とある男の記憶

男は誰かに呼ばれていた、それが誰かはわからない、

そんな中体の痛みにうなされながら、目が覚めた。「み、水」男は水を求めていた。

途中髪の毛らしきものをつかんだ気がするが、その代わりにコップが手に渡されていた。

水だと思い一生懸命に飲んだ、うまい水だった。

こんなにうまい水は久しぶりなきがする。

誰かに上半身を起こされて、男は思った「俺は…誰だ?」目の前の女性は少し恐れていたような顔をしていたが、男の一言で記憶喪失を察した。

「アルーン、あなた…記憶が…」(アルーン? 聞いたことある名前だ)

「あなたは誰ですか?」

アルーンのその言葉に対し、

「あたしかい?あたしはソフィア・ソリア」

水のおかわりいる?との声に、アルーンは頷いた。

「ちょっと待ってなさい、今持ってきてあげるわ」

そういって水のお代わりを取りに行ったのであった。


セミロングの紫色の髪、自分より大きい身長、自分より大きい体、

だけど色気を感じるのは何故だろう?

そんなことを考えていると、ソフィアが水を持ってきてくれていた。

「何を考えていたのかしら?」

「いや、あなたが綺麗だなって思って」

「あら、ありがと」

振り返ってしまってソフィアの表情は見えない。



アルーンに水を渡して、「あなた、何も覚えていないの?」ソフィアが聞く

「何が何だがわからない、自分が誰なのかさえ、わからないんだ」

頭を抱えながらアルーンは苦しそうに言った。

「そう、ならここでゆっくりするといいわ、記憶のこともいつか思い出すでしょう」

なぜか嬉しそうなソフィアの声。

「林檎、食べる?」

「ああ、いただこうかな」

林檎をむいている、ソフィア。

「本当にここにいていいのかい?」

アルーンが聞く

「ええ、好きなだけいるといいわ」

そういった会話をしていると、

林檎がむけたようだ。

「はい、林檎」

「ありがとう」

林檎を一つ口に放り入れた、シャリシャリしてみずみずしくて美味しい。

「美味しい林檎だ」

「そう、よかった」

嬉しそうにしているソフィア

「体の調子はどう?」

「ああ、痛むけど、もう少し寝てれば治ると思う」

「私は少しでかけてくるから、ゆっくり寝てるといいわ」

そう言って部屋を出るソフィア

「ああ、ありがとう」

療養のためもう一度寝ることにしたアルーン


「新しい包帯買ってきたわよ」

ソフィアが新しい包帯を買ってきた。

「あぁ、ありがとう、そこに置いておいてくれ」

そう答えると、

「いや、私が変えてあげるわ」

そういって包帯を取り替えようとしてきた。

「自分でできるさ」

そう言葉を返したものの相手は止まらない。

「いい体してるわね」

包帯を変えながらも、体を触ってくるソフィア

「そうかな? もしかしたら鍛えていたのかもしれない」

「きっと随分鍛えたんでしょうね、じゃなきゃこんなに頑丈なわけないわ」

「だとすると鍛えていた自分に感謝だな」

少しポージングを決めるアルーン

「そうね」

クスッとソフィアが笑った。


あくる日アルーンは両手を天にかざしていた。

どうやら内功を鍛えているようだ。

恐る恐る、声を掛けるソフィア

「今、大丈夫かしら?」

「あぁ、大丈夫だ、何故か体が勝手に動いてね」

「どうやら内功の修行らしいわね」

「そうなのかい? 俺にはよくわからないが、今これをしていたらお腹が熱くなってね」

お腹をさするアルーン。

「ところで内功ってなんだい?」

「そうね、内功とは人の内なる気のようなものよ、どんなものかはいずれわかるわ」

楽しそうに言うソフィア。



そうして数日立った頃、すでにアルーンは立てるようになり、日常生活に何ら支障はなくなっていた。

「こんなに回復が早いなんて、これも内功ってやつのおかげなのかな?」

「そうね、内功のおかげでもあるわ」

「その修行は続けたほうが良いと思うわ」

ソフィアはアドバイスを送った。

「そうだね、終わった後は体がスッキリするから、これからも続けることにするよ」

素直に聞き入れるアルーン。



療養して一月が経った頃、さすがに何もしないことに堪えたアルーンは

「家のことなにか手伝わしてくれよ」

そういった。

「えぇ!? いいわよ、私がやるわよ」

そう返すが、

「いや、手伝う!」

と言って聞かないので、家のことを手伝ってもらうことにした。


療養して三月が経った頃、アルーンは自分で働くと言い出した。

「別に生活費なんていらないわよ」

そう言うソフィアに対し、

「そういうわけにもいかないだろ」

そう言ってきかないので、好きにさせることにした。


あくる日アルーンが働いていると、

「おめぇさんすげぇ量ものもてるな!?」

どうやら普通の人より物を持てているらしい

