29
『よろしくおねがいします!』
『よろしくおねがいします!』
互いにゲーム内のカスタムルーム(部屋)にて、チャットで挨拶を交わし合う。
「緊張しますねー!」
「そうねー」
中条と逆上が、腕を伸ばし会話しながら軽くリラックス。
長柄とレンは至って静かだった。チーム内ボイスチャットでもほとんど喋っていない。
「長柄、大丈夫か?」
「ボコられる未来しか見えないんだが……? 手足が震えるンだけど!」
「そんなのは気にしなくていい。何事も経験だ」
2日後。
待ちに待った練習試合。
名のしれた、格上チームとの試合は初めて。
あまり練習時間が少ない上に、このレベルと相手できるのは最早僥倖という他ない。
「そういや、どうすればいいんだっけ……?」
「この間、さんざん教えたのを守ってればいい。まずは思うがままプレーしてみろ。一応今日は3試合とってある」
もう一度、暗記カードを覚えるかのように、長柄は自分の役割をしっかりと暗唱しつつ頭に叩き込んでいた。
「そういえば、部長ってロールどこなの?」
「ミッドですね」
「ミッドか……って事は、あいつが結構鍵を握ってるわけね」
レンが含みありげに呟く。
「よっしゃ、勝ち行くぞー!」
「頑張りますッ!」
腕をふって逆上がやる気を見せると、それに続いて中条もチーム全体の士気を高めようと鼓舞していく。
するとそれを遮るかのように、レンが「はぁ……」と呆れるようなため息の後に口を挟んだ。
「……やる気なのは結構だけど、どうせ結果なんて決まってるわよ?」
◆ ◆ ◆
試合開始。
自陣から互いにそれぞれのレーンに向かう。
開始から5分。
レーン状況は想定通りというべきか、トップのよしあきは特に変化はなくイーヴん。ミッドの逆上はちょっと不利。ボットの二人は厳しめと、全体でいえばなかなかに芳しくない状況だった。
「俺、リコールして回復してくる。中条さんそこ下がれる?」
「分かりました!」
「たぶん、それ無理だぞ」
中条と長柄が喋っているところに、よしあきが未来予知するかのように告げる。
「もう挟まれてるぞ」
「……え?」
数秒後。
ボットレーンの裏側のブッシュから敵がひょいっと顔を出し、逃げ場も為す術もなく、二人は倒される。
「もっと早く言ってほしかったです……」
「そういうのを察知するのも練習だ」
「どうやって、ですか?」
「そのHP状況になったらまず来ていると思った方がいい。レンだってトップ側にいたから、そこはリスクをかけるのはよくないな。常に頭の中で何パターンかを想定しながら動くんだ」
「なるほど……」
そんな会話をしている合間にも、ゆっくりとゲームは進んでいく……。
――ゲーム時間7分。
「ミッドレーン、もうちょっと後ろに下がって! 裏から敵来てるよっ!」
「……え!? でもこれ勝てるよ?」
レンの唐突な叫びに、ミッドの逆上が不思議そうな声をあげる。
HP状況としては悪くなかった。
逆上が7割。それに対して常磐は4割。
「それ罠だから!」
「これ、あたし行けるッ!」
「……だめ、あぁ、もうっ!」
格上に勝てるといった、そんなジャイアントキリングにも似た逸る気持ちが、油断を生じさせる。
『あめぇんだよっ!』
ちょうど同タイミングで相手のミッド――常磐が逆上に仕掛けに来て、ちょうど裏からきたジャングルと合流して、
「だからいったでしょ?」
「……なにあれはっや……」
感服にも似た声で呆然としていた。
ものすごい気迫に、思わず逆上も狼狽えてしまっていた。
「……あれ? でも《サイト》には映ってなかったよね?」
「たぶん置いた時に見られてない? それ」
「あー……たぶんそうだったかも」
《サイト》は、LGのほとんど暗いマップを照らしてくれる唯一の安全装置ともいえる存在。
相手ジャングルの位置を把握するには、基本そこに映った場合からルートだったいを予測することが多い。
「じゃあそれよ。相手はベテランなんだから連携をとって、敢えてそこを通らないように伝えてるに決まってる。だからそこのサイトは、ほとんど機能してないと思ったほうがいい」
その位置を知られてしまえば、ボイスチャットを使い、ジャングルが映らないようにすることは可能。
かなりの上級テクニックだ。
相手が安心してるという隙をつくことができるため、そうなれば
「要するに過信しちゃダメってこと?」
「まあ、そういうこと」
そうして、1試合目は20分というほぼ最短時間でゲームを終えたのだった。
「どうだった?」
「強かったなー……あーでもあれ勝てたのになーーー!」
「今までとはレベルが違いますよね……」
2試合目が始まる前のインターバル。
よしあきは、ブリーフィングとしてみんなからの意見を聞いていた。
「どう強かったとかあるか?」
「それは……何というか、威圧とでもいえばいいのか……」
「それは、プレッシャーのかけ方がうまいってことか?」
「そうですそうです。なんていえばいいのか……何してくるか分からなくて怖いんですよね」
