第23話 幼馴染のラブコメアタックact2
うーむ、俺も深呼吸しとこうかな……。
俺は今、
玄関でお袋さんに挨拶をし、リビングで軽くお茶を飲みながら世間話をした後、唯花の部屋へ向かっている最中だ。
たぶんこの足音は唯花に聞こえている。
おそらく昨日のように何か仕掛けてくるはずだ。
あいつがなんでこんなことを始めたのかもさすがに分かってきた。
唯花はずっと俺に『好きになったらダメだからね?』と言ってきた。
それは引きこもりをやめるつもりがないからだ。
でも今は――色んな意味で何言ってんだって話なのは置いといて――俺に『好きになってもらおう』としている。引きこもりを辞めざるを得ない状況に自分からしようとしているのだ。
唯花は前に進もうとしている。
もちろん全力で協力するさ。
「ただなぁ……」
キッツいのは、これたぶん……俺、絶対になびいちゃいけないんだよな。
唯花の怒涛のアタックを食らって、俺がうっかり告白でもした日には、『引きこもり状態の唯花』を肯定したことになってしまう。きっとこれでは意味がない。
当たり前だが、俺がなびいて引きこもりを辞めざるを得ない状況になったところで、すぐに部屋から出られるわけじゃない。
唯花にとって大事なのは、今頑張ろうとしている気持ちそのものだ。そこを間違えないようにして大切に見守っていくべきだろう。
「つまり俺は……」
好きな女からの怒涛のアタックをノーガードで受け続け、しっかりダメージは食らいつつ、完オチしないギリギリのところで踏み留まり続けなくてはいけない。
なにこの斬新な拷問。
新手のスタンド攻撃か。
「やっぱ深呼吸しとこう。波紋を使って自分を強化せねば……」
階段の先はT字になっていて、左側が親父さんとお袋さんの寝室、右側は
俺は当然、右側に向かおうとして――直後、度肝を抜かれた。
「きゃー、ぶつかるー、出会い頭にぶつかってしまうー」
あほみたいに棒読みなのはこの際いい。
昨日に引き続きポニーテールなのも問題ない。
これ見よがしに食パンをくわえていることもスルーしよう。
なぜか中学時代のセーラー服を着ていることについては可愛いと絶賛したいが、それすらも今は置いておきたい。
問題なのは本人だ。
一瞬、弟の伊織が女装してるのかと思ったが、違った。まぎれもなく唯花本人だ。
夜中でもないのに、唯花が――部屋の外に出ていた。
「ゆ、唯花、お前……っ」
「遅刻寸前の朝に食パンくわえて転校生と曲がり角で衝突アタッーク!」
「この感動的局面でまさかの世迷言ぼはぁっ!?」
みぞおちにキレーなエルボーが入った。
俺は廊下の左側へ転倒。まかり間違って階段から転げ落ちてたらどうするつもりだったんだ……。
「大丈夫!
「げほ、ごほ、まだ何も言ってないぞ……」
「大丈夫! 幼馴染だから考えてること分かるから! みぞおちやられて声出ないでしょ? ツッコむ前に先に答えてあげたよ、感謝して!」
「がは、ごは、ありがとうございます……いや理不尽過ぎるだろ。横隔膜がつらい……」
「いや、あたしもまさかこんなところで斬影拳を会得してしまうとは思ってなかった……正直、ごめん」
ぶつかってきた時、唯花は思いきり目をつむっていた。そのせいで奇跡的にコマンド入力状態になってしまったのだろう。俺は昇竜拳を真似する派の小学生だったので詳しくは分からんが。
唯花は倒れた俺の腰の上にいる。
中学時代のセーラー服なので、Cカップだった頃の制服だ。当然、現在のFカップは収まりきらず、胸の南半球の主張がすごい。
そんな自分の状態に気づいているのかいないのか、唯花は腰の上でドヤ顔をしてみせる。
「古来より伝わりし、ラブコメの秘奥義・曲がり角でばったり……ふふふ、どう? 心臓壊れちゃうくらいドキドキした? あたしの作戦大成功?」
「心臓より横隔膜が壊れちゃいそうだっつーの。昨日の白いワンピースと比べたら今回は失敗の部類じゃないかと言わざるを得ないぞ?」
「えー、セーラー服よりワンピースの方が好きってこと? じゃあ、もうこれ着ない」
「待てやめるな絶対やめるな何があってもやめるな! その格好は可愛い。とても可愛い。今後も定期的に継続して頂きたい」
「ちょっと引くほどの必死さ…………奏太ってコスプレ好きだよね」
「ばか」
俺はあえての呆れ顔で見上げる。
「コスプレが好きなんじゃなくて、色んな唯花を見られるのが嬉しいんだよ」
「…………あう」
かぁーっと頬が赤くなった。
唯花は腰の上で恥ずかしそうに身じろぎする。
「……不意打ち、ずるいよ」
「正しい不意打ちっていうのはこうやるもんだ」
「……勉強になりました」
唯花はポニーテールを揺らして視線を逸らし、ぽそっと囁く。
「…………セーラー服、これからもたまに着てあげるね」
よっしゃあ! エルボー食らった甲斐があったぜ!
と、内心でガッツポーズしていて、俺はふいに息をのんだ。
腰に乗られて逆光になっていたから気づかなかったが……。
「おい唯花っ、顔真っ青だぞ!?」
「あー、うん、そろそろ限界みたい……」
ふらふらと頭が揺れる。
「ほら、あたしの部屋って曲がり角ないから……やるならここしかないって覚悟決めて出たんだけど……もう無理、吐きそう。お外怖い」
「だーっ、頑張りすぎだっての! 掴まれ! 運んでやるから!」
「でも奏太は横隔膜が壊れかけ……」
「んなもん壊れたっていい! 唯花の方が千倍大事だ!」
ばっと体を起こし、唯花を抱え上げて廊下をダッシュ。
吐きそうな時はトイレへ向かうのが常識だが、唯花の場合は部屋に戻った方が楽になる。
青白い顔で「わーい、お姫様だっこだー……」とのんきなことを言うお姫様を抱え、どうにか部屋への帰還を完了した。
しかし昼間に廊下まで出てくるなんて、実際、すさまじい進歩だと思う。
あまり無理はしてほしくないが……ここまで本気を見せられたら、こっちも本腰を入れなければならない。
この先、どんな猛アタックを受けても、耐えきってみせる。
そう決意し、俺は弱った唯花を寝かしつけた。
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