ツンデレだと思っていたヒロイン達に本当に嫌われていた?? 件

いのうえ

第1話 オンナはオンナである



  まず最初に言っておくが、俺はこの物語の主人公ではない。俺は単なる『選ばれし語り手』である。


  もう少し説明すると俺は『主人公』の中学時代からの腐れ縁、どこにでもいる平々凡々な普通の高校生である。

  ただ、物語の主人公たる小鳥遊勇一(たかなしゆういち)ーーーは、とんでもない女好きであった。


  思春期の男だから女にとても興味があるのは当たり前だろう。俺だってそうだ。

  だが小鳥遊の女への執着心は並外れていた。


  並外れていたというか、異常であった。

 


 


  「ちょっと、いい加減にして!! 付いてこないでよ!! 警察呼ぶわよ!!」


  長い黒髪をツインテールに結った、気の強そうな超絶美少女が横を付いて歩く小鳥遊たかなしを怒鳴りつける。

  胸は膨らみ始め、といった具合でブレザーの制服はお嬢様学校のそれであった。短めのスカートが風に揺れる。背の低い超絶美少女であった。


  「付いてくるな、か。そういう訳にもいかないね。だって、君は本心では僕の事を必要としているじゃないか」


  上のセリフは小鳥遊のそれだ。小鳥遊はゆったりと構え、ツインテ美少女の否定発言を軽くいなした。


  「はあ!? この私が!? 初対面のアンタを!? ふざけてるの!!?」


  「ふざけてなんかいないさ。君の目ーー綺麗な目だーーそう、君の目を見れば、君がどんな人間を求めているのか解るのさ。そして君は僕を求めているのだ」


  「悪いけど、アンタなんかを求めるぐらいならミドリムシの方を求めるわ。あ、お巡りさんこい(略)」


  そこへバッドタイミングでお巡りさんが自転車で通りかかったのである。


  その様子を隠れて観察していた俺と、小鳥遊の取り巻き数人ーーというか、同じく腐れ縁というかーーは、慌てて超絶美少女とお巡りさんの前に飛び出した。


  「す、すみません!! コイツちょっとアタマの調子が悪いんです!! 勘弁してあげてください!!」


  「あ、あの、根は悪い奴じゃないというか……。それすらも分からないというか……」


  「何だ君達、また僕の後を付いて来ていたのか」


  小鳥遊は悠然といった調子で笑った。

  ……お前、もうすぐでお巡りさんにしょっぴかれる所だったんだぞ? 分かってんのか?


  何とか超絶美少女とお巡りさんから離れたタイミングで、俺達は小鳥遊に話し掛けた。


  「おい小鳥遊よ、今度はまたえらく気の強い女の子に目を付けたもんだな」


  「本当にお巡り呼んだ子なんて初めてだったよな。オイ、ミドリムシときたもんだよ」


  小鳥遊はそんな事は何でもない、とでも言うように肩をすくめた。コイツは言う。


  「どうして君達はいつもいつももうすぐで攻略、といういい所で止めに入って来るんだい? 邪魔がしたいんなら言う、来ないでくれたまえ」


  「攻略って……。実際捕まりそうになってたじゃないかよ」


  我慢できずに、俺は小言を言った。


  「いいか? 女の子に『嫌だ』と言われたらすぐに引き下がるんだよ。で、次に行く。なのに何でお前はそんな簡単な事も出来ないんだ」


  「『次に行く』? 失礼だが、雪村ゆきむら、君は一度でも『行った』事があるのかい?」


  グサってきた。

  小鳥遊相手にグサってきた。


  「……でもよ」


  取り巻き兼観察者2号が零した。


  「小鳥遊、お前のナンパする女って、さっきみたいな超絶美少女だったり、美形だったり、やたら金持ちそうな女だったり、偏差値高い学校の制服来たやつらばっかなのな。なんでもっと普通の女探さないの?」


  「普通の女じゃつまらないからさ」


  愚問だとでも言うように小鳥遊は笑みを浮かべる。


  「いや、つまらないというのは適当じゃなかったかな。正確に言うと、普通の女は僕を求めていないのさ。上の上の女こそが、この僕を求めているのだ」



  小鳥遊勇一、16歳。

  上の上の女しか目に入らず、日々ナンパに明け暮れる男。

  そして毎回振られてもやれやれとばかりにそれを忘れてまたナンパを繰り返す。

  何回振られても立ち直り、繰り返す。


  俺達はこの小鳥遊に渾名(あだな)を付けている。


  ーー不死鳥(フェニックス)ーーと。



  「あ、やべ、予備校の時間だ」


  「俺も保育園に弟を迎えに行く時間」


  「良いお兄さんだなオイ」


  こうして取り巻き兼観察者2〜3号は去って行った。

  後に残されたのは俺と不死鳥のみ。


  ーーそう言えば、俺、不死鳥と2人っきりで喋った事無いような。

  何だか気まずい空気が流れているような気がする。


  俺はたまらず、何か適当な理由をつけて帰ろうとした。


  「え、えーと。俺もそろそろバスの時間が……」


  「良かったら、僕の家に寄っていくかい。すぐそこなんだ」


  「えぇ?」


  不死鳥のいきなりの提案に変な声が出てしまった。


  「君とは2人きりでゆっくりと話した事が殆ど無かったね」


  ヤツは続けた。


  「こんな事は言いたくないんだが。雪村、君は他の観察者クン達とは違う匂いがするね。とても高貴な匂いだ。是非家に来てくれたまえ」


  「あ、ああ……」


  高貴だとか言われて面食らった俺は、ついYESの返事をしてしまった。




  その頃ーー。


  「何よ、何なのよさっきの背の低い男……!」


  「この、私に気安く話し掛けるなんて……!!」


  「『綺麗な目』と言っていたわ、当たり前じゃない……!!! 言われなくたって分かってるわ!!!!」


  先の黒髪ポニーテールの超可愛い美少女が肩を怒らせてズンズンと歩いていた。その頰はピンク色に染まっていた。

  満更怒りのせいだけでもない。


  「何、何、何何何何……!!!! 分かんない、私、分かんない!!!!!」



  美少女はその愛らしいかんばせをグシャグシャに歪ませた。

  彼女は勿論処女でありーー


  そして『初恋』という物すら、まだ経験した事が無かったのである。


  答えは、簡単だった。彼女は小鳥遊勇一の術中に見事はまったのであった。

  だが初恋もまだの彼女はそのヤキモキした感情に何と名前をつけて良いのか分からず混乱していたのである。

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