICKENのCメロも、好きなものが多い。

 まずは、バンプのヒット曲「天体観測」のCメロから。


  背が伸びるにつれて 伝えたい事も増えてった

  宛名の無い手紙も 崩れる程 重なった


  僕は元気でいるよ 心配事も少ないよ

  ただひとつ 今も思い出すよ


 歌詞中で「君」と別れた後の「僕」の様子を描くために、これ以上の言葉はないのではないだろうか。「背が伸びる」ということから、「僕」は思春期であり、「君」と別れてから多くの年月が経ったことが分かり、「崩れる程 重なった」手紙というのも、ストレートに絵で想像できる。

 その後の、他のメロディーよりも高音で歌い上げるパートは、あまりに切実だ。最後のドキッとする一言に続くBメロに、鳥肌が立つ。


 バンプの「sailing day」は、短い中でもビシッと言いたいことが籠っている、メッセージ性の高いCメロだ。


  誰もが皆 それぞれの船を出す

  それぞれの見た 眩しさが 灯台なんだ


 何度聞いても熱量が下がらない。くすぶっている胸の内に着火して、一気に燃え上がる歌詞である。

 この曲は、ワンピースの映画の主題歌だった。曲全体でもそうだが、ワンピースに合わせて、「船」や「灯台」というワードが出てくるのがすごくかっこいい。


 上記の二曲は、Cメロの後にBメロが続くという形になっているが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの曲には、最後のサビに向けてのアイドリングといった様相のCメロがある。

 まずは「リライト」から。


  芽生えた感情切って泣いて

  所詮ただ凡庸知って泣いて


  腐った心を

  薄汚い嘘を消して


 Cメロ直前でテンポが一気にダウンし、歌い方も一文字ずつ区切ったようなものになる。その中でも、最後が「泣いて」で揃えているのが気持ち良い。

 「消して」の部分ではこれまでのサビのメロディーに入ってくるのだが、そこまでのスピードの上げ方がとにかく気持ち良い。


 続いて、アジカンの「アフターダーク」のCメロを。


  ドロドロ流れる深く赤い月が現れて振られる采

  出鱈目な日々を断ち切りたい

  何食わぬ顔で終わらぬように


 疾走感のある曲だが、Cメロに入ると別の曲のように様相が変わる。歌声も、くぐもったものに変わり、歌詞に現れる閉塞感を示している。

 そこから、「何食わぬ顔で終わらぬように」で、水中から浮上していくようにスピードが上がり、声もはっきりとしてくる。ここから、コンマ数秒で最後のサビに繋がるのだが、それもまた気持ち良い。


 Cメロは短いというイメージがあるが、それを打ち破ってくるのが、米津玄師さんの曲には多い。

 例えば、「vivi」のCメロ。


  溶けだした琥珀の色

  落ちてく気球と飛ぶカリブー

  足のないブロンズと

  踊りを踊った閑古鳥

  忙しなく鳴るニュース

  「街から子供が消えていく」

  泣いてるようにも歌を歌う

  魚が静かに僕を見る


 「vivi」は、非常に示唆的な歌詞で、様々な解釈がされる曲だ。歌詞中では「僕」が「ビビ」と別れることを選択するのだが、Cメロでは「ビビ」が全く出てこない。

 美しく儚いイメージの羅列によって、二人の背景が広がっていく。見たことのない言葉と言葉の組み合わせだが、聴く人によって意味合いが異なっていきそうだ。


 同じ米津さんの曲で長いCメロの「Lemon」は、歌詞中の「僕」の切々な思いを歌いあげている。


  自分が思うより

  恋をしていたあなたに

  あれから思うように

  息ができない

  あんなに側にいたのに

  まるで嘘みたい

  とても忘れられない

  それだけが確か


 愛する人を失った苦しみを、ここまで正直に吐露することができるだろうか。「Lemon」は、曲全体に悲しみが満ち溢れているが、Cメロではそれがひときわ強い。

 歌い方にも、その想いが強く籠っている。それに続くサビでは、一気に感情を爆発させるのも心に残る。


 Cメロは、歌詞の中でも一番伝えたいところを、表しやすいのではないかと思う。

 私が知る中で、とても長く、メッセージ性の強いCメロは、フラワーカンパニーズの「深夜高速」だ。


  いこうぜ いこうぜ 全開の胸で

  いこうぜ いこうぜ 震わせていこうぜ

  もっともっと もっともっと見たことない場所へ

  ずっとずっと ずっとずっと種をまいていく

  全開の胸 全開の声 全開の素手で

  感じることだけが全て 感じたことだけが全て


 十代の時に初めて聞いて、衝撃を受けた歌が「深夜高速」なのだが、その中でもこのCメロのインパクトは大きかった。歌自体の熱もガンガン刺さってくる。

 Cメロの部分は全部好きだが、特に「ずっとずっと ずっとずっと種をまいていく」の一行がたまらない。二十代になった今、十代の頃にまいた種のことや、これからもまき続けるであろう種のことを考える。


 長いCメロとは逆に、たった一言がいつまでも耳に残るタイプのCメロがある。

 星野源さんの「恋」はまさしく、ズバッと一言タイプのCメロだ。


  泣き顔も 黙る夜も 揺れる笑顔も

  いつまでも いつまでも


 この曲は、同居から始まるドラマの『逃げるは恥だが役に立つ』の主題歌ということもあり、同居について描かれていると私は思っている。特にAメロは、愛する人のいる我が家に帰る喜びがありありと浮かんでいる。

 だが、Cメロでは、同居の楽しさ以外も言及している。愛する人と喜怒哀楽を共にして、長く長く一緒にいたいという決意と祈りが「いつまでも」に詰まっている。


 星野さんの曲の一言Cメロでは、「Pop Virus」もまた素晴らしい。


  始まりは炎や棒切れではなく 音楽だった


 正直、「Pop Virus」は、曲として変則的なので、ここがCメロなのかどうかの判断は難しいのだが、どうしてもここを紹介したくてたまらなかった。聴いた時に、鳥肌が立つほど感動した一言だからだ。

 言語学には、人類は言葉よりも先に歌を歌っていたという説があるという。単語から生まれたのならば、助詞などはどうしてなのかという考えから生まれた説らしい。それを星野さんが知っているのかどうかはともかく、「炎や棒切れ」よりも「音楽」があったからこそ、人類、ひいては私たちは私たちであるのだと教えてくれているように感じる。


 ここまで長々と続けたCメロ紹介の最後は、UNISON SQUARE GARDENの「シュガーソングとビターステップ」である。


  Someday 狂騒が息を潜めても

  Someday 正論に意味が無くなっても

  Feeling song&step 鳴らし続けることだけが

  僕たちを僕たちたらしめる証明になる、QED


 Cメロは、歌っている彼ら自身の想いがそのままにぶつけられている。わざわざQED(証明終了)と言っていることから、そのこと自体が揺らぐことのない自信に満ち溢れているようだ。

 このCメロは、私にとっての座右の銘の一つになっている。書き続けることが、私を私たらしめる、そんな言葉を胸に、今日もキーボードを叩き、小説を書き記している。


 こうしてみると、たくさんのCメロに、たくさんの作り手と歌い手の想いがのっかっていることに打ち震える。

 これを読んだ方の好きなCメロも教えていただければ僥倖である。

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