5 おれたちの作戦
「来てるかな?」
高橋ナオキのプラグキャラ・ゼクスが、石野裕一のプラグキャラ・ウィリーに話しかけた。
ウィリーは太い眉に白い鉢巻をしめた熱血キャラ。ゼクスは青い長髪を背中に流した細身のキャラ。
二人はコミュニケーション・ロビーで待ち合わせして、自走路をたどってサッカー場へ向かっていた。
サッカー場も実はロビーのひとつで、サッカーができる広さと二つのゴールが置いてある、いわゆるひとつの「サッカー場」である。
ここでサッカーをしてもいいし、もちろん待ち合わせもオーケーだ。ただし、だだっ広いため、普通のプレイヤーはこんな場所で待ち合わせない。そして『スター・カーニヴァル』をプレイするような輩は、サッカーもやらない。というわけで、いつもサッカー場は人っ子ひとりいない場所として有名でなのである。
「だれも居なかったら、どうする?」ゼクスは嬉しそうに笑う。
「それはそれで、ひとつの伝説になるから、いいんじゃね」ウィリーは笑い返しながら、ゲートをくぐった。
ふたりは口をつぐんだ。
サッカー場のゴール付近に、100人近い人間が集まっていた。ウィリーとゼクスは顔を見合す。どちらからともなく破顔してゴールへ向かって走り出した。
ウィリーが姿を現すと、だれからともなく手を叩きはじめ、たちまちのうちに拍手喝采の渦が巻き起こった。
ウィリーは照れたように頭を掻きながら、皆を壁際のバーカウンターへ誘導した。
人数が多いので、カウンターの上に登ってウィリーは声をあげる。
「みなさん、本日はお集まりいただき、ありがとうごさいます。今回のワイルド・ホイール作戦を指揮させていただく、ワイルドストーン小隊長ウィリーです」
ぱちぱちと拍手が起こり、だれかが、
「堅苦しい挨拶はいらねえぞー」と茶ちゃを入れる。何人かが笑い声をあげ、ウィリーもつられて笑う。了解という意味で手を上げてみせる。
「では、作戦の概要を説明します。ここにいる全員で円陣を組みます。単純な戦法ですが、効果的だと思います。バーサーカーのベルゼバブが円陣のうちの一機に攻撃をしかけます。残念ながら最初に狙われたプレイヤーは助かりません。こちらの攻撃は、この最初の一機が倒されてからはじめます。倒されたプレイヤーの両隣のプレイヤーがベルゼバブに攻撃をしかけます。ベルゼバブはどちらかに反撃するため、距離をつめます。距離をつめられたプレイヤーは動きません。このプレイヤーの両隣のプレイヤーが距離を詰め、さらにベルゼバブに攻撃をしかけます。このパターンの攻撃を、こちらのプレイヤーが全滅するか、ベルゼバブが倒されるまで続けます。ただそれだけです。なにか質問は?」
最前列の一人が手を上げた。
「いまのパターンだと、円陣自体をベルゼバブの攻撃にあわせて、だんだん縮めていく必要があるよな? その指揮はだれがとるんだ?」
「おれがやります」ウィリーが答える。
「しかしこれは、結構難しい仕事だぞ。こういう言い方はしたくないが、ウィリー、きみにできるのか?」
ウィリーは口を引き結んだ。
「あたしがやろう」
かなり後ろの方に立っていた一人が手を上げた。皆が振り返り、人垣が割れた。
道ができてしまったので、仕方ない、とばかりに彼女は二人の仲間を率いて前へ出てきた。三人はおそろいの流れ星が描かれた紅のパイロットスーツを着込んでいた。
だれかが呻くようにつぶやく。
「赤の三銃士だ……」
ウィリーは目を丸くして、すぐそばのゼクスを見た。ゼクスがうれしそうにうなずく。
前へ出てきたルジェはカウンター上のウィリーにアイアン・アームで敬礼すると、にやりと笑った。
「約束通り、手伝いにきたぞ。円陣をコントロールするのはあたしがやろう。陣形戦ってのは、熟練が必要なんだ。あたしはいつも他の二人と組むときにトライアングルを形作って戦ってきて、かなりの経験値がある。実力不足ってことはないと思うけど?」
「ぜひお願いします、ルジェ隊長」ウィリーは手を差し出した。
「今回はお前が隊長だろ。よろしくのむぞ、ウィリー隊長」ルジェはウィリーの手を握り返す。
「おおっ」というどよめきと、拍手が二人をつつむ。
そのとき四人の男がゲートをくぐってサッカー場へ入ってきた。
それぞれが青やオレンジやグリーンといった違うカラーのスーツを着ているが、デザインはまったく同じ。貴族が着るような華やかな長衣にぴっちりしたパンツ。襟元には各人いろとりどりの宝石をつけている。
先頭のオレンジの長衣の男がちいさく敬礼した。胸に少佐の階級章をつけている。
「すみません、遅れました」
「あ、いえどうぞ」ウィリーが手でうながす。
「ははは、ぼくですよ、ウィリー隊長」オレンジの長衣が笑う。
ウィリーはきょとんとして、相手を見つめた。しばらくして誰だかわかったらしい。
「景か!?」
オレンジの長衣の男は不適に笑った。
ちょっと見ただけでは分からないが、眼鏡をとった景の素顔をほんのすこし凶暴に調整したゲーム用のプラグキャラだ。
「すみません、ウィリー隊長。隠すつもりはなかったんですが、ぼくのゲームキャラクターはみなさんよりかなり階級が高いので、一緒にプレイするなら体験パックのサブキャラの方がいいかと思いまして、ケイを使ってました。普段はここでは、こっちのキャラクター、ウィザード・ゼータを使ってます」
「ウィザード・ゼータ……」ルジェが小さく息を呑む。「ウィザード隊の隊長の?」
「はい。ウィザード・ゼータというのは、ぼくの好きなマンガの主人公なんです」照れくさそうに頭をかき、後ろの三人を紹介する。「白いのがビショップ、緑色がエフ、青がマギです」
「ウィザード隊?」だれかがうめくような声をあげる。「あのウィザード・シリーズだけで構成されるワンメイク・チームか?」
ウィリーは知らなかったが、草部景のゲームキャラクター・ウィザード・ゼータが率いる小隊、ウィザード隊はかなり有名なようだ。その名前をきいたプレイヤーたちがどよめくような歓声をあげた。
そこへ遅れてきた古田のゲームキャラ・シュートが姿を現した。
約束のサッカー場へ来たはいいが、なにやら大群衆はいるわ、彼らがうねるようにどよめいているわで、おっかなびっくり近づいてみると、カウンターの上にウィリーが立っている。
きょろきょろしながらウィリーに近づいたシュートはたずねた。
「なんの騒ぎ?」
「どうやら、これからもの凄い作戦がはじまるみたいだぜ」
ウィリーは不敵に笑った。
「だれかが用意したり、オフィシャル側が提供したりした作戦じゃねえ。おれたちがおれたちの手で作る作戦だ。それがもうすぐ始まるんだ。その名も、『ワイルド・ホイール』作戦!」
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