第5話 状況開始
再活性プログラム始動
凄まじい衝撃を感じ、彼の意識は覚醒した。
「痛ぇ……一体何が起こった? 」
暗闇が割れた。ポロポロと剥がれるように、身体の周りを覆っていた外骨格らしい破片が落ちていくのが判る。何故か、それを愛おしいと感じる。
「くっそ、……ここは何処だ? 」
どうにも記憶が定かではない。確か大戦後の褒賞査定に首都星に向かっていた筈なのだが……
周囲には水蒸気が発生し、真っ白な空間が広がっている。何かがいる、それも大勢。
「……戦闘中なのか? それとも記憶操作の上、流刑星にでも送られたか? 」
当たらずとも遠からずなのだが、今の彼には判らない。
システム作動
状況認識が必要だ。一体何が起こっていて、自分はどうなっているのか? 背中に違和感を感じるし、どうにも身体の様子もおかしい。
バックパック確認
「……遠征用バックパックだよな、これ」
背後にセッティングされているバックパックに意識をやりながら、彼は考える。
うーむ、ますます疑問が高まる。だがそれ以上に、今はやる事がある。制御クリスタルを戦闘用に切り替えて起動。クリスタルは補助AIとスキャナーも兼ねているのだ。
周囲脳波検知開始
重力波測定開始
マシンキャリア多数
「はっ? スキャンしろ! 」
彼の網膜に直接投影されるのは、敵性を示している生命体と、それのナノマシン
F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ F⁻ ―――
知的生命反応なし
(なんだ、こいつらは? )
反応を見る限り、とてもナノマシンキャリアとは思えない。
F⁻の表示は表示可能最低ランクであり、
「成り損ないか? 」
左腕で右上腕部をつかみ、Sクラス武器の生体レーザーを起動する。
自動発射モード確認
発射する一瞬前に、網膜に警報マークがよぎる。
「なんで?! 」
親指ほどの太さのレーザーが自分の胸の高さから水平に半円状に照射され、白く煙った水蒸気を吹き飛ばす。自動モードだった為に思った以上の出力で発射されたそれは、周囲に群がっていた
(あっ、ミスったか? 大気圏内戦闘は久しぶりだから……)
大気圏内と周囲の水蒸気を考慮して、大出力が必要と計算されたのだろう。
警告! カロリー22パーセント消費!
慌てて現状のステータスを確認し、彼は固まった。
「
なんで? あれ? そりゃあ、
「くっ…… 」
状況を検証するのは後回しだ。取りあえずカロリー消費を抑えながら戦闘を展開するしかない。
「ええい、くそ! 」
右肘から
「何なんだよ、お前らはよお! 」
動くもの全てを粉砕していく。
知的生命体確認
反応微弱
「ん……ヒトか? 」
周囲のもやはすっかり取り払われ、
「生身か…… 」
抱え起こし、頬に手をやるが冷たい。だが、息はしている。身体中傷だらけであり、特に左足の太ももの傷がひどかった。
残りカロリー52パーセント
「うるさい! 」
彼は自分の右小指を噛みちぎり、彼女の傷に当てる。
接触しました。対象のナノマシンを取り込みますか?
制御クリスタルからの報告に、彼はNOを出す。
「分析してサンプルを取れ、それと治療用ナノマシンを送り込んで状況開始だ」
同期可能、認識typeXです。データ収集開始、治療開始。予定終了時刻は48時間後です。続行してよろしいですか?
「やってくれ」
さて、どうするか。敵性生物はどうやら片付けたようだが、彼女との接触を解くと送り込んだナノマシンの報告を受けられなくなる。だが、治療は続くだろう。
「ちっ…… 」
両腕で抱え上げ、周囲を見回した瞬間、身体がふらつく。明らかなカロリー不足だ。ここまで無計画にカロリーを消費したのは、いつ振りだろうか。
有体に言うと、腹が減ったのだ。有機サイボーグの身体は戦闘を伴うと大量のカロリーを消費する。それを補う高カロリースティックを食べるか、肉たんぱく質を摂るかだが。
「あ…なたは? 誰? 」
彼の腕の中の少女が微かに目を開け、彼に話しかける。この状態で意識を持ち、しゃべる事が出来るとは、相当強い意志を持つ者なのだろう。
「俺の名はアル・ティエンヌ・シャン。帝国の騎士だ」
「…そう。私の名はアン。……アン・ローゼンバーグ……」
それきり、彼女は再び意識を手放したのだった。
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