楠の羽
いつみきとてか
第1話 流転の教会
人に誇れるほどのことを私はしたことがない。遺跡に潜り古代の文献を読み漁り知識を肥大させ知恵を絞り過去に生きたものが残した言葉を探っていった。
そんな私でも、妻と子を作り今では孫が私を心配しながら共に遺跡の探索をしている。
各地の遺跡を転々とするそんな途方もない旅の途中、偶然であった。
たまたま私が踏み入れた廃墟となった大天使メドラウトを信仰していた教会の放置された書物の一冊に書き記されていた内容に私は眉を潜め息をゆっくりと呑んだ。
【彼方に生きる同属へ、我が身に降りかかりし■■■■と大天使メドラウト様より頂いた言葉を伝え忘れぬために記す】
長年の探索で知識として昇華した古代文字の解読技術を持ってしてもかろうじて読める文字と劣化により解読できぬ文字、なにかの方言のように見える文字と文法。
しかし、書いてある意味に私は無意識的に震えた。
【どうか、どうか、■■がこの地に舞い戻らんことを祈る。そして、この書を手に取ったものに告げる。絶望を傍に置き希望の篝火を絶やす燃やせ、しかし必ず奴らは戻っていくる。来ている】
私の中で何かが告げられた。このときの為に私は生きているのだと。
「おじいちゃん。 大変!」
勢い良く開け放たれた教会の扉から孫のギネビィアが飛び出してきた。
その面持ちは慌しく異変を察知したというより異変を目撃したような青ざめた顔をしている。
「グルールがいきなり沸いてこの教会を目指して動き出してるわ。逃げーー」
その刹那、一瞬だが地面が揺れ振動し軋む。
教会の床は私と孫の会話を遮り床の崩落を持って中断される。
「ゆ、床が崩れてーーおじいちゃん」
「ギネヴィアァ!」
孫の声と共に私は地中の奥底へと転落していた。
私は落ちていく体の中で考える。これから私はなにに巻き込まれようと言うのか。
孫は何に巻き込まれてしまったのかと。
楠の羽 いつみきとてか @Itumiki_toteka
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