第10話

 * * * * *


 どことなくぎこちないまま、俺たちはゴールデンウィーク前日までの三日間を過ごした。


 特に美樹は様子がおかしかった。授業で指名されても上の空だったし、普段の凛とした空気がない。


 クラスメートたちもそれには気付いたらしくて俺に訊きに来るコもいたが、さすがに答えにくくて「さぁ」と言って適当に誤魔化した。


 だって、なんと答えたらいいっていうんだよ?





 そして放課後。


 明日からは連休となるため、実家に帰るクラスメートも多い。みながなんとなくそわそわしている中で俺が寮に戻る支度をしていると、担任が手招きしているのが目に入った。俺のことかと指で示すとコクリと頷いて返してきたので、渋々ついていくことにする。


(一体、何の用事だろうか……)


 案内されたのは生徒指導室だった。他に生徒はおらず、廊下を行き交う生徒たちの声がわずかに聞こえる。


 扉を閉めて二人きりになったところで、ようやく担任の女教師である本橋先生は本題に入った。


「――あなたたち、何かあったの?」


 腰ほどの高さのスチール製の棚に体重を預け、腕を組みながらの台詞。やれやれ世話が焼けると言いたげな感じだ。


「えっと……それはワタシと冠城との間でってことでしょうか?」


 本橋先生がどこまで俺らのことを知っているのかはわからない。警戒しながら、探るように問いで返す。


「そう。――彼女は我が校の模範生徒。今はまだ良いけど、この状態が長引くと困るのよ」


 なんとも勝手な理由だ。俺は苛立つ気持ちを抑えて返す。


「模範生徒ってことはわかりますが、冠城だって他の生徒と同じですよ、先生。学校がどうとか関係ないと思いますが」


 やんわりと言うつもりだったのに、ついてでた声は思ったより語気が強かった。


「そうかしら? 『彼』には大事なことだと思うんだけど?」


(『彼』――彼って言った?!)


 俺は反射的にはっと目を見開いた。あからさまに動揺している。隠し切れない。


 本橋先生は口の端を上げた。


「――ヨシキ君がこのカサブランカに身を置くことを学院長が許可したのは教諭全員が知っていることよ。君も例外的に認められているってことも、ね。何故許可されているのかは明かされていないけど」


「そう……ですか」


 先生たちは美樹がこの聖カサブランカ女学院にいる理由を知らない――つまり、入学許可を決めた学院長だけが美樹の事情を知っていると考えられる。


 冷静さを取り戻して分析している俺に、本橋先生は話を続ける。


「でも、そんな例外だからこそ、君たちには他の生徒たちの見本であり続けてもらわないと困るわ。そのくらいの気持ちでいてくれないと、君たちを守ることはできないもの。だから、良い意味で影響を与え合う分には構わないけど、ギクシャクしてボロが出るようになるなら部屋を分けることも検討しないと――」


「ちょっ……そんな勝手すぎではありませんか!?」


 俺は慌てて割り込んだ。部屋を分けることについてはそれほどの不都合はないはずなのだが、気持ちとしては納得できなかった。


「そう言うなら、厄介なことになる前に収めてちょうだい。生徒たちの動揺が続くのは面倒よ。幸い明日からはゴールデンウィークに入るわ。その間にどうにかして」


「は、はい……わかりました」


 静かに俺が頷くと、本橋先生は教室を出て行った。

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