第20話 教訓
(なんだこれ……)
休憩室に戻ってくると、広がっているのはなんとも筆舌に尽くしがたい光景だった。
レンがソファーの隅っこでダンゴムシのごとく丸まっており、その両脇に逆上と中条が許しを請うような画。
どうみても何かやらかしたとしか思えない。
「何したんだよ……」
よしあきは間髪入れずに逆上に問う。
なんかやったのだとしたら、犯人はこいつしかいない。偏見かもしれないが、ちょっかいを出すのが一番好きそうな感じだから。
「ちょっと! 決め打ちで犯人呼ばわりするのはひどくない? 別にそういうんじゃなくてただ色々と喋ってただけで――」
「あ、でもでも、レンレンって実はよし――」
「(……言ったら口効かないから)」
「よし?」
喋っている途中で隣にいたレンにボソッとなにか囁かれ、逆上の言葉が急に途切れ硬直した。
それからあたふたと視線をどぎまぎさせてから、
「よよよーし、今日もLGがんばるぞー!」
手を挙げて、えいえいおー、と自分を鼓舞する。
なんといえばいいのやら……あまりにも無茶苦茶な軌道修正だった。
ま、正直喧嘩してなけりゃこっちとしては何でもいいんだが……とりあえずこの件の話は逸らしておいたほうがいいのかもしれない。
「それよりだいぶ打ち解けてきたな。前は普通にレンちゃん、とか呼んでなかったか?」
「そりゃね毎日接していれば自然とそうなるもんよ」
「でも、さっき初めてレンレンって呼んでたばかりじゃないですか逆上さん」
「細かいことはいーのいーの」
三人に関していえば、前よりもフランクに接しているように見える。
逆上は元々フレンドリーな性格だったからあまり心配していなかったが、中条やレンに関してはどちらかというと人見知りな傾向に見えた。
だからこそ、この進展はかなり大きいように思える。
ほとんど知り合ったばかりの三人がここまで互いに打ち解けられているのはアドバンテージになる。
これは、もしかしたら、チームの強みになるかもしれない。
◆ ◆ ◆
「な、長柄って言います。よ、宜しくお願いします……」
緊張した面持ちで長柄が皆に向けて自己紹介の挨拶をすると、すぐにチャットで囁きが飛んできた。
『おい、女子がこんなに多いなんて聞いてねえぞ』
『そりゃ言ってないからな』
『全員男だと思ってたんだけど……』
『細かい事は気にするな。男がすたるぞ。ちなみに全員LG経験者だから心強いと思うぞ』
『うぇ、なんかそれめっちゃ嫌じゃん……寄生みたいで』
別に気を落とすことなんてない、とよしあきが言葉をかけるものの、長柄は不満らしい。
まぁ、こいつもまだ中学生だから女子に対しては色々と複雑な感情を抱えているのだろう。プライドみたいなものがあるのかもしれない。女にゲームを教えてもらうのは嫌、みたいな。
「それで? 今日から練習してくわけ?」
「いいや違う。今日は座学だ」
「座学って……」
なにそれ、とレンが苦笑する。
「チームに必要なことって何だと思う?」
「そんなの個人の強さでしょ。個人が強くなけりゃLGは勝てないわ」
真っ先にレンが言う。何とも彼女らしい発言だった。
「確かにそれもある。他には? はい逆上」
「え? 私? うーん……なんだろ……戦略、とか?」
「それも確かに大事だな。レンの言うように個人技も大事だが、各々の知識もないとチームでやるときには勝てない。中条はどう思う?」
「連携、ですかね」
「そう。LGで言われているのは『ひとりひとりが一本の指だと思え』だ」
「一本の指? なにそれ」
「そのまんまだよ。手を使う時っていうのは、大体いくつかの指を連動させて使うだろ? 例えば……そうだな……小瓶とかの物を掴むとかだったら親指と人差し指と中指を使うみたいにさ。それぞれがお互いの役割を果たして一つの動作を成しているんだ。だから、自分が一本の指を操作してると思えって意味が込められてる」
へぇ、と逆上が呟く。
「LGをプレーする時の心得みたいなのにも散々書いてあるだろ? ティルトはするなって。突き詰めればそういうことだよ」
ティルトとは、合理的な判断ができなくなってしまっている状態の事。
チームゲームは、個人の実力ではカバーしきれない部分というものがどうしても出てきたりする。
言ってしまえばそれは宿命のようなもので往々にしてあるものなのだが、自分のミスでチームが負けそうな状態になると、人によってはかえって無理をしてしまうことがある。
本人はなんとか現状を打開しようと思っているのだが、実際はそこでもう既に感情的になってしまっていて冷静な判断やプレーができていない。
そうなった時点でほとんど負け。五人の内、一人でもそんな状態になってしまえば勝ちに持っていくのは厳しくなる。
「なるほどね」
「だからそれを意識して練習するようにすることだな」
◆ ◆ ◆
予選まで残り二週間。
先にすべきは長柄に一通りゲームを教えることだ。
「今日はオブジェクトについてだ」
「オブジェクト……?」
「獲得するとゲームが有利になる物って感じの意味だ。タワーを壊すとチーム全体にゴールドが得られるだろ? タワー以外にもそんなのがあるんだ。とりあえずマップの『g-3』地点を見てくれ」
「『g-3』? この窪みみたいなとこ?」
「そうそうそれそれ」
トップレーンからミッドレーン、ミッドレーンからボットレーンにはちょうどマップ全体がシンメトリーになるよう分断されるリバーと呼ばれる川が存在する。
そして、そのそれぞれの川の真ん中あたりに窪みが作られているのだ。
つまり、『g-3』と『c-7』に窪みがあるということになる。
「ここには、【アイ・ドレーク】っていうドラゴンがいるんだ。こいつを倒すと【龍の瞳】をドロップする。これを取ったプレーヤーは全スキルレベルを+1するっていう効果がある」
「強いのかそれ?」
「ゲーム内の最大レベルは21で、1レベル1ポイント。だからMAXでも6/6/6/3って形でしか取れない。けどこれを取ればスキルレベルの上限が開放されて7/7/7/4になるんだ」
ゴールドが入るわけではないので直接チームに恩恵があるわけではないが、間接的に後半の集団戦におけて強くなる。
LGの序盤はこのオブジェクトを取られないように注意しなければならない。
「反対に『c-7』の方には、【リヴァイアサン】ってのがいる。これは【リヴァ】って呼ばれてて、取ったチームに各プレーヤー300ゴールドと3分間、天恵バフが与えられるんだ」
「天恵バフ?」
「攻撃とか防御とか全ステータスが上がる最強バフだな。レベルが高いほどその恩恵もでかくなる」
LGの中盤から終盤はここを軸に動くといっても過言じゃない。
たとえ有利でも、これを取られたら一気にゲームの流れが変わることだってある。
「だからこの二つは取られないよう視界のコントロールが重要なんだ」
「『サイト』でか?」
「ああ。それを常にキープするようにしておいてほしい。それがサポートの役目だ」
「分かった」
そうして再びリーグ・グロリアスの世界に潜り込み、よしあきはひたすら己の知識を教え込んでいく――。
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