第36話 反省会と勧誘①



 ぼんやりとだが、意識が戻ってくる感覚がある。

 まだまだ完全に目覚めてはいないようだが、意識を失う直前の記憶ははっきりとしていた。



「………………」



 目を開くと、整った顔立ちの女性が俺の顔を覗き込むように見ていた。

 ついさっきまでゾノの厳つい顔を見ていたハズので、物凄いギャップである。



「な、なんでしょうか?」



「目が覚めたようですね」



「……はい」



 その女性、イオはそれを聞くと満足したように立ち去……



「って! ちょっと待って!」



「? なんでしょうか?」



「いや、なんか前にも同じような状況があった気が……。ってそれはともかく、……あの後どうなったの?」



 イオは戻ってきて座りなおす。

 戦闘中は所謂ビキニアーマーの様な装飾の為、正直目のやり場に困るのだが、今は普通の服装だ。

 それにしても、こうして大人しくしていると本当にどこかのお姫様のようである。


 ………………ハッ!?


 ぼーっと見惚れている場合じゃない!

 状況を聞かないと……



「……話し始めていいですか?」



「あ、はい」



「まず、魔王の側近らしき男が現れたのは覚えていますよね? あの後、まずは皆で片付けをしました。やはり魔王は凄いです。皆の倍は働きました」



 あぁ~、確かに、たくさん散らかしたしなぁ。

 地形レベルで変わっていただろうし、さぞ大変だっただろう。

 ……一応、木々は避けた場所を選んだんだんだけど、古木達、怒ってるだろうなぁ……

 ……って、んん?



「あの、魔王様も片付けに参加したの?」



「ええ、1番張り切っていましたよ。お馬鹿なガウ達も張り合っていましたが、速度で負けていましたね。情けない。……まあ、そのお陰もあって片付けは速やかに終わりました。今は打ち上げをしながら、トーヤが目覚めるのを待っています」



「そうか……、って! みんな待ってるのか?」



「はい」



「そういうことは早く言ってくれ……」



 慌ててベッドから這い出る。

 体は……、なんともないな……

 我ながら本当に頑丈な体だと思う。



「……まあ、待ってると言っても、皆楽しそうに宴会しているだけですけどね」





 ◇





 ここは……、ソクの家か。

 外が騒がしいということは、この家の前で宴会を開いているのだろうか?

 とりあえず、扉を開けてみる。

 すると……、



「ガッハッハッ! 次々ぃ!」



 ……何故だか腕相撲大会が始まっていた。

 たった今負けたらしきガウが、悔しそうな顔をしている。



「打ち止めかぁ!? ……って、おおっ! トーヤじゃねぇか! 目ぇ覚めたか!」



「……ええ、しかし、凄い状況ですね……」



 これって、昨日の祝賀会より盛り上がっているんじゃ……?

 いや、昨日は最終的にお通夜状態だったけどさ……



「オホン! キリも良いので、ここらで一旦真面目な話を致しましょう」



 魔王の側近らしき男が、わざとらしく咳ばらいして間に割って入る。



「なんだよソウガ、もう少しいいじゃねぇか……」



「駄目です。ここで切らなければ間違いなく明日まで続きますので」



「あ~、自分的にもその方が助かりますね」



 宴会をするのはいいのだが、現在の状況把握ができないと不安で仕方がない……

 みんな、良くこの状況で楽しめるよ……



「チッ! まあ、しゃあねぇか! ……よし、細かいことはお前に任せたぞソウガ!」



「ええ、わかっていましたよ。最初から……」



 ああ、この人……! きっとこの人が、俺の想像した苦労人だ!



「では、皆さまご静粛に。まずはこの度、魔王様のお戯れにてご迷惑おかけしたことを、深くお詫びいたします。並びに、お付き合い頂いたことに感謝を。私は魔王様……、獣王グラントゥースの側近を務めている、ソウガと申します。どうかお見知りおきを」



 ソウガと名乗る男が深々とお辞儀をする。

 魔王が狼ベースの獣人だとして、この人は猫系? な雰囲気だ。



「当初の目的としては、二頭のトロールの討伐を果たした皆様方に感謝状を贈るというのが主目的でした。そして、あわよくば我が軍に勧誘できないか、という副次的な目論見もありました。……しかし、魔王様がどうしても俺が行くと聞かなかったため、このようなことになってしまったのです。いえ、もちろんこうなることは予想できていましたが、魔王様はご覧の通りの方でして……」



「……オイ、ソウガ。それじゃ俺が我がまま言うガキみてぇじゃねぇか」



「いや、だってガキじゃないですか……。正直今回の件には、私も少し腹を立てていましてね……。だからキバ様が負けた瞬間を見た時は、正直胸がスッとしました」」



「クッ……、最近俺の扱いが増々酷くなっていやがる……。トーヤ……、恨むぜ……」



「えぇ!? そこで俺を恨むんですか!?」



 理不尽だ……



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