第53話 食事と、これからの事について



「それじゃあ、頂きます!」



「「「「「「…………?」」」」」」



 あ、あれ、もしかして頂きますって言う習慣無かったのか?

 おかしいなぁ……、ライはやってたんだけど……



「ほ、ほら、皆も俺に続いて!」



「「「「「「い、頂き、ます?」」」」」」



「よしよし、じゃあ皆、たらふく食べてくれ!」



 翌日、俺は子供達を集めて、食事を振る舞った。

 初めは恐る恐るといった感じで手を出していた子供達も、料理が美味いとわかるや否や、かき込むようにして食べ始める。



「あ、あの!」



 俺も一緒になって食事を楽しんでいると、アンナ達姉妹とコルト、ロニーの年長組が、俺の傍までやって来て頭を下げる。



「こんな食事まで出して頂き、本当にありがとうございました!」



「別に、俺は当たり前のことをしただけだよ。それより、この料理を作ってくれたのは集落に住むご婦人方なんだ。お礼なら彼女達に、ね」



「「「「はい!」」」」



 城内には、一応食堂のような場所を用意している。

 集落のご婦人方の働き口にする予定だったが、早速役に立ったな。





 …………………………………………



 ……………………………



 ………………





「さて、全員食べ終わったみたいだな。それじゃあ、ご馳走様でした! はい続けて!」



「「「「「「ご馳走様でした!」」」」」」



 うん、うん、元気で結構。

 子供はやはり、こうでなくてはな。



「さて、それじゃあ、そのままでいいから聞いてくれ。皆には今後、この城で生活を送って貰おうと思っている。君達の部屋については、あとでソクが案内するのでそれに従ってくれ。ただ、ここに住むのはもちろん強制じゃない。もし出ていきたいと言うのであれば、俺や他の大人たちに伝えて欲しい。……ただ、現状君達は狙われている可能性がある。その危険が取り除かれるまでは、悪いけど城内からは出ないで貰いたい」



 俺の言葉に、子供達は顔を見合わせる。

 皆揃って、困惑の表情だ。



「あ、あの、危険っていうのは、やっぱり魔獣のことでしょうか……?」



 そう尋ねてきたのは、小人族の集落の生き残りの少年、ヘンリクだ。

 その隣ではヘンリクの妹、イーナが怯えた様子でヘンリクにしがみ付いている。



「……そうだ。あの魔獣達は俺達が全て退治したが、どうやらあの魔獣達を操っていた黒幕がいるらしい」



 魔獣使い、リンカに説明を受けたが、かなり厄介な相手だ。


 先日俺達は、40匹以上もの魔獣を討伐した。

 しかし、この森全体で見れば、それは一部でしかないのである。

 それはつまり、魔獣自体の補充はいくらでも可能ということを意味する。

 なんとも恐ろしい話だ。

 ただ、どうやら無尽蔵というワケでも無いらしい。


 リンカの話では、どんなに優秀な魔獣使いでも、一度に契約できる魔獣の数は50程度らしい。

 つまり、先日俺達に手駒を討たれたことで、魔獣使いは確実に補充が必要となるのだ。

 俺達はそのタイムアドバンテージを利用し、これからの対策を練らなくてはならない。



「トーヤさん、これから、どうするつもりですか?」



 コルトが尋ねてくる。

 他の子供達とは違い、その目から怯えは感じられなかった。

 正確な年齢は聞いていないが、随分としっかりした少年に見える。



「……まずは周囲の調査だ。それから、近隣の集落への呼びかけも必要だな」



 その二つについては、既にゲツ達が対応中である。

 ただ近隣集落への呼びかけについては、少し難航しているらしい。

 どこの集落も、基本的に閉鎖的であるため、中々他所の集落の使者を受け入れてくれないのだ。

 それでも一応、魔獣襲撃の恐れがあることは伝えてもらったが、果たしてどう動くやら……

 ……まあ、自分達で脅威に対処できる戦力があるのであれば、それはそれで構わないのだけど。



「……あの、調査とかなら、俺達にも協力させて貰えませんか?」



 コルトが恐る恐るといった感じで申し出てくる。

 しかし、流石に子供の力を借りるワケにはいかないだろう……



「……それは駄目だ。危険すぎる」



「いえ、トーヤ様、調査ということであれば、私達は必ず役に立てる筈です。どうか協力させて下さい」



「姉さん……?」



 姉が見せる積極性に、アンネは少し違和感を覚えたようだ。

 他の子供達も、アンナを見て意外そうな顔をしている。

 正直、俺だって驚いているくらいだ……

 何せアンナは、昨日までとは雰囲気自体が変わってしまっているからな。



「トーヤ様達にはとても感謝しています。だからこそ、その恩義に報いさせては頂けないでしょうか?」



「……俺からもお願いします。俺達では、死んだティティ達のかたきを討つことはできません……。だから、せめて他の面で協力させて欲しいんです」



 コルトはアンネの様子に一瞬戸惑いを見せたが、すぐ気を取り直してアンナの言葉に続ける。

 ……しかし、死んだ仲間のかたき討ち、ね。

 それを言われてしまうと、何とも悩ましいな。



「うーむ……」



 いくら調査だけとは言っても、危険が無いワケではない。

 彼らの身を案じるのであれば、やはり協力させるワケにはいかないだろう。

 しかし、コルトの言い分もわからないでは無いし……

 俺が迷っていると、ふとアンナがこちらを見て笑っているのに気づく。

 まるで全てをわかった上で、それでも譲らないと言わんばかりの雰囲気である。



(……この娘には適わんな)



「……わかった。コルト君とロニー君は、探索部隊に協力をお願いするよ。アンナちゃんは、俺と一緒に夜間部隊に入ってもらう」



「あ、あの、私も……」



「アンネちゃんは、ここで他の子供たちの面倒を見てくれると助かる。年長組が全員抜けるのは心配だからね」



「……アンネ、俺からも頼む。もしもの時は、エステル達のことを守ってやって欲しい」



「……うん、わかった。コルト達も、気を付けてね……?」



 ……本当に、しっかりとした子達だな。

 まあ、彼らがそうなるに至った経緯を考えれば、正直少し複雑ではあるが……



(ん……?)



 そんなことを考えていると、アンナが俺のことを嬉しそうに顔で見ているのに気づく。

 やれやれ、何ともやり難いものだな……



「……さて、それじゃあ皆、一旦部屋に戻っていてくれ。っと、そうだ、アンナちゃん達姉妹はちょっと残ってくれるか?」



「「……? は、はい」」




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