第15話 join forces with 4th
「――という訳で、こいつが新しいメンバーの水瀬レンだ。これから仲良くしてやってほしい」
水瀬レンと一緒に二階の休憩室に戻ったよしあきは、長らく待ってもらっていた逆上と中条に彼女のことを紹介した。
そんな二人を隣で見ていたレンは腰に手をあてつつ、彼女らを見定めるように鼻を鳴らす。
「ふぅん……これがあの【Yoshiaki】率いる大会メンバーってわけ? ――って、え? 女の子しかいないの?」
「ちょうど都合よく参加してくれたのが、たまたまそうってだけだ。変な想像はよせ」
「別にそんなことは全然してないけど! ――それで? 強いの?」
「いいや全然。お前よりは間違いなく弱いだろうな。二階級か三階級くらい下だ」
誇張なしにキッパリと言い切ると、「……冗談でしょ?」とシリアスな口調で言葉が飛んでくる。
しかしよしあきの至って真剣といった表情を見てか、レンの顔はみるみると青ざめていく。
「本当にこんなので勝てるの……?」
「それはまだ何ともいえない。今のところ目標はベスト8ってことになってる」
「…………」
レンが眉間に皺を寄せて、顔を歪める。不安に感じるのも当然。
勝利を求めて大会に出るには、あまりにも心許ないメンバーだ。
「……練習はどのくらいしたの?」
「今週はAIモードの難易度
「…………それだけ? ランクとかは?」
「まだ全然。これからだよ」
「…………」
はぁ、と溜め息をつきながら、こめかみの辺りを抑え頭を抱えるレン。
その一方で、よしあきもちょっとこれからに関しては不安だった。
上位ランカーは勝利に貪欲で、だからこそ性格が荒いプレーヤーも多い。
5vs5はチームワークが何よりも大切となる。チーム結成前から軋轢なんて生まれてしまえば勝利どころではない。うまく彼女たちとやっていければいいんだが……。
そんな憂いを覚えつつ、二人に目を向けると――
「え? なにこの子? めっちゃ萌えるんだけど……」
「か、かわいい……」
両者共に、さっきまでの待ち時間の不満を帳消しにしてくれるくらいには目を恍惚と輝かせていた。
確かに見た目だけならこいつは、ちっこくて人形みたいで大抵の人を惹きつけるレベルの容姿を持っている。見た目だけなら。
すると逆上は何やら物欲しそうな視線をよしあきの方に向けると、ぽつりとこう訊いてきた。
「ねぇ……触っていいの?」
「さぁ? 好きにすればいいんじゃないか」「ダメに決まってるでしょ!! ――って、ちょっと!?」
そう声を張り上げるものの、よしあきは欠伸をしながら椅子の方へ移動。知らんぷりを決め込む。
レンはすぐさま逆上の方に向き直り、髪の毛を逆立ててキッと威嚇する。しかし逆上は動じることすらない。
段々と開いていた距離が狭まり、そっと魔の手が伸びていく。
そして、
「っわぁ! なにこれ! すっごいモフモフなんだけどーーー!」
頬をつままれ、身体をぺたぺたと触られる。
「中条さんも触ってみなよ」
「え、いいんですか?」
「ほら、早くこっちこっち」「いいわけないでしょ!」
「じゃ、じゃあ遠慮なく……」
魔の手がもう一つ追加される。
「って、ちょっ!? どこ触ってるわけ!? ……はっ、ははっ、あはははっ! や、やめ……た、た、助けてよしあきーーー!!!」
「…………」(スマホ操作中)
やがて全身の力が抜けて、ぐったりとその場に崩れ落ちそうになるのを二人に支えられ、完全に
なるほど。
思春期の女子相手には、ああいう無理矢理押し切る感じの
それよりもホッとした部分が大きかった。
他人に対してアタリが強そうなレンを、これだけうまくやり込めているのなら大丈夫だろう。
逆上と中条が満足するまで、よしあきはリーグ・グロリアスの攻略Wikiを静かに眺めていた。
◇ ◇ ◇
「ほんっっと、最悪っ……」
疲労感を交えた言葉を吐きながら、椅子の上でばんばんと服をいやみったらしく手で払い悪態を吐くレン。
それから辺りをきょろきょろと見回しながら言った。
「というか、あれ……残りの1人は? 来てないの?」
「ああ、それならまだ決まってない。お前を含めて今のところ4人だ」
「…………はぁあっ!? なによそれ! 聞いてないんだけどっ!?」
「今言ったからな」
レンは憤慨した様子を見せるも、よしあきはコーヒーを啜りながら冷静に対処する。
すると横から中条が口を挟んできた。
「それより二人って仲いいですけど……もしかして、元々お知り合いなんですか?」
「いいや全然。さっき会ったばかりの初対面だ。まあちょっと絡まれて色々あったんだが……一応、店長の親戚らしいからな。ま、似たようなもんだろ」
「ねぇそれどういうこと!!」
きゃんきゃん子犬のように喚くレン。
そんな彼女を無視してよしあきは言葉を続ける。
「それにロールの方も問題なんだよな……」
「え? そうなんですか?」
「ああ。こいつはスナイパーだから中条と被ってるんだよ」
マークスマンは、チーム構成において基本的に1人というのがLGの
1チームに2人以上組み込んでしまうと、バランスが崩れてしまう。
前線を張るプレーヤーが少なくなり、
5vs5ではチームで戦うので攻め一辺倒ではなく、攻守バランスのとれた構成が必要なのだ。
しかし、大会までの残り少ない期間で慣れてないロールをやらせるというのも負担がかかってしまい、宜しくない。キャリーとタンクじゃ動き方が全然違う。
よしあきが悩んでいると不意に横からレンが、
「それなら問題ないわよ」
ぴしゃりと鋭く言い切ってから、
「私、これでいつもジャングルいってるから」
「………………は?」
驚きを隠せずにこの場にいたレンを除く全員が、「えっ」と目を見開く。
ジャングルに行くのは、ファイターやタンク、アサシンといった序盤が強いロールであり、後半型のキャリーにはあまりにも不向きすぎる。加えて、ジャングルは稼げるゴールドもレーンに比べて少ない。
LGにおいてそれは基本中の基本。あまりにも効率が悪く、理に適っていない。
人によっては、
だが、レンは自信たっぷりと胸を張り、
「任せておいて。それに倒せば全然問題ないでしょ? そこでゴールドや経験値は稼げるんだし」
「それはそうだけどさ……」
「じゃあそれでいいじゃない。5人で練習すらしてないんだから、そう判断するのはまだ早いんじゃない?」
「……そうだな」
そう呟きを漏らすと、よしあきは押し黙る。
「そんなことより、先にあと1人をどうにかして早く集めなさいよ」
「悪いが俺に参加してくれるような知り合いなんていないんだよ。お前らの方こそ、学校っていう人が集まる場所に毎日通ってるんだからそこで誘ってくればいいだろ?」
ぐっ……、とレンは口を噤む。
LGをプレーしていることを公言してない彼女に、友達を誘うなんていうハードルの高いことできるはずもなかった。
「それだったら、私が今度聞いてみましょうか?」
胸の辺りから、ちょこんと手を出しながら中条が声をあげる。
「いいのか?」
「参加してくれるかは分からないですけど……声くらいはかけてみますよ」
「助かる」
メンバーの件に関しては彼女に任せ、よしあき達は一度外に出て軽くリフレッシュしてから、再び練習を再開した――。
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