第2話 放課後、今日も今日とて、幼馴染とアニメ観る。
「はぁ~、とろろきゅん、尊い。マジ美人……」
今日も今日とて、俺の幼馴染は引きこもっている。
今は深夜アニメをネット配信で見てるらしい。
さっきから吐息ともため息ともつかないものが背中越しに聞こえてくる。
「ねー、
ベッドの上から俺の後ろ襟を引っ張ってくる。
「あのなぁ」
引っ張られるまま仰け反り、俺は反転した視界でジト目を向ける。
「こっちは学校の課題やってんの。後ろでアニメ観るならまだしも邪魔はしないで頂きたい」
俺は小テーブルに教科書とノートを置き、学生の本分を真っ当中である。
いつも遅くまで唯花の部屋にいるので、課題はここでやるのが日課だった。
「でもとろろきゅん、本当尊いんだよ? 深淵なストーリーで人間の業の深さも学べるよ?」
「とろろきゅんさんのことは知らんが、人間の業なら幼馴染の怠惰さで身に染みてるから間に合ってます」
「えー、今日の奏太、ノリ悪ーい」
「ノリとか関係ねえから。俺、課題とか宿題とかは欠かさず提出するタイプだから」
「奏太って昔からそういうところあるよね。変なところで生真面目っていうか、潰しが効かないっていうか」
ずりずりとベッドの上で体勢を変え、唯花が両手で頬をつねってきた。
「あたしと学校、どっちが大切なのよー?」
「うわ、出た。男がげんなりする質問トップ5には入るやつ」
「まだ奥さんと別れてくれないの!?」
「それは範囲が狭すぎてトップ10ぐらいじゃないか?」
「今日のあたし、何かいつもと違わない?」
「うん、それはトップ3だな。男には絶対分かんないやつだ」
「え、分かんないの?」
「え、ガチの質問なの?」
俺が目を瞬くと、唯花は頬杖をついて覗き込んでくる。
こっちを見定めるような目だ。
「はい、問題。今日の唯花ちゃんはいつもと何が違うでしょー?」
……うわぁ、めんどくさい。
冗談だったのに、藪を突いてヘビが出てしまった。
「……パジャマがパンダ柄とか?」
「不正解。それはいつものことでしょ。あたし、奏太に会うから毎日パジャマは変えてるよ。気づいてなかった?」
「そんなところに気を遣ってたのかよ……。っていうか、俺がこなくてもパジャマは毎日変えろよ」
考えてみるが、分からない。
上下逆ではるものの、丸っきりいつもの幼馴染の顔だ。
だんだん唯花の頬が膨れてきた。……やべえ、ご機嫌がナナメになる。
何かで誤魔化さねば。
「あー……やっぱりアニメ観ようかな?」
「え、本当っ?」
「本当、本当。多少の息抜きは必要だしな」
「やった! 奏太も絶対ハマるから! 鬼神に腕食べられて刀付けたくなるはずだから!」
「それはなりたくなねえよ……」
ご機嫌が直った。
やれやれ……と俺はテーブルを片付ける。
唯花はウキウキ顔でノートパソコンを移動させている。
「良質なアニメはやっぱり誰かと一緒に観ないとね。ドキドキハラハラを分かち合いたいじゃない?」
「いいけど……一緒に観るのは難しくね? さすがに画面小さいぞ」
「あ、確かに。んーと、それじゃあ……」
唯花が思いついたのは、なんともアレな体勢だった。
俺がベッドに背中を預け、その俺に唯花が背中を預け、テーブルにノートパソコン。
後ろから抱き締めているような体勢である。
「……なあ、これはアリなのか?」
「グレーゾーン……な気もするけど、でもいいの! アニメは一緒に観なくちゃいけないの!」
「わ、分かったから振り向くなよ! 近い! 色々近くてマズいから!」
「しょ、しょうがないでしょ!? 良いシーンで奏太がどんな顔してるか見たいもん! キスしちゃいそうになったら奏太が上手く仰け反って回避して!」
「俺、背中がべったりベッドなんですけど!? 無茶な体勢で仰け反ったら首もげるぞ!?」
結局、アニメの内容はぜんぜん頭に入ってこなかった。
ここぞというシーンになると、唯花が本当に振り向いてくるので、まったく集中できないのだ。
1クールの半分まで観た頃には、二人とも変な緊張でバテていた。
唯花はベッド、俺は絨毯の敷かれた床でぐったりしている。
「そういやさ……」
「なあに……?」
「問題の答えはなんだったんだ? 今日の唯花のどこが違う、ってやつ」
「あー、あれね……」
もぞっと布団にくるまりながら、唯花は言った。
「正解は――今日、ブラしてません」
「分かるか、そんなん! ってか、ちゃんと着けろよ!?」
追伸。
翌日、学校にいってから課題やってないことに気づきました。
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