恋がしたい、訳じゃない

優木

第1話 はじまり


「別れよう」

付き合って1年がたった頃だった。


「そう。」

それ以外に、何も思わなかった。


「お前、俺のこと好きじゃなかっただろう」


「……でも、私、最初にそう言ったじゃない」

嫌いじゃないし、サークル仲間の中では好きなほうだけど、

恋愛の好きとか、そういうの分からないけど良い?

って。


そしてあなたはそれで良い、って答えた。


「ああ、言ったさ。」悔しそうな声。


「でも普通、照れ隠しだと思うだろ」

照れ隠しなんかじゃ、ない

「付き合っている内に、何か変わると思うじゃないか」


何も言わない私に、彼はどんどん言葉を重ねていく。



「だって、分からなかったのだもの」

好きとか、嫌いとか、愛しているとか


「普通じゃないよ、お前」


いい人見つけろよ


そう言って彼は帰って行った。


いい人、ね。

私は分からないと言っているのに。

結局彼は理解してはいなかったのだ。


理解できていないのはお互い様か。



いつもそうだった。


告白されて、今度こそはと思って付き合っては、

今回みたいに振られる。


だって、分からないんだもの


「好きだ」

「愛している」


何でそんな風に思えるの?

私は他の女子と何が違うの?


恥ずかしげもなく(照れながら言う人もいたが)向けられる愛情に、

時には寒気すら感じてしまうことがつらかった。


同じ気持ちになれない罪悪感ばかり増えていく。


そんな状態で付き合う私たちのそれは、

単なる「恋愛ごっこ」だ。


少なくとも私にとってはそうだった。

意味も分からないまま、テンプレートに沿って、

相手が喜ぶことをして、

相手が望む言葉を返す。


私がしている「恋愛」は、

こどものおままごとと何が違うのか。



そして何より、


気持ち悪い


相手が、とか、行為が、とかよりも何よりも


そんな「恋愛ごっこ」をしている自分自身が、気持ち悪かった。



それでも、普通になりたくて、

皆と同じ気持ちを知りたくて、

私は同じ失敗を繰り返してきた。



ああでも、もう疲れたな……。

私は「普通じゃない」んだ。


今も、忘れない

大学3年目の秋

その日、私は「普通」であろうとすることをやめた。

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