第21話 



「急で悪いが、昼から練習試合をしようと思う」


 メンバーがあつまってから約一週間後。

 よしあきは、ついに練習試合の決心を固めた。

 長柄にもLGを教え込み、ゲームの流れ自体は理解させてある。


 これならそこそこ形としては成り立つはずだ。

 何より一人の為にそこまで時間のリソースを割いていては、逆に四人の方が遅れてしまう。

 それに場数を踏むんだったら、一番5vs5の練習試合が効果的。


「ようやくかぁーーっ」

「ほんとに緊張しますね……」


 待ちくたびれた、と言わんばかりにぐっと伸びをしてアップする逆上と、指先を擦り合わせる中条。


「つーか、俺まだ何すればいいか全然分かんないんだけど……?」

「それに関しては問題ない。いや、本音を言うと問題だらけだが……さっさと揉まれた方がいい。相手にもおんなじロールのやつはいるんだから、そいつを見てれば結構参考になる」


 実際に揉まれた方が上達は早くなるだろう。

 百聞は一見にしかずだ。


「今日は3試合やる予定だからゆっくり何かを学んでいけばいいさ。後は基本的に中条に従っていくように」

「よ、よろしくおねがいします……」

「あ、あぁ……よろしく」


 何ともぎこちない会話がボイスチャット上で交わされる。

 リアルだったらお互い会釈でもしていそうだ。


 リーグ・グロリアスで練習試合スクリムをする場合は、募集掲示板で相手を見つけるのが一般的だ。

 プロチームになると専属でそういうマネージャーがつくのでまた話は別だが、普通のプレーヤーだったらここで十分。

 掲示板では実力別にわかれているので、自分のチームに合った相手を見つけられる。

 

「それで相手はどのくらいなの?」

「ゴールドからプラチナくらいだな」

「なにそれ……」


 相手の実力は予選の2~4回戦辺りに戦うであろう相手。例えるなら地区大会クラスだ。

 決して強いわけではないから、実力のあるレンにとっては少々物足りないかもしれない。

 が、まずはこれくらいで様子を見ようと思った。


 そうして、初めての練習試合が行われた。



 ◆  ◆  ◆



 結果。

 予想通りというべきか、よしあきチームの全勝で終わった。

 しかも、一試合あたりの平均時間は25分を切っている。この時間帯でゲームを決めるのは相当な実力差がないと難しい。 

 つまり、よしあきサイドの圧倒的勝利というわけだった。


 何といってもレンは本戦でも活躍できるレベルの実力の持ち主。

 このくらいの相手なら一人でも十分にゲームを支配する事は可能だった。


 よしあきは敢えて自分から目立ったアクションを起こさずに時間を伸ばすよう心がけたが、それでもだ。


「なんか物足りないわねー……それより」


 急にレンの語気が鋭くなったかと思うと、よしあきの方に詰め寄ってきて、


「……手、抜いたの?」

「そういうわけじゃない。見てたんだよ。ワンマンチームじゃ意味ないだろ?」

「ならいいけど……」


 不満そうな口ぶりなのが声だけでも分かる。


「それよりレン。お前はもうちょっと状況を冷静に見た方がいいぞ」

「なによそれ」

「思ったままの事を言ったまでだ。簡単なアドバイスとでも思ってくれりゃいい」

「それくらい分かってるわよ。……フン」


 不服だったのか鼻を鳴らしてくるりと背を向けるレン。何となく分かってたけど、聞き分けは……悪い方か。


「なかなか強かったですね……」

「私んとこはまあまあだったかなー」


 中条や逆上はレーンフェイズだけ見れば中々に苦戦を強いられていた。

 実力でいえばほぼ同等といっていい。後はスキルのクールダウンや射程差といった相性の問題だ。


「おーよしあきー。調子はどうだ?」

「あ、店長」


 と、ちょうどそこで聞き慣れた声が聞こえてきた。

 プラクティスルームに店長がきていたらしい。


「今はようやく練習試合スクリムをはじめたくらいですかね」

「例の部長チームとやらには勝てそうか?」

「分かってるのに聞かないでくださいよ……。今のままじゃほとんど無理に決まってます」


 この人は……まったく。どうしていちいちそんなことを聞いてくるのか。

 そもそもベスト8がどれくらい強いのかを知っていたのは店長なんだから、どれほど無理ゲーなのかなんて一番分かってるだろうに。


「ほとんどってことは、可能性はまだあるとみていいんだな?」

「…………なくはないですけどね」


 だとしたら、大前提としてもっと練習が必要だ。

 練習だけじゃない。彼らを倒すためだけのちゃんとした対抗策も練らなければならない。

 それはきっと、4人には相当な負担を強いるに違いない。


「怯えてるんだろ? あっちで負けた時みたいに。自分のせいで、チームが壊れないかって」

「……っ。そ、そういうわけじゃ……」

「お前は人のことを慮る傾向があるからな。だからあっちでも自分の意見を上手く言えてなかった。違うか?」

 

 的確な問いに、自分の心を見透かされたようで、ぶわっと額に汗が滲んでくる。

 そんな姿を見た店長は近寄って、よしあきの肩をそっと叩くと、


「ま、それは別に悪いことじゃない。いいことだ。でも、一度くらい直接聞いてみてもいいんじゃないか? エゴなんて誰もが持ってるもんなんだから」


 慰めのような言葉をかけると、踵を返して、去っていった。

 

















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