狐騎士の見た夢

 アルマ帝国が北部、サナート。

 アルマ帝国の国教が総本山。


 その、深夜。

 サナートの守護騎士、ハーゲン・クロイツは、夢を見ていた。


---


「聞こえているか?」


 もやに包まれた世界で、男の声が響く。

 ハーゲンは男に、ゆっくりと問い返した。


「お前は何者だ?」

おれは…………そうだな。“シュランメルト・バッハシュタイン”とでも名乗っておくさ」


 シュランメルト・バッハシュタイン。

 そう名乗った男は、ハーゲンに問いかける。


「今度はこちらが聞かせてもらおうか。そうだな……」


 一瞬の間を置いて、シュランメルトが質問を投げかける。


「お前には、かつて恋人がいた。違うか?」

「なっ……!?」


 その問いを聞いたハーゲンの目が、驚愕に見開かれる。


「何故、その事を知っている……!?」

「経緯は何でもいい。そしてその恋人の名前は、ネーゼ・アルマ・ウェーバー。違うか?」

「……正解だ」


 ハーゲンが、苦々しく肯定する。


「勘違いするな。おれはお前達に危害を加えたい訳ではない。お前達を守りたいのさ」

「その言葉、まだ信じる事は出来ないな」

「だろうな。いきなり現れてこういう事を言われても、にわかに信じる事は出来まい」


 シュランメルトは、静かに目を閉じて思案する。

 そして、ハーゲンに向き直った。


「だからこそ、おれは、いやおれ達は、自ら動いてみせる。おれの母であり、そして守護神でもある神、Asrielアスリールに誓って」

「神だと? Asrielアスリール、だと?」


 ハーゲンが疑問を挟む。

 それを見たシュランメルトは、たたみかけた。


「そして、お前達のえにしを取り戻す。ここに誓おう」


 その言葉と同時に、ハーゲンの視界がぼやけ始める。


「時間だな。では、今日はこれで失礼する」

「ま……待て!」


 ハーゲンが手を伸ばすが、何も掴まず――


---


 そして目を覚ました。


「はぁ、はぁ、はぁ……。何だったんだ、今の夢は……?」


 ハーゲンは自らも狐でありながら、狐につままれた気分になったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る