魔界戦記譚-Demi's Saga-
九傷
第一章 レイフの森
第1話 美形ゴブリンとの出会い
……目覚めると、一面にピンク色の世界が広がっていた。
いや、変な意味ではなく、文字通り空がピンク色なのである。
ピンク色の空なんて、普通存在するのだろうか?。
一体、どんな原理でこんな色をしているのか……
差し込む太陽光の射角の問題?
いやいや、それなら太陽か地球の位置が変わりでもしない限り変わるはずが……
となると、まさかスモッグだとか薬物汚染だろうか?
もしかして、ヤバい場所なのか?
ってあれ……?
そういえばここはどこなのだろうか?
俺はなんでこんな所で寝ていたんだ?
手を動かしてみる……、問題は、なさそうだ。
それから足も動かしてみたが、こちらも問題なく動く。
ひとまず上体を起こし、周囲を確認してみる。
「あ、気づいたんだね」
「っ!?」
急にかかった声に、俺は思わず飛び上がってしまう。
声のした方向を見てみると、そこには不思議な人間が居た。
否、人間系の生物……、か?
やや小柄な体格に尖った耳、それに禿頭……。こんな人種は見たことが無いぞ?
肌の色も灰色に近い色をしており、どの有色人種にも当てはまらない気がする……
「……? 大丈夫? ケガとかは無かったと思うけど。もしかして、頭とか打ったのかな?」
俺が混乱していると、その生物が心配そうに声をかけてきた。
良く見てみると、彫りも高めで結構美形だな……
「あ、いえ、痛みとかは無いんで、多分、平気だと思います」
なんとなく反射的に敬語で返してしまった……
まあそれは良いとして、体自体は本当に問題無さそうであった。
痛みは無いし、動かない箇所も無い。
ひとまず万全と言って良い状態だろう。
「そう、それは良かった! ……ところで、君はもしかして、人族だったりするのかな?」
「え……?」
「いやね、君を見つけたのって一刻くらい前だったんだけど、介抱しようとしたら、君の種族がわからなくてさ……。それで、一旦家に戻って本を取ってきたんだけど、特徴的に人族くらいしか当てはまらなくて……」
人族……。確かに俺は人……だよな。
それは多分間違いない、と思う。
ただ、鏡が無いから確認は出来ないし、実は化け物でしたなんてオチもあるかも知れないが……
触った感じ角も無いし、毛深いわけでもないから平気だと思いたい。
しかし、こんな質問をしてくるという事は、やはり彼は人間じゃなかったりするのだろうか?
人じゃ無いとしたらなんだろう?
まさかファンタジー的な生物? 名前とかあるのかな?
名前……、名前?
ってあれ? そういえば、良く考えてみれば自分の名前が思い出せないぞ?
これはあれか? 記憶喪失というやつか?
だとしたら、さっきの自分が人族って認識はどこから……?
「………………あの、俺って……、一体何者なのでしょうか?」
◇
「いやぁ~、まさか自分は何者かだなんて聞かれるとは思わなかった。久しぶりに笑わせてもらったよ」
「いや、あの、笑い事じゃないんですけどね……?」
俺が純粋な疑問から自分が何者かと尋ねたら、少しの沈黙の後に大笑いされてしまった。
腹を抱えてひっくり返って笑うとか、漫画以外で初めて見たぞ……
しかし、それで一つ分かったことがある。
俺には、そういった漫画の内容を含め、何故だか知識としては記憶が残っているのだ。
自分の事は、一切思い出せないのにである。
知識は存在するのに、その漫画をどこで読んだのか思い出せないという矛盾……
これは所謂、「エピソード記憶」の障害のように思えるが、こうも自分の事に関する記憶だけが消えることなんて、本当にあるだろうか?
不快感などは無いのだが、正直違和感だらけだった。
「ごめんごめん、本当に笑い事じゃないんだけどさ。あまりにも君の表情が、くっくっく……」
「はぁ、まあいいですけどね。別に、不安だとか焦燥感があるわけじゃないですし……」
「そう言ってくれると助かるよ。何しろ僕もまともに人と会話をするのは久しぶりでね。色々と気遣いが足りないのは許してほしい」
まあ、害意が無いのはわかる。
それに、ここまで屈託なく笑われると、毒気も抜かれるというものだ。
さて、自分の事はこれ以上考えても答えは出なさそうだし、今は置いておくとしよう。
まずは現状把握が最重要事項だ。
「ところで、ここは一体どこなんだ? 俺はこんなピンク色をした地域を知らないんだが……」
正直、こんなピンク色の空をした地域が地球上に存在するとは思えない。
いや俺が寝ている間に、薬物汚染か何かで変色した可能性もあるか……
だとしたら、もしかしたら目の前の彼も……
「あ、今何か失礼な事考えなかった?」
「え!? いや、君が何族か気になっただけだよ!」
半分くらいは本当だ。新しく何か違う人種が生まれた可能性も否定は出来ないしな……
でも、彼の反応を見る限り、少なくとも突然変異という可能性は無いのかもしれない。
「僕は種族的にはゴブリンさ。ただし、他の血も混ざっているらしくてね。純粋種ではないんだけどね」
「……ゴブリン?」
「そうだよ。あれ? それも知らなかった?」
いや、その単語自体は知っているが……
ゴブリン……、ゴブリンか……、そう来るとは思わなかったな……
まさかとは思っていたが、それでは完全にファンタジーの世界じゃないか……
「すまない、本当にここの事は何もわからないんだ。俺自身、なんでこんなとこにいるかもわからないし……」
「……成程ねぇ。まあ確かに、自分が何者かだなんて聞いてくるくらいだし、それもそうか」
彼はうんうんと頷くと、急に思い立ったかのように立ち上がり、手を差し伸べてくる。
これはもしかして、握手だろうか? ゴブリンにもそんな文化があるのか……
少し躊躇ったが、俺はその握手に応じることにする。
今更警戒したところで、どうしようも無いからな。
彼に悪意があったなら、初めからこんな回りくどい事はしない筈だし……
「よろしく。人族の……、生き残り君? 僕はライ。レッサーゴブリンのライだ。こうして出会ったのも何かの縁だと思うし、色々と協力させてもらうよ。……助け合っていかなきゃ、僕らは生きていけないからね」
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