第49話 魔獣襲撃の考察



 ――――レイフの城・軍議の間



 露天風呂で汗を流し終えた見回りチームと合流し、軍議を開始する。

 この軍議の間も、キバ様の城と遜色の無い出来栄えであった。

 ソク、凄すぎ……


 現在、この部屋に集まっているのは俺、リンカ、イオ、ガウ、ライ、ザルア、ソク、ゾノの8名。

 それに加え、コルト、アンナ、アンネ、ロニーの4名にも参集してもらっている。


 他の3人は、まだ幼いということもあって、早々に寝かしつけておいた。

 この4人にも本当は休んで貰いたい所だが、事が事だけに事情を聞いたうえで、早々に対策を練らなければならない。



「早速だけど、今日あったことを順に説明して貰えるかな?」



「……はい。俺達はあの洞窟を住処にし、生活していました。今日はロニー達4人が食料調達、俺が薪割りなどの家事を担当し、アンナとアンネは陽の光に弱いので、洞窟内で妹たちの面倒を見て貰っていました。しかし、昼を過ぎてもロニー達が帰って来ず、おかしいと思った矢先に、奴らの襲撃にあいました」



 その後は、俺達が到着するまでの間、ずっと洞窟に立て籠もっていたようだ。

 アンナという少女は盲目でありながら、気流の操作に長けており、周囲の空気の変化を敏感に感じ取ることができるらしい。

 その能力のお陰で、魔犬の奇襲も免れられたそうだ。



「俺達、食料調達担当は、木の実やキノコの採集をしている所を魔犬に……。俺は木に登っていたから難を逃れましたけど、地上にいた三人は……」



 ロニーという少年は、嗚咽混じりにその時の状況を語る。

 目の前で仲間が食い殺されるのを見たのだから、相当キツイものがあっただろう。

 泣くのも当然の反応と言えよう。



「……すまなかった。俺達がも少し早く駆け付けていれば……」



「い、いえ、他のみんなを助けて頂いただけで、十分感謝しています!」



 ロニーは気丈にもそう言ってくれるが、俺の中では煮え切らない気持ちで一杯であった。



「しかしそうなると、ほとんど情報がなさそうだな……」



 ゾノが苦い表情で呟く

 確かに、彼らの話を聞く限り、俺達の持っている情報とそう変わりはないように思える。

 せめて何か目撃したとか、手がかりがあればと思ったんだが……



「……あの、一つ気になったことがあるんですが……」



 恐る恐るといった様子で、アンナが手を上げる。



「気になったこと?」



「は、はい。先程も説明した通り、私は気流を通じて、周囲の状況や対象の精神状態などを探ることができます。だから、壁の向こう側の状況は頻繁に確認していたんですが……、妙なんです」



「妙、っていうと?」



「その、上手く説明出来ないのですが、魔獣の殺気が、ほとんど無かった気がして……」



「魔獣の殺気が無い……?」



「はい。魔獣からは本来、強い殺気が感じ取れるのハズなのです。でも、あの魔獣達にはそれが無かった。むしろ、それ以外の何か違う意識が感じ取れたような気がして……」



「……ふむ」



 実の所、それについては俺も疑問に感じていた部分であった。

 魔獣は基本、それが同族であったとしても、仲間意識が極端に薄い生物なのだ。

 利害が一致していれば別だが、そうでなければ、親や群れの仲間であろうと関係なく牙を剥く……

 そんな生物が、同族どころか別の種族まで巻き込み、群れとなるケースなど聞いたことも無い。

 何か別の意識が働いているとしか思えなかった。



「トーヤ殿、それについて、少し心当たりがあるんだが……。これを見てくれないか」



 そう言って、リンカが懐から白い物体を取り出す。



「これは?」



「シシ豚の牙だ」



 シシ豚の牙? 随分と短いな……

 こんな短いシシ豚の牙は見たことが…………っ!?



「……これは、切り口か?」



「そうだ。見ての通り、この牙は根元で切り取られている。他の個体も、全て同じような状態だった」



 切り取られている、ということは明らかに人為的な手が加わっているということである。

 だというのに、あのシシ豚達は不死化などせず、間違いなく生きていた……

 これは絶対におかしい。

 死骸から切り取るならともかく、生きた個体から牙を切り落とすなんて芸当は、そうそうできることではない。

 イオのような達人クラスの腕を持つ者ならば可能かもしれないが、たとえできたとして、わざわざ生かしておく意味があるだろうか?

 シシ豚の肉は貴重な食糧だし、金銭目的であっても放っておく理由は無いハズなのに……



「森で生活している者なら知っていると思うが、シシ豚の牙は加工すれば色々な道具として流用ができる。街にでも持ち込めば、それなりの価値を持つ品として取引されるため、商品的価値も高い」



「牙が切り取られているのは、恐らくそういう理由だろうな。……しかし、だとしても腑に落ちないな。商売を目的に牙を切り取ったのであれば、何故シシ豚自体を生かしておく必要がある?」



 ゾノも、俺と同じ疑問を持ったらしい。

 他の者達も、森に住む者として当然その疑問に至ったようだ。



「……わからないけど、当然理由があって生かしておいたんだろうね」



 ライが言う通り、当然生かしておいたからには理由があるハズ。

 間違いなく、そいつにとっては、殺して食料にする意味以上の理由があったのだろう。

 しかし、その理由に俺は思い至らなかった……



「……『荒神』の研究施設でも魔獣については研究がおこなわれているが、まだまだ生態については未知の部分が多い。だから、今回の様なケースが無いとも言い切れないのだが……、一つ心当たりがある」



「心当たり?」



「ああ……」



 リンカは勿体ぶったような口ぶりで頷く。

 しかし、リンカの性格からして、恐らく勿体ぶるというよりは、確信が無いのかもしれない。



「……確信が無くても構わない。言ってくれ」



 俺が促すと、リンカは静かに頷き、口を開く。



「シシ豚を生かしたのは、恐らく戦力として保持しておきたかったのだと思う」



「戦力……? 馬鹿な、魔獣だぞ……? ……いや、まさか?」



「……ああ、恐らくだが今回の件、魔獣使いが関わっている。それも、相当な使い手がな……」



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