「そうですかね? 普通だと思いますが」

「いんや、その量は普通じゃねぇ、こっちとしては大助かりだが」

どうやらアルーンは働き先から重宝されているらしい。

おかげで半年はかかるだろうな、という予定が三月足らずで達成できたので、

ホクホクのアルーンであった。


療養して半年、アルーンは悩んでいた。

ソフィアに渡す指輪を選ぶためであった。

恵まれた内功のおかげで仕事ははかどり、予定していた額より大幅に良いものが買えそうであった。

日頃のお礼としてアクセサリーの指輪を買ってあげようとしたが、

いつの間にか婚約指輪をかわされていたアルーンであった。

「これ…いつもお世話になっているお礼だ」

そういってアルーンは指輪を渡した。

「え!? あ、ありがとう、私でいいの?」

そう聞くソフィアに対し

「君以外に誰がいるっていうんだ」

と断言したアルーン。

ソフィアはとてもうれしそうだった。


気がつけば周りから夫婦のように扱われていることがわかった、

自分が夫だなんておこがましいと思ったアルーンであった。

そうして月日は経つ、今日も今日とて働いてるアルーンをある人物が見つける、

「やっとみつけた……リズに連絡しなくては」

ケネスは急いでリズに報告した。


「ただいま~」

「おかえりなさい、あなた」

いつの間にやら、アルーンを呼ぶ声が、あなたになっているのに、アルーンは気づいていない。

「今日も大変だった」

「お疲れ様です」

「今日もまた夫婦に間違えられたよ~」

「あら、そうなの、私としてはそっちのほうがいいんだけどな?」

クスリとソフィアが笑う

「君にはもっといい人がいるさ、それとも僕で良いのかい?」

「私はあなたが良いわ、あなたじゃなきゃ駄目なの」

珍しく上目遣いのソフィア

「ありがとう、それならもっと君に相応しい男になれるよう努力するよ」

決意したアルーン。



ピンポーーン、幸せな日はそう続かなかった。

「王国から来ました、リズと申します、ソフィアさんのお宅はここであっていますか?」

「同じく王国からきたケネスと申します」

「ソフィーお客さんかい?」

風呂から出てきたのであろう、頭を拭きながらアルーンが現れた。

「アルーン……あなた!!!ずっと探してたのよ!!」

「本当にアルーンなんだよな、こいつ!心配させやがって」

急に二人が泣き出した。


「ちょっとお二方困ります、うちの亭主がなにか?」

ずいと前にでてきたソフィア

「亭主!? アルーンお前また結婚したのか!?」

ケネスが驚き、リズは驚きのあまり震えている。

「俺のこと知ってるのかい、でも申し訳ないけど、俺はお二方のことは知らないなぁ」

そう言ったアルーンに対し、勘の良いケネスは記憶喪失を悟って、リズに耳打ちした。

ケネスはソフィアに対して、アルーンに自身のことを話して聞かせたいと頼んだ。

ソフィアは渋ったが、アルーンは自分の過去が知りたいといい、ケネスから過去の一部始終を聞いたのであった。

「ここにいるケネスさんから聞いたけど、自分がそんな人物とは思えないなぁ、俺はここにいてソフィーと住みたいと思ってる」そう今の自分の心情を語ったアルーン。

「あなた……」ソフィアは嬉しそうにしている。


話をしている、外から急に爆発音が!

外にはネイオン数機いた、

「ようやっとみつけたぜぇ、アルーン元帥よぉ」

どうやら帝国の追っ手らしい、これはまずいとソフィアは家の地下室に向かった。


「ソフィーどこ行くんだい!?」「そっちは危険だ!」

そう言ってソフィアの方へ向かうのをケネスに止められるアルーン。

すると家の地下から急にネイオンが出てきた。

「見たことあるネイオンだ……うっ…」

頭を抱えるアルーン、戦いの映像が頭の中を駆け巡る。

これは自分の記憶なのだろうか?、わからないものがたくさん頭の中を駆け巡り、パニックになりそうだ。

ソフィアのネイオンと帝国のネイオンが戦っているうちに、何か思い出しそうなアルーンであった。

ソフィアのネイオンが、相手ネイオンを倒したときの爆発で、アルーンの記憶は完全に戻ったのであった。


「あなた!大丈夫!?」急いで駆け寄ってきたソフィアに対し、「あぁ、大丈夫だよ、ソフィアさん」と声を返したのであった。

「記憶が…戻ったのね?」そう聞くと、「うん、全部戻った」

「そう……それなら夫婦生活ももうお終いね……」

涙を流すソフィア。

「そのことなんだけど、もし一緒に過ごしていた、あの楽しかった記憶もあるって言ったら、ソフィー……また結婚してくれるかい?」

「あなた……!!!」

ソフィアはアルーンをこれ以上ないほどに抱きしめた。

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