第47話 唯花の様子がなんか変③
俺は壁際に追い詰められている。精神的にも物理的にも危機的状況だ。
そんなもんどう答えりゃいいのか分からない。
よってこちらは当然、黙秘権を行使。
しかし敵は長年一緒の幼馴染である。俺が黙るのなんて当たり前のように見越していて、ライトな壁ドンでせっついてくる。
「ほれほれ、どうなの、奏太? 白状すれば楽になるよー? ほれほれほれー」
トントントンッ、と俺の耳横の壁が可愛いネコパンチで叩かれる。さっき全力でやって痛かったからだろう。弱パンチ程度の壁ドンであるが、別の意味で威力がヤバい。
トントンッする度、ノーブラの胸がたゆんたゆんっして俺の胸板に当たりそうになっている。
ちくしょう、当たらないかなってちょっと期待している自分が哀しい……っ!
あとやっぱり隣に振動がいっているのか、伊織が「『今度は漫画の列が揺れだした!? なにこれポルターガイスト!? それとも……僕のなかで何かの力が目覚めようとしてる!?』」と中二病を発症しかけていた。
さすがに可愛い弟分を黒歴史の泥沼に突き落とすわけにはいかないので、ぱしっと唯花の手を受け止める。
「あ、止めた」
「おう、止めたぞ。一つ良いことを教えてやろう。壁ドンはパンチでやるものではない」
「なるほど」
深く頷く幼馴染さん。
そして直後にニヤッと笑う。
「適当な話題で話を逸らす作戦ね?」
「く……っ」
バレたか! 今日の唯花は手強いな、おい……っ。
だがここで引けば、さらなる猛攻を受けてしまう。
「いやいや話を逸らすつもりなんてないぞ? 俺はただ正しい壁ドンについての知識を共有したいと考えたまでのこと。そもそも壁ドンとは紀元前17世紀のエジプトでラクダが――」
「話を逸らすつもりじゃないってことは」
さらっと会話をカットインされた。
パンチを受け止めていた手がきゅっと握られる。
「奏太ってば、もしかして両手で恋人握りしたいのかな?」
「ぬぅ……!?」
言葉通り、両手とも恋人握りにされてしまった。
唯花はお互いの手を自分の顔のそばに持ってきて、俺に見せつける。
そしてにぎにぎしながら、にこっと笑った。
「奏太くん、捕まえたっ♪」
なんでいきなり『くん』付けなんだよ!? あーもうっ、可愛いな!
ヤバいぞ、これ絶対なんかのスタンド攻撃だ。あまりの可愛さにやられて、俺はつい乗ってしまう。
「……つ、捕まってしまった」
「うん、捕まえたよー? もう絶対離さないからね?」
「ぜ、絶対は無理だろ」
「えー、絶対だよ。ぜったい、ぜったいっ。だから奏太もあたしのこと離さないでね?」
――バカップルか!?
脳内で絶叫。そうして心のなかでは盛大にツッコんでいるが、現実の俺は赤くなって明後日の方を向き、「……お、おう」と頷いている。
いかん、完全に唯花のペースだ。なんなんだ、これ。今日の唯花は強過ぎる。やっぱり何か変だ。
「あ、あのさ」
「んー? なあに、奏太ぁ?」
声が柔らかい。
やっぱりいつもより好意が溢れまくっている。
「あんなことって、どんなことなんだ?」
「む、むむ」
さっき胸を当ててきた時、唯花は『昨日あんなことまでしちゃったし、胸ぐらい当ててあげてもいいかなって』と言っていた。
しかし俺にはこれっぽっちも身に覚えがない。だから本人に聞くしかないと思ったのだが……。
「そ、そんなこと言わせないでよぉ……ばか」
今までの攻勢がウソのように、唯花はかぁーっと赤くなって俯いてしまった。
え、なに!? そんなになるほどのこと!? ますます身に覚えがないぞ!?
愕然としつつ、途中で俺ははっと思い至った。
唯花が珍しい行動を取っていたのは今日だけではない。遡れば、一昨日からその片鱗は見せていた。
「……ヒントを見つけた気がするぞ」
俺はCM入り直前の名探偵のような顔になる。
ヒント? と微妙にこちらを見上げる瞳を見据え、言う。
「唯花の変化を紐解くカギ、それは――伊織への手紙だ!」
キメ顔で宣言。
……したものの、恋人握りで両手をにぎにぎされてるので、ちっとも格好つかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます