フレンドシップ

千秋静

第1話

 隣で寝ている彼の寝息が聞こえてきた。


 私はその寝息を聞きながら、そっとベッドから這い出た。枕元に置いてあったスマホをつかんで隣のソファーに座る。11月の夜は冷えるが、まだ彼からぶつけられた熱が体に残っているせいか下着姿でいても寒さは感じなかった。


 ガラステーブルに置いてあるペットボトルの水をのどに流し込んだ。唇の端から零れた水が胸元に落ちたが気にはしない。それよりも日課だ。何より大事なルーティーンを始めなければいけないのだから、零れ落ちた水のことなど構ってはいられない。


 使い慣れたスマホであるアプリを開く。表示された画面にいつも面倒だと思うパスワードを間違えないように手早く入力して、3秒ほど待ったらいつもの画面が開いた。基本のページから、登録している『友達』のページに飛んだ。そこにはちゃちな加工が加えられた大福の写真と写真を載せた主からの短いコメントが載せられていた。


 私はこの大福がどこの店で購入されたものかを言い当てることができる。デパ地下や有名店のそれではなく、毎日何かしらが特売されているようなスーパーの菓子売り場に無造作に置かれているであろう大福。連続して載せられている写真の中に写っている食べ物も同じ店で購入されたものだろう。毎日の投稿を見ていれば簡単にわかる。


 私はすかさずその大福の写真にコメントを打つ。


 『食欲の秋、満喫していますね(^^♪』


 コメント投稿のボタンを押したあと、私は満足気に頷いた。


 今日もこの女は私の手の中にいるのだと実感できた。



 

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