「それはあったかも。HP的には有利なんだけど、負けてる感じがする」
「なるほど」
確かにあまり伝えてはいない部分だった。
そういうのは肌で感じて理解してほしい部分もあったが、よしあきも初心者だった頃はどう強い相手に立ち向かっていったのかといったのが分からない。
だからこうして意見を募っていた。
「……レンはどうだ? やってて何か思ったことはあるか?」
「あたしとしてはそんなにかな。チームとしては上手いだろうけど、個人に関しては平均よりちょい上でしょうね」
「……ほう」
「少なくともあたしの対面は、そこまで脅威に感じなかったわ」
確かに、レン自身ガンガン相手サイドのジャングルに入って、時にはソロでキルを取りにいっていたシーンもあった。
「結構ディフェンシブな気がする。なんか型通りっていうか……イレギュラーな事態には対応できなさそうには見えたかな」
そこまで言って言葉を切ると、
「ま、手抜いてるかもしれないから実際は分かんないけどね」
確かに。
軽いウォームアップ程度だと思われてる可能性だってある。
「よしあきさん的にはどうでした?」
中条が聞いてくる。
「まだ何ともいえないのが本音だ。
それよりあと2試合も集中していくぞ」
よしあきは立ち上がると、軽く首をまわしながら、自分の席へと戻っていった。
◇ ◇ ◇
2試合目も25分たたずうちにあっさりと負けて、現在3試合目へと突入していた。
ゲーム時間26分。
劣勢であることに変わりはなかったが、1試合目に比べればかなり伸びて持ち堪えていることはできている。
序盤の戦い方を相手から学びとったのか、うまく対応できている。
キル :7対23。
タワー :2対6。
端的に言って、勝ちはほぼ絶望的といえる。
しかし、水瀬レンは諦めていなかった。
「この試合、《リヴァ》を取れれば勝てる可能性あるわ。そこからゆっくり立て直していけばいけるかも」
レンが視界を取りにリヴァの方へと向かうと、途中で常磐を見つけた。
チャンスと思い、すぐにレンは、キルを取りに相手を捉える。
相手の動きは何とも鈍く、まるで初心者のようならしからぬプレーだった。
『あ、ごっめーん!』
そう思った矢先、同時に聞こえるのは敵からの不快極まりない声。
常磐だ。
『あまりに弱くて、
「……くっ」
相手を神経を逆撫でさせるような、なんとも典型的な口撃。
絶望に負けているこの状況では、そんな子供じみたものに対しても、歯を食いしばり耐え抜くことしかできない。
『なぁお前、何でそんな初心者ばっかのとこ入ってんの?』
『……』
『もったいねえよ。それともアレか? 問題児だったりするのか?』
『……』
『昔入ってたチームが弱くて抜けたとか? それとも……』
『友だち裏切った、とか?』
『うるさいっっっ!!!!!!!』
突如、癇癪にも似た
レン自身、ほぼ条件反射で叫んでいた。
『……ふぅっ。ようやく喋る気になってくれたじゃんか』
一方で、常磐は至って冷静。そんな声を聞いているだけで無性に腸が煮えくり返りそうになる。
『……なに?』
『どっか別のチーム入れよ』
『興味ない』
『嘘だろ。お前みたいな上位プレーヤーは勝たなきゃ気が済まないはずさ』
『あなたと一緒にしないでくれる』
『そんなことはないだろ。ザコ相手に無双したって、ゲーマーとしての心は満たされない。けれど強いヤツ相手には、味方が弱くて勝てないからもどかしい。そんなとこだろ』
『違うッッ!』
心の中を見透かされてるようで、思わず反抗する。
それからすぐに敵とのボイスチャットを切ると、距離を取って、
(……何なのあいつ、ほんとに腹立つ……!)
心の底からふつふつと湧き上がるゲーマーとしてのプライドを何とか押さえ込み、ゆっくり息を吐きつつ、プレーに集中しようと戒める。
集中しろ、と己に念じる。
しかし。
それに少しでも動じてしまったのが運のツキ。
心が、乱れる。メンタルが崩れる。
「レンレン挟まれてるよ! 映ってる!」
「……え?」
気付いて、いなかった。
普段の彼女からは考えられないようなありえないミス。
心の乱れは、プレーにも影響を及ぼす。
「レンレンもしかして疲れてる?」
「たぶんそうかもしれません」
「……っ」
彼女たちに心配そうに声をかけられるのが、よりさっきの悔しさを助長させるようで……。
だから何も言えない。言葉に出せない。
「……何か言われたのか?」
「……そういうわけじゃないわ」
よしあきの質問に拒絶するような意志のこもった口調ではっきりと否定する。
そして。
3試合目も特に逆転劇はなく、あっさりと終わり……。
結果。
3試合全敗。
内容も、ほぼパーフェクトゲームといえる完封負けに近いもので……。
――こうして、初めての鏡見高校1部である部長たちとの練習試合を終えたのだった……。
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